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しゅぞくまわる  作者: ナハァト
種族間戦争編
27/76

第二戦 エルフ対魔族 2

 モニターに映る映像に注目する。

 その映像は自機が持つライフルに設置されている、スコープ越しに見える光景だ。

 度々倍率を切り換えて、1点を大きくしたり、全体の風景を確認する。


「……まだ魔族機の姿は現れんか」


 モニターから目を離さず、オブイはそう呟く。

 そのまま自機の反対側で同じように、スコープ越しの画面で周囲を確認している仲間達へと通信を飛ばす。


「そちらはどうだ? ムライス、アッティ」

「まだ確認出来ません」

「居ないかな? せいぜい風で枯れ枝が動いてる程度だし」


 未だ姿を見せない魔族機に対して、ほっとすればいいのか、焦れればいいのか、オブイの内心は少々苛立ちを感じているが、そういったモノを体の外へと追いやろうと大きく息を吸って吐いた。

 少なからず心を落ち着かせたオブイは、コクピット内へと持ち込んだ水筒で喉の渇きを潤す。

 もちろんこのような場で酒を飲む訳も無く、水筒の中身は濃厚な渋~いお茶である。

 オブイ機、ムライス機、アッティ機が現在居るのは、最初に指し示された小高い山の頂上付近で、そこから周囲を警戒しつつ魔族機を探しているのだ。

 彼等エルフにしてみれば、敵の姿は自分達が先に発見しなければならない。

 攻撃方法ももちろんの事ながら、現状1機少ないのだ。

 後手に回れば間違いなく一気に終わる。

 それが分かっているからこそ、彼等は一切気を抜かない。

 それは、こことは距離が離れた所にある山に1機で佇むロカートも同様であった。


「そちらはどうだ? ロカート」


 スコープ越しの画面で周囲を見ていたロカートへ向けて、オブイから通信が飛んでくる。


「こちらでも魔族機の姿は未だ確認出来ません」

「そうか」


 モニターから目を離さず、そう答えるロカート。

 だが、そのモニターの端に動く物体を目にする。

 その物体へとスコープ画面を向けると、そこには枯れ木に紛れて動く紫色のHRWWが5機存在していた。

 言うまでもなく、魔族機である。

 ロカートは大きく目を開き、逸る心を自覚すると、目を閉じて浅く息を吐く。


「……見つけました」

「どこだ!」


 オブイへと魔族機発見の通信を送り、そのまま場所も伝える。

 教えられた場所の方向に向けて、オブイ機のライフルが動き、その動きに続いてムライス機とアッティ機も動かした。


「こちらでも確認した。間違いなく魔族機だ」

「枯れ木を遮蔽物にして動いてますね」

「たぶん、緩衝材にでも利用するつもりなのかな?」


 口々に言葉を発するオブイ達であるが、それぞれの機体の指がライフルのトリガーへと向かい、いつでも撃てるような態勢へと移行する。


「皆の者、分かっているとは思うが射撃のタイミングを合わせるぞ」

「大丈夫です。ちゃんと理解していますよ」

「射撃音を重ねて、魔族達にこちらが1機少ない事を悟らせないためでしょ?」

「その通りだ。ロカート」


 ムライスとアッティの返答を頷きと共に返すオブイ。

 そのまま確認するように、ロカートの名を呼ぶ。


「分かっています。射撃のタイミングはそちらで……私の方で合わせます」

「あぁ、分かった。それと」

「即座に2発目を撃って、更にこちらの数を誤魔化すんですよね? 任せて下さい」


 画面越しに頷き合うオブイとロカート。

 オブイはロカートの射撃技術に関して全幅の信頼を寄せているので、まず失敗はしないであろうと思っていた。

 それに、仮にも自分達は代表者としてここに立っているのである。

 一定水準以上の射撃技術は持っていると言ってもいいだろう。

 しかし、それでも残る問題はある。

 初撃で魔族機を、最低でも1機沈める事が出来るかどうかだ。

 出来れば僥倖、出来なくてもこの後の行動に支障をきたす程度のダメージは与えておきたいのが、オブイの心情である。

 これから放つ1発が、この後の戦いの行方を示していると言ってもいいのかもしれない。


