休日 2
休日の2日目、獣人代表者達は、整備員達も含めて全員で、宴を開催していた。
前日の内に間接各部が著しく消耗したテリアテス機の補修を終わらし、その他諸々の細かい作業も終わらせて、準備万端での開催である。
場所は、獣人の塔の中で一番広い部屋であり、宴の開催前に整備員達が総出で内装をいじり、祝いの席に相応しい内装が施されていた。
用意された料理も、代表者達と一緒に来た執事やメイド、エデンのアンドロイドの皆様が頑張り、豪華さもある事ながら、品数も豊富で、頑張った成果が見事に現れており、味ももちろん申し分ない。
酒類も多く用意され、この宴の主役である代表者達が持つグラスは、飲んでも飲んでも、周りに居る者達から次々注がれていく。
「今日は無礼講だ! 今日限り、王子である俺に対しても言葉遣い含め、全て許そう!」
グラスを高々と掲げ、そう宣言する狼の獣人・イルムン。
その姿は堂々としており、どこから見ても立派な王子そのもので、発したその言葉に、感嘆の声を上げて盛り上がる一同。
だが、そうは言っても、やはり元々の性格が災いしてか、イルムンの周りに居る者達は多少ビクビクしており、言葉遣いも少し気にしているのである。
どこまでやって大丈夫なのか、恐る恐る確認している姿は震える小動物のようにも見えるから不思議だ。
最もイルムンとしては、本気で言った言葉を蔑ろにするつもりは一切無い。
日頃、傍若無人な振る舞いと高圧的な態度が目立つイルムンではあるが、無礼講だと言った以上、それを取り下げるのは本人のプライド的に許せないのであった。
一方が無礼講だと言い、それでも周りの者は気を遣うという、一種のおかしな空間になった場所を眺める犬の獣人・ナラスは、苦笑いしか出来なかった。
「あそこは、なかなか難儀な空間になっているな……」
「うささささ。気にするな、ナラス。あれはある意味、自業自得で気にするだけ無駄というもの。それよりも、今はそういう気苦労を忘れて存分に飲もうではないか」
「セーフさんの言う通りだと自分も思いますよ。今は祝いの席。そんな辛気臭い顔を見せられると、向こうとは違った意味で色々気を使いそうになるので、酒が不味くなります」
イルムンの居る辺りを気にしているナラスに対して、同じテーブルを挟んで飲んでいる兎の獣人・セーフが気にせず飲めと催促し、狐の獣人・チミックがなかなか辛らつな事を言う。
その言葉を受けたナラスも、2人に対して申し訳ない気持ちになる。
ナラスは、普段から問題児であるイルムンの後始末に奔走する事が多く、それが自分の生活サイクルに組み込まれていく内に、どうやらもう気にする事が癖のようなものになっているようだ。
一体、自分の人生は何なのだろうか? と、その事を思うと、どうにも苦笑しか浮かばない。
ただ、イルムンの叔父として頼られると、どうにも嬉しく、どこまでいっても親戚というものは、やっかないなものであると思ってしまうナラスであった。
「……すまんな、気を使わせて。セーフとも久し振りにこうして飲むというのに……。これではいかんな。チミックの言う通り酒が不味くなる」
そう言うと、ナラスは大きく息を吸って吐く。
この場だけでも気分を切り換えて、セーフ達の酒宴に付き合う決意を固める。
「よぉし! 今日は浴びる程、存分に飲むぞ~!」
「うささささ。そうこなくてはなっ!」
「さぁさぁ! ずずいっと一気に飲んじゃって下さい」
ナラスが自分の言葉に従うように、グラスに並々と注がれていた酒を一気に呷る。
そうして空になったグラスには、チミックが酒を注ぎ、自分も飲んでは注ぐ。
セーフもまた、テーブルの上に次々と酒瓶を置き、手当たり次第に飲む。
途中から、鬱憤が溜まっていたのか、タガが外れたように飲んでいたナラスが、絡み酒を発動し、ぐちぐちぐちぐちと「私だって、本当はなぁ……」と、色々言いだしたが、セーフとチミックは酔っ払いの扱いにも慣れているのか、「はいはい、そうだね、そうだね」と、軽い調子で受け流していった。
