人族代表者達
人族の住まう大陸「アース」
この大陸の中心に位置する場所にあり、人族の住まう街の中で最も繁栄している街「クラウン」。この街の更に中心には、この大陸を統治している女王が住まう宮殿があった。
絢爛豪華な造りで贅沢の粋を集めた様な外観は、見る者によっては崇拝の象徴であり、または畏怖の象徴でもある。
宮殿の中もいくつかの高価そうな調度品が内観を損なわない程度に配置されていた。
そんな宮殿の中にある一室――
豪華な装飾が施されているソファーに、何かを待っているかのように腕を組み、目を閉じて座っている男性が居た。
見た目で言えば十代後半程の、茶色の少し長髪で、髪質が硬いためか毛先が多少ツンツンしており、長袖にジーンズと動きやすそうな服装であるため外見からでも少しやせ型である事がわかる。
そんな彼の閉じられていた目がゆっくりと開き、髪と同じ茶色の瞳がこの部屋の入口である扉へと向けられると、ガチャッというドアノブを動かす音と共に扉が同時に開かれ、ノックもしないで部屋の中へと入って来た者が居た。
その者は部屋の中をキョロキョロと物色すると、ソファーに座っている彼の方へと視線を向ける。
「こんちには~……って、あれ? 君一人? まだ他の人達来てないんだ……てっきりわた―――自分が最後かと思ってたのに……まぁいっか。それじゃ、ここで待たせて貰おうかな」
そう言ってその人物は、最初に居た彼と対面するように置かれているソファーの方へと腰を下ろした。
その人物は見た目で言えば十代後半程で金色の髪が肩ほどまで伸びており、女性と思われる程顔立ちが整っており、仕立ての良い服装を身に纏っている。
そうして部屋に2人となったが特に会話は無く、金髪の人物が無音なこの状況にそわそわしだし、対面に居る彼へと何か話しかけようとするが、当の彼は目を閉じ、沈黙を貫いていた。
それでも金髪の人物が意を決して話しかけようとした時、その思いは部屋の中に響くノック音によって止められた。
金髪の人物はそちらへと顔を向けるが、対面に座る彼は微動だにせず、一度だけ薄っすらと目を開け扉の方を確認すると再び目を閉じた。
ノック音と共に扉を開けて中へと入って来たのは、3人の男性だった。
最初に扉を開けて入って来たのは老年の執事で、長年に渡って培った見事な所作で即座に脇へとずれ、自らの後ろに居る人物達を中へと招き入れる。
老執事に次いで部屋の中へと入って来たのは、2人の男性。
1人目は、見た目で言えば二十代程のくすんだ金髪の短髪で、顔立ちはかなり整っている。服装は少しくたびれて、デザインは少々古めかしいが、貴族が着ている様な仕立ての良いモノを身に纏っている。
2人目は、見た目で言えば三十代半ば歳程の茶色の短髪で、武骨な顔立ち。服装はTシャツにジーンズとラフな格好で、見えている体の部分の至る所には、歴戦の猛者のような細かい傷があった。
2人はそのまま中へと入り、迷いなくそれぞれが最初の2人が座っているソファーへと腰を下ろす。
茶髪の隣には茶髪が、金髪の隣には金髪がそれぞれ座った。
「ここに居るって事は、君達も代表に選ばれた人達でいいんだよな?」
「はい、これから宜しくお願いします」
「こちらこそ宜しく。共に頑張っていこう。君も宜しく」
「……」
金髪2人の会話が場に流れ、二十代程の彼は未だ目を閉じ対面している十代後半の茶髪の彼へと声を掛けるが、当の本人は腕を組んだまま、決してその態勢を崩す事は無く黙したままだった。
そんな彼の態度に、話しかけた当人も苦笑いを浮かべる。
「……えっと……俺何かしたかな?」
「気にしなくてもいいと思いますよ。自分も先程会ったばかりですが、ずっと一言も発さない……というか、ずっと黙って腕を組んだままなんです」
「……そうなんだ……俺と一緒に入って来た彼も全然話してくれないんだよな」
「……そちらも大変だったみたいですね」
「協調性というか……チームワークというか……そういうの大丈夫なのかな……」
「さぁ……」