 そうしてエルフ代表者達は少しでも魔族機にダメージを与えるため、着弾時に小規模の爆発を起こす魔法陣を展開し、タイミングを合わせてトリガーを引いた。

 銃口の前に現れた幾何学模様の魔法陣を銃弾が貫く。

 そのまま狙った魔族機へと着弾するが、当たった弾数は2発のみ。

 思いの外、枯れ木がクッションとなり、僅かながら勢いが削がれ、狙いがずれたのである。

 銃弾が当たった箇所が腕部分であり、結果として撃墜する事は出来なかった。

 直ぐ様、2発目を撃つが、そちらは魔族機が即座にその姿を隠したために、地面へ着弾しただけの無駄に終わる。


「ちっ、予想以上に枯れ木が邪魔となったか! ……仕方ない。移動するぞ!」

「「了解」」


 オブイの言葉に即座に反応するムライスとアッティ。

 初撃で沈められなかったのは痛いが、その初撃によって現在こちらの位置がバレていると考えていいだろう。

 このままここに陣取るのは愚策以外の何物でもない。

 魔族機がここに辿り着くまでに全機沈める事が出来るのであれば問題は無いが、そもそもそれが出来るだけの能力も人数も足りない。

 いや、この場合に限って言えば、エルフ達の能力が低いのではなく、魔族側の能力が高すぎると言ってもいい。

 慎重に慎重に……一手一手、自分達に有利な状況で追い詰めていかなければ勝てないだろうというのが、オブイとロカートの見解である。

 相手が最弱の人族であれば、このままここで一方的に沈めようとしたかもしれない。

 第一戦で人族が魔族と互角の戦いを繰り広げたのも、魔族側の調子が悪かっただけというのが、他種族の認識だ。

 双方の当事者同士がどう思っているかは別にして……。


 オブイ機、ムライス機、アッティ機は魔族機が居る場所から目を離して、即座に移動を開始する。

 魔族機の動向は、指定の場所から動かないロカートに任せ、山を下り、別の山を登っていく。

 もちろん、ロカート機からの援護が可能な範囲内での移動であった。


     ◇


 ロットとヌルーヴは着弾したウルカ機の左肩部分、ファル機の右腕部分の箇所を確認する。

 小規模であったとはいえ爆発が起こったのは間違いない。

 左肩部分、右腕部分、共に抉れたように穴が出来ており、内部の構造が丸見えであった。

 交換、もしくはきちんとした修理が必要で、とてもではないが第二戦の最中は動かないだろう事が見て分かる。


「駄目だな……そっちはどうだ? ロット」

「こっちも駄目っぽいよ。ヌルーヴ」


 ヌルーヴとロットの言葉に、ウルカとファルはコクピット内で申し訳なさそうな表情を浮かべる。


「申し訳ない。遠距離狙撃を少々甘く見ていた」

「戦闘能力が34%低下したと告げておきます。通常戦闘には問題無い数値であると思われます」

「そっかぁ~、まぁ、そんな気にするような事じゃないから大丈夫さ」


 ウルカとファルを安心させるように優しい声音でそう言うロットは、そのままモニター画面をユリイニ機へと向ける。

 ユリイニ機の近くには、既にヌルーヴ機が控えていた。


「ユリイニ様。これからの行動ですが……」

「あぁ、問題無いよ。ちゃんと見ていた(・・・・)からさ」


     ◇


 ロカートは魔族機の動向を決して逃すまいと、モニターを凝視していた。

 オブイから移動完了の報告はまだ届いていない。

 初撃で魔族機を沈める事は出来なかったが、2機にダメージを与える事は出来た。

 最上とは決して言えないが、必要最低限の戦闘に支障をきたす程度はダメージを与えたと言っていいだろう。

 ならば、後は回数を重ねて決定的なトドメを差せばいいだけだ。

 ロカートに失敗したという思いは微塵も無かった。

 初撃は一連の動きの中の1つでしかなく、最終的に勝てば良いのである。

 むしろ、初撃で沈められなかったからこそ、ロカートの意思はいつも以上に昂っていた。

 オブイ達の移動はまだ完了しておらず、本来であれば待つべきというのも理解しているのだが、魔族機に隙あらば1発で仕留めてみせると、いつでも撃てるようにトリガーへ指をかけておく。

