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しゅぞくまわる  作者: ナハァト
種族間戦争編
3/76

魔族代表者達、7人の女王達

 かつて世界樹があった中心の大陸「エデン」にある唯一の街「フィナーレ」。

 その外周にある六つの塔の内の1つ。魔族代表者達が居住する塔の中にあるリビングの1つに、戦争代表者達五人全員が揃っていた。

 中央に円形のテーブルとソファーが置かれ、そのソファーにそれぞれが腰を下ろしており、代表者達の内の1人が周りに居る者達へと声をかける。


「とうとう始まるなぁ~……ちょっとばかし緊張しちゃうな、俺……な~んて言いつつ、結局は俺達、魔族の勝利で終わるだろうし、気楽にいこうぜ、気楽にさぁ~」


 そう軽い感じで声を出したのは、貼り付けたような笑みを浮かべる魔族の青年「ロット・オー」。全身灰色の褐色の肌に、紫色の長髪。開かれているのか分からない糸目を自身の周囲へと向け、自身の言った言葉に賛同を得ようと、「なっ?」、「なっ?」と聞いているが、誰も賛同せず、ぶぅたれているそんなロットに対して少々怒り気味の声が飛ぶ。


「……全く、お前はいつも軽く考えすぎだ。向こうも死に物狂いでくるんだぞ、いくら自分達が強かろうが万が一という事もありえるのだ。油断して散るのは自身の命であると思え」


 ロットに対してそう言ったのは、灰色の肌に濃い紫髪の短髪。 強面の顔つきで、肉体も膨れ上がっている程の筋骨隆々の男性である「ヌルーヴ・ガガ」であった。

 ヌルーヴはロットに対してキツイ目を向けるが、当のロットはどこ吹く風だ。

 ロットは自身の左隣に居る男性へと声をかける。


「うへぇ~……出たよ。いつもの説教が。全く、そんな頭ガチガチでこれから先やっていけんのかよって感じだよね? 俺はいい感じに肩の力を抜きましょうって言っただけなのにさ! あんたもそう思わないか? ウルカ・ビビエン」


 ロットの視線の先に居た人物の名は「ウルカ・ビビエン」。

 灰色の肌に、男性でありながら長い紫色の髪を後ろで1つにまとめ、この中の誰よりも年を重ねた優しげな顔立ちをロットへと向けており、返答を考えるように顎に手を当てていた。


「確かロット・オーだったな?」

「そだよ~! 自己紹介は先程済ませたし、これから一緒に戦う仲間なんだから、ロットでいいよ~」

「なら、ロット。君とヌルーヴ・ガガはいつもこんな感じなのか?」

「そだよ~! ほんと一々俺の発言に絡んできてさぁ~……暇なのかねって感じ?」

「お前のその軽い発言をやめれば、自分も無闇に絡まんが?」

「それは無理だよ~、だって俺はこういう人間なんだからさぁ~!」

「だからお前とは気が合わんのだ……」


 ヌルーヴが辟易とした表情を浮かべるが、ロットはいつもの笑みのままだ。

 そんな2人に対してウルカも苦笑いを浮かべる。


「仲がいいんだな。まぁ僕としては、どちらの意見にも賛成出来るといったところだ。軍に居た者としては、程良く肩の力を抜くのも大事だが、緊張感を持たないのも、それはそれで困ると言ったところだな」

「さっすが軍人さん! 言う事が骨身に染みるなぁ~!」

「うむ。経験に基づくと言ったところか」

「一般論だと思うが?」


 ウルカの言葉に笑みを向け合う3人。

 そしてヌルーヴが自身の右隣に居る者にも声をかけた。


「言っている事の意味がわかったか?」

「……覚えました。つまり、ロット様とヌルーヴ様は相思相愛という事でしょうか?」

「「全然違う!!」」


 食い気味に声を荒げるロットとヌルーヴの視線の先に居るのは、1人の男性。

 名は「ファル・ワン」。外見は二十歳程の青年で、灰色の肌に白い髪。端正な顔立ちをしているのだが、感情がスッポリ抜けているような表情で、先程の問いも口だけが動いていた。