時折、言ってはならない現王家の秘密を言おうとした時は、胆が冷えたのはここだけの話である。
室内が宴で盛り上がる中、ある意味第一戦のMVPでもある虎の獣人・テリアテスはというと、部屋の片隅で1人のんびり飲んでいた。
最初の内は整備員達に囲まれ、称賛されていたのだが、テリアテスは性格上そういうのを苦手としており、それは自分でも自覚している。
だからこそ、自分に集まる人には丁寧に断りを告げ、今の状態にしてもらう。
そもそも、テリアテスにとっては仲間を助けるために動いただけであり、それは当たり前の事であるという認識しかないため、称賛されようとも対応に困るのが心情であった。
なので一応、挨拶されれば会釈や酌を受けたりはするが長話はせず、1人の時間を楽しむテリアテス。
……であったのだが、後半は悪酔いしたナラスに絡まれて大きく溜息を吐くが、しぶしぶそれに付き合う事になるのであった。
その光景を、傍からにやにやしながら見てくるセーフとチミックが視界に入った時も大きく溜息をして、自分何か悪い事したかな? と、本気で考え出した所がまた、何とも言えない感じである。
◇
エルフ機は全機、第一戦で破壊された。
それでも、グラスランドの整備員達はそれほど慌てた様子が見えない。
何故なら、内殻フレームに関しては言うに及ばず、外殻フレームに関しては予備を既に用意しているからである。
彼等はドワーフとは違って、新しくまた造るという事等しない。
自分達が今回の戦争に向けて造り上げたHRWWに自信を持っていると言ってもいいだろう。
実際はそれでも負けているのだが、それは互いのHRWWの相性の問題でしかないと思っており、そこまで深刻には考えていない。
なので、この休息期間の間にやる事と言えば、内殻フレームに外殻フレームを取り付ける事と、せいぜいその際に発生する調整と武器のグレードアップぐらいしかないのが実情であった。
などと色々言ってはみたものの、彼等の本音の部分としては、「ドワーフなんかと同じ事をする訳ねぇだろ!」の一択である。
その本音の部分はドワーフ側も全く同じで、どこまでいっても、仲の悪い種族なのであった。
なので、折角の休息期間。
整備員達は特に時間に追われる事はなく、のんびりと過ごした。
そして、代表者達はというと……。
「あぁ~……」
「……なんで俺こんな所でこんな事やってんだろうか……」
代表者達が利用する部屋の森の中に、パネラとアッティが一緒に居り、その周りに小動物達が集まっていた。
任せてと言った手前、アッティは特に文句を言いたかった訳ではないのだが、パネラが小動物達に囲まれて癒されている姿を見ていると、なんとなく一言くらいは言いたくなったのだ。
だからといって、他に何かやりたい事や、優先する用事等が無いため、じゃあ何をすると問われてしまうと、正直困るのである。
それに、第二戦までには問題ないレベルで治ると医師に言われても、負傷している事に変わりはないため、素直に安静にしていた方がいいのは間違いない。
まぁ今の所、パネラがアッティにだけは心を許している感はあるので、居ないよりは近くに居た方が何かと対応が取れるであろうと考えていたのだが、特に何かが起こる訳でもなく、その内ぼーっとする時間が増え、時折パネラの話し相手になるのであった。
休息期間中は、そんなアッティの傍にも小動物達が集まり、その姿に癒される至福の時間を過ごす事となる。
一方、他の代表者達はというと、オブイとムライスは塔の一室にあるHRWWの操縦練習室に居た。
もちろん、教材は箱型ゲーム機「RW」である。