 そんなロカートの目に信じられないモノが飛び込む。

 普通に考えればありえない光景。

 魔族機が隠れていた場所から、1機が無防備にその姿を晒したのだ。

 他の魔族機とはデザインが違う外殻フレームを見に纏っている事から、魔族側の隊長機であるのが分かる。


「……どういうつもりでしょうか」


 まるで、どうぞ好きに撃って下さいとでも言わんばかりにゆったりと歩く魔族機の姿に、ロカートの心中は掻き乱される。

 エルフの遠距離狙撃を馬鹿にしているとも見え、湧き上がる苛立ちと共にロカートは強く歯を噛む。


「……いいでしょう。なら、沈みなさい!」


 なんの躊躇いもなく、ロカートはトリガーを引く。

 発射された弾丸は、魔族機の頭部を狙って進む。

 未だ、ロカート機と魔族機の間には相当の距離がある。

 発射音が聞こえる前に着弾するのは間違いなかった。

 だが、発射音が聞こえる前に、弾丸が着弾する前に、まるでそれが来るのが分かっていた(・・・・・・)かのように、魔族機が弾丸を回避した。


「……な……にっ」


 ロカードが驚愕に目を見開く。

 その動作でずれた眼鏡をかけ直す。

 どこかでミスを犯したかと考えるロカートであったが、直ぐ様頭を切り換え、落ち着かせるように浅く呼吸をする。

 冷静になったロカートは何かを確かめるように、次弾を放つ。狙いは同じく魔族機の頭部であった。


 しかし、次弾もまた回避されてしまう。


「……なるほど。最初と違って目が青く光っているのは、“スキル”が発動しているという事でしょう。それによって回避出来ているのは間違いないようですね。弾道を予測出来るスキル? いえ、それだと対エルフ過ぎますね。それは考えられない。……となると、別の可能性を模索するべきでしょう。そうなると、未来予知? いえ、発想力が飛び過ぎていますね。それこそありえません。技術力はまだそこまで到達していないのですから。しかし……。いえ……。ですが……」


