第二戦 人族対獣人 1
ここ数十年で行われた種族間戦争において、第一戦は各大陸が仕上げてきたHRWWの性能披露の場としての意味合いが強くなっていた。
もちろん、性能披露の場と言ってもそれで手を抜く事はない。そこは仮にも自大陸のその後の繁栄が関わっているため当然であろう。
ただ、意図して積極的に対戦相手の命を奪うつもりはないという事だ。
そのため第一戦に関しては、徹底的に敵HRWWを破壊していく傾向にある。
だからといってそこで死人が出ないかというと、そういう事はありえない。
キーノ・ラムリの事があるように、出る時は出るのだ。
それが狙ってなのか、結果なのかの判断は難しいが。
何故第一戦がそのような場になったかというと、そこにもまた女王達の意向が反映されていた。
元々戦いや競技等、何か争うような事柄において、前半より後半の方が盛り上がるのは誰の目から見ても明らかであろう。
総当たり戦だろうがトーナメント戦であろうが、勝敗を積み重ねていけばそれに比例して、様々な思いが増していく。
戦う者同士、互いに負けられない理由が増えていくのだ。
その増した思いの分後半は前半に比べ、より過激になる傾向が強いのであろう。
種族間戦争の最初期の頃は、そういう部分は無かった。
何処が何処と当たろうとも互いに憎しみを前面に出し、ただただ殺し合うだけ。
そうした結果は、第一戦で全滅してその後の戦いがなかったり、人数不足によって一方的な虐殺が起こったりといった事が頻発し、女王達にとって娯楽であるという面が薄かった。
何度もそういう事が起こり、いい加減見飽きた女王達はこれでは楽しくないと不満を覚え、前半は前哨戦的な意味合いを持たせ、後半はより過激な戦いになるように対戦表をいじりだす。
簡単な例を挙げれば、エルフとドワーフの仲が険悪であるというのは有名だろう。
種族間戦争でこの2つの種族を最初に当てた結果が互いに殺し合い、双方全滅もしくはこの後の戦いが出来ないなんて事が普通に起こった。
それではつまらないと、エルフ対ドワーフ等、面白くなりそうな対戦は後半に持ってこようといじりだしたのだ。
別に公言した訳ではないのだが、各大陸代表者達はある程度繰り返された事でその事に気付き、当然のように文句を言う者も現れたが、そういう者は不敬であると女王を慕う一部の権力者によって始末され、誰も口に出さなくなる。
まぁ、そもそも女王達は各自治める大陸の種族に対しては優しく接しており、確かに絶対的支配者ではあるが、だからといって悪政を強いている訳ではないために、それほど文句を言う者が現れなかったという部分もあった。
それに言ってしまえば、やった事は戦う順番を少しいじった程度、本番である戦闘に関して一切干渉はしていないのだ。
さすがに戦闘へとちょっかいをかけられれば色々と不満も出てくるだろうが、その程度の事なら別に気にする程の事でもないと、代表者達が思っても不思議ではない。
他種族と戦うという事に変わりはないのだから。
もちろん、そこに女王達が干渉しない理由としては、つまんなくなるからという一点のみであるのが、種族間戦争を娯楽としてしか捉えてないという事の証明であろう。
ただ、そうなると後半に激しい戦いが待っているという事だ。
代表者達は女王達の意向に従い、後半ぶつかるであろう他種族へと向けて、前半――というよりは第一戦は手を抜く訳ではなく相手大陸のHRWWを破壊する事で、自大陸のHRWWに優秀性、それを造り上げた自種族の凄さを示すようになっていったのである。
つまり、種族間戦争は第二戦からが、ある意味本番なのだ。
◇
場所は、元・草原であった。
「元」と表したのはこの場所が元々辺り一面、新緑に覆われた草原であったのだが、今はその風景が欠片も見られないからである。