 2人に怒声を浴びせられたファルは目を閉じ、困ったように顎に手を当て表情そのままに悩むのだが、その姿からは答えが見つかりそうには見えない。


「……難しいです。一体どういう事だったのでしょうか? マスター」


 ファルは先程と同じように口だけ動かしながら、視線をある一点へと向ける。

 代表者達のちょうど中央に座り、周りの状況を楽しんでいたその人物は、ファルの問いに答えようと柔和な笑みを向けた。

 ファルと同年代と思われる若い青年で、少し長い紫色の髪に灰色の肌、この場の誰よりも整った顔立ちをしているその人物の名は「ユリイニ・サーフムーン」。

 魔族代表者達のリーダーであった。

 ユリイニは柔和な笑みのまま、ファルの問いに答える。


「そうだね、まだファルには難しいかな。でもそう思ったのは間違ってはいないし、落ち込む事はないからね。私自身も2人の仲はとてもいいと思っているし、こうして気兼ねなく言える関係というのは、見ていて羨ましくもあるかな。多分、ファルもその内そういう事がわかるようになるよ」

「……わかるでしょうか?」

「大丈夫。ファルは優秀だし、もう私達の仲間なんだ。こういう機会もこれから常に接していくから、まずはそう難しく考える事をやめて、この場の空気を楽しもうよ」

「……空気?」

「ちょちょちょちょちょっ! ユリイニ様! 俺とヌルーヴが仲いいとか、どこをどう見てそう思うんですか?」

「そうです、ユリイニ様。どう見ても自分達の仲が良好とは思えないのですが?」


 ユリイニの言葉にロットとヌルーヴの2人が否定の言葉を投げかけるが、ユリイニは変わらず柔和な笑みのままだ。


「ほら、そうやって2人一緒に声をかけてきてくれるだろ? ははっ、やっぱり仲がいいね。少し羨ましいよ」

「「ちが~うっ!」」


 ロットとヌルーヴのハモリにウルカも可笑しそうに笑みを浮かべたが、ファルは何が面白いのか? と表情は変わらず首を傾げるだけである。

 そして渦中の2人は、お互いに真似するなと言い合いを始め、その様子を微笑ましそうにユリイニが眺めていたのだが、2人の言い合いが取っ組み合いへと発展しそうな雰囲気になろうとした時、ユリイニが「パンッ」と手を叩き、自身へと注目を集める。


「さて、2人の仲がいいのが証明されたとして」

「「ユリイニ様~!」」

「ははっ、いいじゃないか。私としてはその方が好ましいし、それに2人は私の“剣”と“盾”なのだから、仲がよくないと困るしさ」

「「それはそうですが……」」

「それに、今考えなければならない事は別の事だよ。勝利のために、この場に居る誰も失わないように、しっかり対策を練っておかないとね」


 ユリイニの言葉に、この場に居る全員が真面目な表情を浮かべるが、ロットは直ぐに表情を弛緩させる。


「そうは言っても、ユリイニ様。俺達の最初の対戦相手は連戦連敗、最弱の「人族」ですよ~。考えるだけ無駄って感じですが?」

「まぁその点に関しては、自分もロットと同意見です、ユリイニ様」

「だよな~」


 ロットとヌルーヴは嫌そうにお互いの顔を見るが、意見を変える事はしなかった。

 それは他のメンバーも一緒で、ウルカもファルも決して反対意見を言う事はなかったのだが、ユリイニだけは困ったような笑みを浮かべる。


「……そう言う考えもわからなくもない。現に人族は前回というか、ほぼ最下位であり、対して私達魔族はほぼ全ての戦争で最勝利者となっている。けれど、だからといって、それで油断するのは違うよ。どんな相手だろうが、決して侮ってはいけない。それは死に直結する行いだよ。それに、どこの大陸でも出てくる代表者達は、ほぼ毎回違うんだ。たった1人の無双によって負ける事もありえるんだよ」

「「「「……」」」」


 ユリイニの言葉に四人の顔つきが引き締まる。


「私は皆に死んで欲しくない。だからこそ、誰が相手でも油断せず、持てる力の全てで対処していこう。そうすれば、私達は決して負けない」

「「「「はいっ」」」」


 ユリイニは4人の表情を見て満足気に頷くと誰もが見惚れるような柔和な笑みを浮かべ、「さぁ、行こう」と言って立ち上がり、4人の代表者達を伴って戦場へと向かった。


     ◇


 中央の大陸「エデン」、この大陸唯一の街「フィナーレ」。

 この街の中央にはこの地を支配している事を証明するような巨大な塔があり、この塔は統治者「ラナディール・エデン・ヘブンリー」が住まう場所でもある。

 その塔の中に、清潔そうな真っ白な壁面を基調としている円形の部屋が存在している。

 部屋の中には、空気を清浄化させるためなのか青々とした緑の植物が至る所に設置されているだけではなく、ある一角では小さな噴水のような場所もあり、耳に心地良い音色を響かせていた。