 正体の分からない事柄に対して堂々巡りをし、思考に没頭するロカート。


「ロカート! 魔族機は動いていないか?」


 オブイからの通信が届き、今はそれに没頭する訳にはいかないとロカートは頭を振り払う。


「1機先行して動いているのが居ます。ですが、先程2発放ちましたが回避されてしまいました」

「回避された! お主の狙撃を?」

「はい、恐らく何らかのスキルを使用しているかと」

「なるほど、たしかにスキル使用ならあり得るか……」


 オブイは内心驚いていた。

 それは、ムライスとアッティもである。

 ロカートの狙撃能力は群を抜いており、それはエルフであれば誰しもが知っていた。

 だからこその、エースなのである。

 そのロカートの狙撃を回避するなど、普通に考えればありえない。いや、想像出来ないと表現した方が正しいだろう。

 しかし、その想像を超えた存在が居るのだ。

 驚いて当然である。

 だからといって、このまま大人しくするかと言うと、それはまた別の話だ。


 オブイ達は、ロカートが標的にした相手を確認する。


「……アレか。なら次は、全員同時にいくぞ」


 その言葉と同時に、全機が魔族機に向けて構える。

 呼吸を合わせ、トリガーを引く。


 初撃の時同様、全機一斉射撃である。


 だが、弾丸が発射された瞬間、魔族機はまるでギア比が変わったかのような動きで瞬時に身を沈め、一気に駆けだした。

 唐突な動きに、当然の如く発射された弾丸は軌道を変える事も出来ず、地面へと着弾して終わる。

 エルフ達は1発で沈められると思っていなかったのか、流れるような動きで次々と弾丸を放っていくが、魔族機は華麗な動きでその全てをかわし続けていく。


「くっ! 何なのだ! あのHRWWを操縦している者は化物か!」

「すごいですね……」

「……」


 自分達の狙撃が全て回避され、オブイが悪態を吐く中、アッティは素直に浮かぶ感情を吐露し、それにムライスがコクコクと頷く。

 今まさに、エルフ代表者達の意識はたった1機の魔族機に集中していた。

 それが魔族側の狙いだと気付かずに……。


     ◇


 魔族側が考えた作戦は単純である。

 1機が囮となって、エルフ機からの弾幕をかいくぐって視線を集め、その間に弾道から位置を予測、その場所へと残りの4機が強襲をかけるというモノであった。

 問題となるのが、その1機である。

 作戦中にやられては意味が無いのだ。

 エルフからの狙撃を全てかわし続けなければならない。

 だからこそ、選ばれるのは必然的にエースと呼ばれる存在である。

 その旨を全て伝え、最後に立案者であるユリイニが付け加えた。

「スキル使用時だったのが効いたね。弾道の方向は大きく分けて2つ。一方が1発しかこなかった事から、こちらにはエルフのエースが居ると思われる。それと確定はしていませんが、最初にきた弾丸の合計が4発でした。その後も追加のようにして狙撃されましたが、1度に来る弾丸が4発を超えないという事は、もしかしたら、何らかの事情でエルフ機は4機しか参加していないのかもしれません。ただ、これは予測でしかないので、エルフ機は5機居るモノとして行動して下さい」


 モニター画面に弾道が飛んできた方向を表示させていくが、


「自分は反対です、ユリイニ様」

「俺もそれはやめといた方がいいと思いますよ、ユリイニ様」


 聞かされた作戦に、ヌルーヴとロットは即座に反対する。

 2人共がユリイニの身を危険に晒す訳にはいかないという思いからの反対であった。

 その事が分かっているからこそ、ユリイニは苦笑を浮かべる。


「大丈夫だよ。きちんと“スキル”を使用して対処するから。それに、これは機体が損傷しているウルカとファルには厳しいだろうし、ヌルーヴとロットにはエルフ機撃墜の方に行って欲しいんだ。私を信じて、お願い出来ないかな?」

「「……」」


 ロットとヌルーヴは腕を組み、悩む。

 まったく同じ態勢で悩む姿からは、普段喧嘩をしているようには見えない。


「……了解っす~! お任せあれ~!」

「……分かりました。エルフ機の方は自分達に任せて下さい」


 2人の了承と共に作戦が動く。

 ウルカは機体の損傷から避けきるのが難しいと考えており、ファルの方は元々ユリイニの決定に逆らう気は一切無い事から、口を挟んでいなかった。

 この2人が思うのは、損傷したのが脚部分でなかったのが幸いした程度の事である。


 そして魔族達は即座に行動を開始した。

 ユリイニ機が囮として注意を引くために、ゆっくりと動きだし、エルフからの遠距離狙撃がくれば、スキルを使用して回避する。

 ユリイニが自ら課した事は、攻撃を避け続ける事。そして、弾道予測によってエルフ達の現在位置を割り出す事であった。


     ◇


 オブイ達は自分達の狙撃を避け続けるユリイニ機に焦燥を感じていた。

 それはロカートも同様である。

 だからこそ、彼等は後方の確認を怠ってしまう。

 ユリイニが望んだ通りに……。


 エルフ達の後方に突如として魔族機がその姿を現す。

 オブイ側には、ロット機、ウルカ機、ファル機が、

 ロカート側には、ヌルーヴ機が迫った。

 近距離戦が不得手であるエルフにとって、これは絶望的な状況であると言っていいだろう。

 確かにウルカ機とファル機は損傷しているが、それはここまで近付かれれば問題にならない。

 ムライス機はウルカ機によって、アッティ機はファル機によって撃墜され、オブイ機はロット機の銀色の爪“ブリューナク”によって、頭部と腰部分を貫かれて沈んだ。

 ロカート機は不得手ながらも善戦するが、元々の近距離戦の力量差によって次第に追い詰められ、ヌルーヴ機の大剣“カラドボルグ”によって、両腕を跳ね飛ばされて戦闘継続不能となった。


 だが、エルフ達にとって幸運と言っていいのか、はたまた誰かの意思なのか、死傷者が出る事はなかったのである。


 こうして、第二戦エルフ対魔族は、魔族の勝利で終わった。


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