元々大陸「エデン」は世界樹の影響が強く表れていた場所であり、大地の力が他よりも強く緑が溢れていたのだが、種族間戦争よりも前に行われた最初期の全種族一斉の戦いにより、世界樹は枯れ果て、その力が失せたのだ。
元・草原であった今の風景は、壮絶な戦いの歴史を感じさせるような戦闘跡がいくつもあり、大地は干上がったようにひび割れ、草木の姿は一切ない。
まさに、死の大地と表現していいものへと変わっていた。
そんな元・草原に動く影が見える。
遠近感が狂ってるとしか言えないその巨大な体躯を水色の全身鎧で包み、駆けるように動いていくその影の数は5つ。
獣人代表者達が駆る5機のHRWWだ。
既に第二戦開始から30分程が経ち、獣人代表者達は人族代表者達を探していた。
「……ふむ、人族機の姿が見えないな。こうまで見晴らしの良い場所なのに発見出来ないとなると……どこかに隠れているのか? ……そうなると、制限時間終了による引き分け狙いといったところだろうか」
一旦捜索の足を止め、モニター越しに辺りを確認しながらナラスが呟く。
既に枯れ果てた元・草原に遮る物は何も無く、遠くの方に申し訳なさそうに枯れ木が数本根付いているのと岩山があるぐらいで、HRWWの巨体が隠れられそうな場所はこの辺りには無かった。
そうなると岩山の裏辺りに居るのだろうかと、人族機が居そうな場所に当たりを付けるナラス。
「……ふん。引き分け狙いか。つまらん戦法を採っているな。……いや、弱小の人族なら当然の選択か」
人族機の姿が見えず、いい加減索敵にも飽きたイルムンが吐き捨てるように言う。
その顔は不機嫌であるという事を隠そうともしていない。
モニター越しにその表情の見たナラスは溜息を吐いて、イルムンの精神衛生上のためにもさっさと人族機を見つけるか、出て来てくれないかなと考える。
「うささささ。イルムン様の言葉に一票だな。第一戦の結果を見て、自分達のHRWWでは勝てないと判断したのだろうよ。余程、死にたくないないのであろうな。いかに『天才』が設計したHRWWであろうとも、元々の素材の差を覆すのは無理であるという事なのだろう。人族代表者達は臆病風にも吹かれたか? だが、確かに人族機ではどう考えても、私達獣人機に勝てる要素が無いのだから、正しい選択とも言えるかもしれんが」
「セーフさん、そうは言ってもその臆病な戦法と取られてしまった自分達としては、それに付き合って無駄な時間を過ごすという事ですよ?」
イルムンの言葉に同意するセーフであったが、チミックの言葉で面倒臭そうな雰囲気を纏う。
セーフとしては、面倒臭そうな表情をしているつもりではあるのだが、相変わらず他の者から見れば何も変わっておらず、雰囲気でそうなのだろうなと感じられる。
チミックも表情では判断出来なかったが、感じる雰囲気でそう思い、苦笑を浮かべた。
「チミックの言う通りだな。本当に無駄な時間を過ごしている」
イルムンがチミックの言葉に同意する。
その事にナラス、セーフ、チミックが一瞬驚きの表情を浮かべた。
イルムンは基本、代表者達の中ではナラスとしか喋らない。
自分は獣人の大陸「グラスランド」にある大国の王子であるという事から、滅多な事では誰とも喋ろうとしなかった。
別に他の者が気を使わないようにと配慮している訳ではなく、顕著な貴族的思考――言ってしまえば、身分が下の者と気軽に話す口など持っていないと思っているのだ。
ナラスは自分の叔父でもあるし、問題ない人物の1人ではあるが、他の者達は違う。例え今は同じ獣人代表者であろうとも。
だからこそ、普段自分からはナラス以外に話そうともしないイルムンが、チミックの言葉に反応したのに驚いたのだ。
イルムンとしては本当に暇を感じており、それを紛らわすためだけにした事なのであり、本人にとっては第一戦にテリアテスへと話しかけたのと同じ感覚でしかない。