金髪二人が苦笑いを浮かべながら先行き不安な意気投合をし、対面に座る二人に視線を向けるという間を置いて、未だ老執事によって開かれている扉から、今度は女性が入って来た。
その女性は輝く純白の白い髪をたなびかせ、顔立ちは誰もが見惚れる程に美しく、全てを吸い込むような黒い瞳はただ前だけを見据えていた。その身に纏っているのは豪華なローブで、その背からは白い翼が見える。その手には天使の羽根を冠するような装飾が施された杖を持っていた。
女性はそのまま部屋の奥に置かれている執務机の後ろにある椅子へと腰を下ろした。
その女性の動向に金髪2人が視線を向けていると、再びノック音が部屋の中に響き、扉の方へと顔を向けると、そこには老執事の他にもう1人、新たな人物が部屋の中に居る人達へと不敵な笑みを向けていた。
「おっと、俺が最後か。まぁ別に急いでいる訳でもないだろうし、遅刻だったとしても咎められないよね? 大丈夫だよね?」
口調から少し軽薄そうな印象を与える人物は、見た目で言えば、十代後半程で黒い長髪で、相手に安心感を与えそうな優しい目をした男性であった。
黒い半袖のパーカーに、七分丈の同じく黒いジーンズを身に纏っている。
そんな彼が人懐っこそうな笑みを浮かべながらソファーへと近付いていくと、ガタッという音と共に執務机の方に居た女性が立ち上がった。
その気配を敏感に察知し、ソファーに居た4人も一斉に立ち上がり、最後に現れた男性共々、立ち上がった女性へと体ごと視線を向ける。
五人の男性の視線を受け止めた女性は、ゆっくりと一度頭を下げ、再び頭を上げると力強い視線を向けた。
「……まずはこうして集まってくれた事に感謝致します。中には急遽選ばれた者も居ますが、ここに居る5人は紛れも無く栄えある人族の代表者達であり、私『ラナディール・アース・ヘブンリー』は皆様がこの大陸に住まう人族を栄光の喜びへと導いてくれる事を信じております」
アースの言葉にこの場に集まった代表者五人は互いに目を合わせ、再び彼女へと視線を集める。
アースは軽く息を吸うと、その黒い瞳に力を込めて声を紡ぐ。
「フォー・N・アーキスト」
アースの視線は、この部屋に最初に居た十代後半の茶髪の人物・フォーへと向けられた。
「ラデ・パーク」
次いで、次に部屋へと入って来た十代後半の金髪の人物・ラデへと向けられた。
「グラン・ドレスフィール」
二十代の金髪の人物・グランへと向けられ
「キーノ・ラムリ」
三十代の茶髪の人物・キーノへと向けられ
「ユウト・カザミネ」
最後に部屋へと入って来た十代後半の黒髪の人物・ユウトへと向けると、アースは全員をその視界の中へと納め、決意を感じさせるように声を張り上げた。
「どうか、この大陸に勝利を」
アースの言葉に5人は緊張感を体に宿らせ、決意の表情を表した。
そして、5人の代表者とアース、老執事、それと身の回りの世話をする数人のメイドと、念のために用意された護衛達、HRWWの整備士達を伴って、戦争の舞台である中心の大陸「エデン」へと向けて出発した。
◇
世界の中心にある大陸「エデン」
種族間戦争の舞台として使われるこの大陸は、一部を除いて荒れ果てた―――俗に言う荒廃した大地のままである。大陸の中央には未だ枯れ果てた巨大な世界樹がそのまま残されており、一層寂びれた風景に拍車をかけていた。
今までの戦争の爪痕が残されたままの大地は、草木も生えず、砂漠と化している部分もある。
だが、ある一部は非常に発展していた。
外から隔絶するような円形の半透明のドームの中に一つの街が存在している。
「エデン」の統治者「ラナディール・エデン・ヘブンリー」。
白い瞳の彼女――エデンが住まうこの街の名は「フィナーレ」。
街の外にある大地は荒廃したままなのだが、この街は他の大陸の街にも負けない程に発展していた。高い建造物が幾つも立ち並び、浄化装置も設置され、綺麗な水も流れている。そして、この街の外周部には、この世界の大陸と同じように6つの巨大な柱のような建造物があった。