 そして中央には円卓が置かれ、そこに6人の女性が座っていた。

 この世界を統治する7人の女王達の内の6人であり、他には誰も居ない。女王達それぞれの前には視界を邪魔しない程度の大きさの、今は何も映っていないモニターと、その横には軽食とワインが乗っているカートが置かれていた。


「さぁて……もぐもぐ……いよいよ開幕だな!!く~、今度こそ私の大陸が一番を貰うからな!!」


 用意された軽食を口に入れ、ドワーフの大陸「ストーン」を統治するラナディール・ストーン・ヘブンリーが自身の銀色の瞳を輝かせ、獰猛な笑みを浮かべながら他の女王達へと鋭い視線を向ける。


「……またいつもの大ほら吹きが出た……威勢がいいのは最初だけ……どうせ私達エルフに負けるんだから……いい加減身に染みて欲しい……」


 ストーンの言葉に咬みつくように声を出したのは、エルフの大陸「フォレスト」を統治するラナディール・フォレスト・ヘブンリーであった。自身の緑色の瞳をストーンへと睨むように向ける。


「あぁ? なんだぁ、フォレスト!! やるってのか?」

「……前回、私達華麗なエルフは愚鈍なドワーフよりも順位は上だった……その事を理解した上で喧嘩を挑むといい……」

「……けっ」


 ストーンは一気に不貞腐れるとフォレストから視線を逸らし、肩肘をつくと、先程口に放り込んでいた軽食の続きを食べ出した。

 その表情は面白くないとでも言いたげに不機嫌そのもので、きっとそういう表情を今しているんだろうなぁ……と、考えながらストーンへと視線を向けているフォレストの顔は、にやにやと勝ち誇った笑みで、ご機嫌であり、勝者の余裕を醸しだしながらワインを一口含む。


「まぁまぁ、今回勝てば問題なしなんだし、そう不機嫌になるなって。戦争の勝利順位で私達の立場がころころ変わるのはいつもの事なんだからさ」


 ぶすっとした表情のストーンを宥める様に声をかけるのは、獣人族の大陸「グラスランド」を統治するラナディール・グラスランド・ヘブンリーであり、ストーンを見つめる水色の瞳は慈愛に満ちていた。

 グラスランドはそのままフォレストへと視線を向け、声をかける。


「フォレストも、あんまりストーンをからかわないでやってくれよ。もう少し仲良く出来ないのか?」

「……無理。エルフとドワーフの仲が悪いのは世界の常識。因果の理」

「そんな壮大な話になった覚えは無いんだけど……」

「いいや、それに関してはフォレストと全くの同意見だ!! つまり、私とフォレストの仲の悪さも世界の常識であり、因果の理、絶対運命ってやつだ!!」

「何で増えてるんだよ……」


 フォレストもストーンの言葉にうんうんと頷き、妙な所で意気投合する2人を、少し疲れた表情で見るグラスランドは大きくため息を吐いた。

 そんな3人の様子を眺め、「はっ」と鼻で笑い、自身の隣に居る人物へと話しかける者が居た。


「全く……“下”はくだらない争いをする。私達は同種の存在なのだから、もう少し礼節を持って接する事は出来ないものか……あぁ、それとも同族嫌悪とでも呼べばいいのだろうか? まぁそれこそ、くだらないと思わないか? なぁ、プレス」

「……」


 ストーンとフォレストのやり取りを鼻で笑ったのは、金色の瞳を持ち、金持ち達の大陸「パラダイス」を統治するラナディール・パラダイス・ヘブンリーであり、そのパラダイスに話しかけられているのを自覚してはいるのだが、返答もせず、まだ何も映っていないモニターを紫色の瞳で見つめているのは、魔族の大陸「プレス」を統治するラナディール・プレス・ヘブンリーである。