ただ、一瞬とはいえ驚愕の表情を浮かべた所を、モニター越しに見ていたイルムンとしては、何とも面白くない訳で。
「……なるほど。普段お前達が俺の事をどのような目で見ているかがわかった。そうだな……では、この第二戦が終わったら色々と話そうではないか」
言葉だけで判断すれば友情を深めようとしている風に聞こえるが、イルムンの表情は嗜虐に満ちていた。
完全に捕食者そのものである。
その表情にナラス、セーフ、チミックの3人は嫌な予感しかしない。
このままでは、第二戦が終わっても気の休まる暇が無いと判断し、セーフとチミックの視線はナラスへと集中する。
モニター越しに自分へと集まる視線は、叔父なんだからどうにかしろ……いや、どうにかして下さいと物語っており、ナラスは大きく溜息を吐く。
確かに自分は叔父であり、獣人の大陸「グラスランド」に居た頃も色々と問題を起こすイルムンの後始末にも奔走しているが、まさかそれがここでも起こるとは思っておらず、結局自分はそういう役割なのかと、もう1度溜息を吐いた。
「落ち着け、イルムン。セーフもチミックも元々の立場の違いから、まさか自分達の言葉に反応するとは思ってもいなかったために、少々驚いただけだ。……仲が良くなる分には私としても大歓迎だが、その表情は色々と誤解を生みやすいぞ」
「……ふん。まぁいい。別にお前達に対してどうこうするつもりはないしな」
後始末をしてきたという実績が活きたのか、イルムンはナラスの言葉を受け止め、嗜虐的な表情がつまらなそうなものへと変わる。
その表情の変化を見たセーフとチミックは、ここで安堵の表情を浮かべては元の木阿弥だと、心の中だけでほっと息と吐いた。
ナラスもまた、この後で色々とフォローが必要なのだろうなと先の心労を思い、心の中だけで疲れた溜息を吐く。
その間、テリアテスはというと我関せずの姿勢を貫き、空気のような存在として様子を窺うだけであった。
「……で、いい加減、人族機の捜索に飽きたのだが、どこか検討はつかないのか? そもそも獣人が人族と引き分け等、認められん。第一戦同様、完膚無き勝利こそ獣人に相応しいからな」
イルムンの言葉に他の獣人代表者達は、言葉にしては先程の二の舞になるかもしれないと、心の中だけで同意する。
戦えば勝てるのに、その敵が姿を現さない。
しかも、このまま見つからない状態が続くと時間制限で引き分け。
弱小の人族に獣人が引き分け等、代表者として自分達が許せないのだ。
だからこそ、そのような姑息な手段を取る人族に対して更に憤りを感じる。
それこそ、見つけたら徹底的に殺ってやろうと。
そう考える獣人代表者達。
そのための前段階として、まずは人族機を見つけなければならないと、もう1度周囲を確認する。
だが、ここは何も遮る物が無い元・草原であり、隠れられるような場所等無いのだ。
故に、人族機が隠れているであろう場所に当たりを付けるのならば。
「……やはり、可能性として最も高いのは、岩山の裏だろうな」
そう判断するナラスに、他の者達も同意を示す。
引き分けまでの時間はまだあるのだ。もし違っても再び探せばいいだけ。
それに人族機が動き回って逃げていようとも、運動性は獣人機の方が目に見えて上。
その内捕捉出来るであろうと、まずは岩山に向けて再び動き出す。
“疾駆”と表現出来る高い運動性を示すように、元・草原を走り抜ける獣人機5機の姿はまるで流星のように見える。
瞬く間に岩山の麓付近へと辿り着き、岩山自体に潜む可能性も考えてそちらの方も確認しながら、迂回するように突き進む。
だが、その可能性は杞憂に終わる。
ちょうど元・草原からでは確認する事は出来ない辺り、岩山の裏に人族機が居たのだ。