そこが6つの大陸から来る代表者達がそれぞれ、一時の住処とする場所である。
その内の一つに人族代表者達が集まっていた。
円形のリビングの中に用意されているソファーにそれぞれが座っており、位置取りとしてラデの近くにフォーとユウトが居り、その3人と対面するようにグランとキーノが座っていた。いまこの場には、この5人しか居ない。
「さて、それじゃ、俺達は全くと言っていい程の初対面同士だ。改めて自己紹介をして、少しでも親睦を深めようじゃないか。こんな全員が初対面同士……多分、俺達人族だけだろうし……少しでもチームワークを良くして、生存確率を上げておかないと瞬く間に全滅してしまうだろうしな」
そうきり出したのはグランで、その言葉の後この場に居る全員を順に見ていき、最後に「コホン」と緊張を紛らわせるように咳払いを一つした。
「では改めて……グラン・ドレスフィール。19歳だ」
グランが自分の名を告げると、その対面から手が上がる。ユウトである。
「はいは~い、しつも~ん。ドレスフィールって事は、あのドレスフィール家と関係あるんですかぁ?」
ユウトの無遠慮な態度でもグランは表情を変えず、笑みのまま答える。
「あぁ、君が思っているドレスフィール家であってる……と、言っても、俺は所謂妾の子って奴でね。家督とは一切関係無いんだ。幼い頃にアースへと移り住んで、そのまま住みついていたからパラダイスの代表者ではなく、アースの代表者としてここに居る。もちろん、自分が住む大陸はアースだと思っているし、代表者に選ばれた事も納得している」
ドレスフィール家とは、この世界の中で名の知れている有名な財閥の1つであり、その本家があるのが、様々な種族の金持ち達が集う大陸「パラダイス」であった。
「あっ、もしかして聞いちゃいけない質問だった?」
「いや、問題無いよ。もう自分の中でもケリを付けているし、ドレスフィール家を名乗るのは、まぁ形式とか、建前とか、その程度のモノだから気にしなくていいから。これから戦争中の間、生死を共にする仲間となるんだ、気になる事は聞いてくれて構わない。全部答えられるかは……わからないけどね」
そう言って、グランは場の空気を緩和させるように、両手の平を上げておどけてみせた。その態度にユウトも笑みを返すと、勢いをつけてソファーから腰を上げ、この場に居る全員を視界の中へと入れる。
「なら、次は俺かな? どうも、ユウト・カザミネです。17歳で、住んでる場所もアース大陸近くにある島の出身です。まさか、自分が代表に選ばれるとは思ってもいなかったけど、まぁ暇してたし、いっかなって……けど、やる気はあるんで、よろしく~」
ユウトの挨拶に、今度は自分の番だとでも言いたいのか、グランが手を上げる。
「では俺も、1ついいかい?」
「さっきの事もあるし、俺も別に隠す様な事は何もないんで、何でもど~ぞ~」
「君の名前……俺の記憶違いでなければ、もしかして……『RW』の元世界チャンピオンの名前と全く一緒なんだが……」
『RW』―リアル・ウォー―と呼ばれるゲームがこの世界には存在している。
このゲームの最大の特徴は、世間一般には公式的には知らされていないが、操作方法がHRWWの操縦方法と全く一緒である事だ。このゲームで遊ぶ者は自然とHRWWの操作を体に覚えていく事となる。最初は代表者のパイロット適性を判断するために開発されたのだが、今ではそれがオンラインで世界中に広がっており、代表者を選ぶ指針の1つとなっていた。
「そうで~す。そのユウト・カザミネであってますよ~」
「なら、これは心強いな。あのゲームの操作方法はHRWWと一緒だと言うのは今じゃ公の秘密のようなものだし。即戦力の強者じゃないか。ユウト一人でも勝てるんじゃないか?」
「それは無理でしょ? 実際の戦争なんだから、そう簡単にはいかないと思うよ。それに、『元』チャンピオンだから、そう期待をかけられても困るかな? 今は負け続きだしね~」