「やれやれ、相変わらずの無口だね、君は……もう少しコミュニケーションというものを覚えてもいいと思うんだけどね」


 そう言ってパラダイスは両手を軽く上げ、やれやれとでも言いたげな態度を取り、ある一角へと視線を向ける。


「……まぁ、最もそんな態度が許される立場に居るのがプレスであり、そんな態度が許されない立場に居る者も存在するのが私達の関係性だと思わないか? なぁ、アース」


 パラダイスの視線と言葉に、この場に着いてから未だ一言も言葉を発さず、俯き、この場の空気と化していたアースの体がビクッと少し跳ねる。

 ついに自分に話題が振られたかと恐る恐る視線を上げると、ストーン、フォレスト、パラダイスの3人が、弱者を見つめるようにアースへと視線を向けていた。


「おいおい、びくつくなよ。まだ何もしてないだろ? 私の嗜虐心を煽るんじゃねぇよ」

「……私達は同種の存在……もう少し堂々とすればいい……だけど、順位付けがある以上、行き過ぎた態度を取ればどうなるかは分からないけど」

「全く、災難だなぁ、アース。最も弱い人族の統治者になるなんて……今回で何回目の最下位になるのか、もう数えられないよ……せめて、私の様に数多の種族が集まる大陸の統治者であれば、今とは違う状況であったかもしれないのに」


 3人の言葉にアースは何も言い返さず、ただただ俯くだけだった。

 言葉が示す様に、人族はもう既に何度も負けを繰り返し、「万年最下位」の称号を与えられる程に戦争で勝つ事が出来ずにいる。前回も当然のように最下位であり、順位がそのまま7人の中での立場を表すという取り決めがある以上、アースは何を言われようとも決して口答えせず、口をつぐみ、耐えるだけである。


「そう言ってやるなよ。確かに立場は決めてるが、それに縛られすぎるのは良くないと私は思うぞ。フォレストの言う通り、私達は同種の存在であり、私達と同じ存在は他に居ないんだからな」

「……」


 グラスランドは3人を宥める様に声をかけるのだが、プレスは相変わらず何も喋らず、特に興味も無いのか、視線はモニターに釘付けのままだった。

 グラスランドに声をかけられた3人は「はいはい」とでも言いたげに、アースへと向けていた視線を外し、それぞれ隣の者に話しかけたり、ぼ~っとしたり、自身の手に塗られているマニキュアをつまらなそうに眺めだした。




 そうして少しの時間が経つと、この部屋の入口が開かれ、1人の女性がそのまま中へと入って来る。

 その女性は、この部屋に居る6人の女王達と全く同じ容姿と服装をしており、唯一違う点はその瞳の色がこの部屋に居る誰とも違う「白色」をしているという事であった。


「随分と……人を待たせるのが上手くなったな、エデン……」


 この部屋へと入って来た人物――中心の大陸「エデン」を統治するラナディール・エデン・ヘブンリーへと、イラつきを言葉にのせ、鋭い視線を向けたのはパラダイスであった。

 だが、その視線を受けてもエデンは特に気にした様子も見せず、そのまま空いている最後の席へと腰を下ろす。


「ここは私が統治する地である以上、私がどう振舞おうと、それは私の勝手である。それに私は、お前達の誰よりも先にこの世に生を受けて誕生したのだ。年長者に対する敬意というものを覚えた方がいいと、何度も言っているはずだが……なぁ、パラダイス」


 エデンが言葉と共に、冷めきった目をパラダイスへと向ける。

 その視線を向けられたパラダイスは、「ちっ」と舌打ちをして、不機嫌そうに視線を逸らす。その様子を見ていたストーンはざまぁみろとでも言うように、くぐもった笑いをした。

 確かに戦争の結果によって女王達の順位は変わるのだが、その戦争に参加せず、場所だけ提供しているエデンは、ある意味女王達の中でも結果に左右されない別格であり、先に生まれたという事もそれに拍車をかけている。


「……始まる」


 プレスがぼそっと呟いた言葉を誰も聞き逃さず、全員が反応し、自身の目の前に設置されているモニターへと視線を向けた。

 そして、プレスの言葉を証明するように、真っ暗だったモニターの画面に色が付き、戦争が始まるであろう場所の風景が映し出される。


「……さて、此度の戦争はどこが勝ち、どこが負けるのか……どのように勝ち、どのように負けるのか……そして、死者はどれほどでるのか……精々楽しませてもらおうか……」


 画面を見つめるエデンの口角がゆっくりと上がり、笑みへと変わる。

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