だが、モニターに映る光景に獣人代表者達は全員戸惑う。
何故なら、そこに人族機は1機しか居なかったからだ。
普通に考えれば、ありえない光景。
人族側は元々の性能差がある上に、人数も1人少ないのだ。
どう考えても人族が取るべき選択は、時間切れによる引き分けか、勝利を狙って獣人に挑むにしても4人全員で一斉にかかってくるのが普通であろう。
なのに、居るのはぽつんと1機だけ。
その普通ではありえない光景に獣人機全機は歩みを止め、近くにあった巨大な岩にその姿を隠して様子を窺う。
「……囮? ……罠か?」
ナラスがそう呟く。
自分の発した呟きを確認するように辺りを確認するが、他の人族機の姿を見つける事は出来ない。
そもそも、ぽつんといる人族機1機が居る場所は周囲に何も無く、HRWWが隠れられそうな場所で最も近いのは、今自分達が居る所ぐらいであった。
(これは一体どういう事だろうか? 普通に考えればあの1機は囮で、こちらが近付いた瞬間、残りの人族機が襲いかかってくる……。という風にも考えられるが、そんな単純だろうか? もしそうなら、頭が悪いとしか言えないな。エルフがこういう手段を取るなら理解は出来る。なにしろ、1機を囮にして長距離狙撃で敵を沈めるという方法が取れるのだからな。だが人族機に長距離狙撃が出来るとは思えないし、例え出来たとしてもエルフ並の命中率があるはずもない。そんな事をしても隠れている機体の位置を教えるようなものだ。……仮にも種族の代表者がそのような行動をするだろうか? ……いや、もしかしたら第一戦で死んだ者がそういう部分を担っていて、居なくなった事で状況判断が機能していないという可能性もあるか)
予期せぬ光景に対して、もしかしたら何かあるのではないかとナラスが深く考える。
だが、そんな思考が不要であると、イルムンが自身の苛立ちを感じさせる声で急かす。
「ナラス叔父、敵がそこに居るんだ。人族機如きで何を警戒する必要がある? さっさと潰そうじゃないか」
「うささささ。イルムン様の言う通りであるな。所詮、人族。どこにも脅威は無い。それにもし罠であったとしても、獣人機の運動性ならばどのような事でも対処可能であろうよ?」
「その通りですね。自分も警戒が必要な相手であるとは思えません」
セーフとチミックも、イルムンの言葉に賛同する。
どうせ戦うのだ。ならばさっさと潰して、無駄な時間を終わらせたいと思っているのだろう。
それはナラスも同じではあるのだが、一応隊長として念には念を入れておきたいと、即決断を下す事はしない。
いや、今直ぐにでも襲いかかって、さっさと人族機を潰すのは問題無いのだが、もし仮に予期せぬ事が起こり、余計なダメージを機体に負いたくないと考えているのだ。
目指すは圧倒的な勝利である。
今までの考えに、もしかしたら人族に負けるかもしれないという思考が一切無い辺り、ナラスも気を付けているとはいっても、心のどこかで人族は自分達よりも下であると侮っているのであろう。
「……いつまでここに居るつもりだ?」
テリアテスも焦れていたのか、そう呟く。
その言葉でナラスは大きく呼吸をし、例え罠であろうとも獣人機の運動性であれば問題無いと要らぬ思考を切り捨て、この後の行動を簡単に決めて動く。
獣人機全機が巨大な岩から飛び出し、一気に人族機へと切迫する。
少しだけ速度に差を付け、ナラス機、セーフ機、チミック機の3機は回り込むようにして動き、人族機を全機で囲い込む。
包囲が完成すると同時に、そのままの速度を維持して全機一斉に飛びかかった。
どの獣人機も武器を使おうとしないのは、格闘戦だけで充分やれると判断したためだ。
獣人機の拳や足が当たろうとしたその瞬間、人族機の目が赤く光り、それと同時に足装甲部分の繋ぎ目からも同じように赤い光が発光した。