「……確かに最近負け込んでるね……だけど、俺の予想だとそれはフェイクだ。技術は全く落ちていないと思うし、むしろ、わざと負けているように見える……まぁ、常に『RW』のランキング圏外の俺が、勝手にそう思いたいだけかもしれないけど」
「……どうだろうねぇ~」
ユウトは、グランの言葉を明言しない事で回避していると、グランの隣に居るキーノが組んでいた腕をほどくと、その動きを察したユウト達は自然とキーノへと注目する。
「……キーノ・ラムリだ。34歳。長年兵役していたが、今は特に何もしていない……」
『……』
「いや、それだけ? もっとこう、他に言う事ないの?」
「……特に無い。以上だ」
ユウトの突っ込みにこれ以上話す事は無いと、キーノは再び腕を組み、黙した。
その様子にユウトとグランは互いに顔を見合わせ、苦笑いを浮かべる。
そんな2人の様子を特に気にする事なく、立ち上がる者が居た。ラデである。
「次は自分かな? えっと、はじめまして、ラデ・パークと言います。16歳です。足を引っ張らないよう精一杯頑張りますので、よろしくお願いします」
「よろしく~」
「こちらこそ、お互いにフォローしあって頑張ろう」
『……』
柔和な笑みを浮かべながらラデが自分を紹介しながら頭を下げると、それに応えたのはユウトとグランの二人だけで、他の二人、キーノとフォーは相変わらず黙したままであった。
だが、最後はお前の番だと言うように、キーノ以外の3人がフォーへと視線を向けると、フォーはゆっくりと全員を見渡してから声を発する。
「……フォー・N・アーキスト……17歳……」
それだけ告げると、フォーは他に言う事は無いと目を閉じた。
「……って、それだけかよ!! 名前と年齢だけって!! キーノの旦那より更に言葉が少ないって、お前……まさかアレか? コミュ障ってやつか?」
「……」
ユウトの問い掛けに、フォーは変わらず黙したままであった。
「こんなんで、コイツに背中を預けなきゃいけない時とか、どうすんだよ……」
「問題ない。命令はきちんと遂行する」
ユウトが天を仰ぎながら呟いた言葉に、フォーが目を閉じたまま迅速に答えると、ユウトは驚きの表情で再び視線を向けるが、そこには先程と同じ姿のフォーが居るだけである。
「……今、コイツが言ったの?」
「俺にはそう聴こえたけど」
「……あはは」
ユウトがフォーを指差しながらグランとラデに問い掛けると、グランは肯定し、ラデは判断がつかないと苦笑いを浮かべた。キーノは我関せずである。
このままフォーに詰め寄っても仕方ないと、ユウトはグランとラデへと話しかける。
「まぁいいや……それで、どうする? 今後の事を考えて一応、隊長というか、リーダー的な人を決めておいた方がいいと思うんだけど~?」
「そうだな、俺もそう思う。俺は自分にその役職は向いていないと思うし、率直な意見でよければ、ユウトがやればいいと思う。この中でHRWW戦を最も理解していると思うし」
「自分もグランさんの意見に賛成です。初対面同士で互いの人となりが解らない以上、直感に従おうと思います」
「そ、そう? なら俺でいいのかなぁ……そっちの2人もそれでいいのかな? キーノさんは兵役してたみたいだし……」
『……』
ユウトが突然の推薦に満更でもない表情を浮かべ、確認するようにフォーとキーノへと視線を向けるが、当の2人は相変わらず黙したままである。
「……どうやら、特に反対という訳ではないようですね」
ラデの呟きと、そんな変わらない2人の態度にユウトはため息を吐くと、気分を改める様に頭を掻いて、笑みを浮かべた。
「なら、しょうがないな。じゃあ、とりあえず俺がリーダーって事で……交代させたい時は即言ってね~。それで、まず最初にどこと戦うの?」
ユウトが確認するように尋ねると、グランが苦虫を噛み潰したような表情で答える。
「俺達の第一戦目は……最も勝利数が多く、ここ最近では三連覇している魔族達の大陸「プレス」の代表者達だ」
一応、ユウトは転生、転移者ではないです。
そういう名前がつく出身の現地人です。