いくらここに来る前に訓練期間があったとはいえ、幼いムライスにはまだまだ伸び代があると思い、少しでも技量を上げるためにオブイが教えており、今更の付け焼刃というのは理解しているのだが、少しでも上がる技量が勝敗を決める時があるかもしれないし、それはそのまま生存確率とも直結すると考えたのであった。
ムライスもその事をわかっており、真剣に打ち込むのだが、設定レベルがいつもより高くなっており、CPU操作の敵機に上手く当てられない事に歯噛みする。
「……なかなか難しいです」
「そう焦る事はない。ゆっくり落ち着いて撃てばよいのじゃ。狙撃の最大の利点は、発見されぬ限り先制攻撃はこちらにあるという事じゃ。その間にゆっくりと呼吸を整え、落ち着いて撃てばよい」
「……なるほど。ただ撃てばいいってだけじゃないんですね」
「その通りじゃ」
オブイに言われた通り、ムライスはゆっくりと呼吸を繰り返して自分を落ち着けていく。
そうして集中力を増していき、CPU機の動きに合わせてトリガーを引くと、思っている以上に弾丸が命中する。
その事が嬉しくて、破顔の表情をオブイへと向けるムライス。
ムライスもまた孫の成長を見ているような嬉しさを感じ、笑みを浮かべた。
「ほれほれ、新しいCPU機が現れとるぞ。油断しとると返り討ちじゃぞ?」
「は、はい!」
まだまだ危なっかしい一面を見せるムライスに、まだまだ教える事は山ほどあると、心躍らせるオブイなのだが、やりすぎて負傷が悪化しては元も子ないので、今はほどほどにしておこうと気を付けるのであった。
そして、もう1人。
エルフ代表者のエース、ロカートはエルフ機専用ガレージの地下にある武器保管庫に居た。
ロカートの目に映るのは、1丁のライフル。
HRWW専用武器という事もあり、巨大なライフルなのは間違いないのだが、その銃身は異様に長く、どう考えても立って撃つ事も、膝立ちでも無理そうで、専用の台座に固定してHRWWが寝そべらないと撃てないようなものであった。
その異様なライフルをじっと眺めるロカート。
「……どう考えても、第一戦で使用したライフルでは火力不足であった。今後もそういう面が出てくるかもしれない……。ならばいっその事、これを投入する事を検討しておいた方がいい……」
そう言って、視点はそのままに眼鏡を中指で押し上げる。
「“天鹿児弓”か……ふふふ……」
ライフルの名称であろう事を薄い笑みで言うロカートなのだが、外れかかっている腕の包帯がそのままで、何かの封印が解けそうな見た目になっているのは、御愛嬌という事でいいだろう。
◇
富裕者達もまた、今現在塔の中に居なかった。
といっても、HRWWの整備をしているとか、第二戦に向けての準備をしているという訳ではない。
そもそも第一戦の勝ち方からして、機体が深刻に損傷している訳ではないし、技量が足りなかった訳でもないため、やる事がないと言ってもいい。
パラダイスの整備員達もまた、機体の微調整に一応弾丸を受けた箇所のチェック、穴だらけの大盾の修復ぐらいしか、やる事がないのだ。
なので、代表者達、整備員達は、休息期間は存分に休んで満喫するという、言葉通りの休みを過ごす。
整備員達は人数も多いため思い思い過ごし、代表者達は全員総出の上、メイドや執事を連れてフィナーレの街中を闊歩していた。
フィナーレの街中は全体的に白色が基調の建物が多く、きちんと清掃が行き届いており、チリ1つなくというか、元々低能のアンドロイド達が命令通りに動いているので、目立ちそうな汚れ等は一切無い。
まぁ、元々人が女王エデン以外存在せず、アンドロイドしか居ないのだから、汚れるという事はないのだろうが、それでも建物は劣化するので、その辺りの修復も一応命令を出しているので、動いていない低能アンドロイドの姿を見る事はないだろう。
ただ、いくら低能アンドロイドが居るとはいえ、フィナーレの街中に人の姿は彼等以外に居なく、どことなく殺風景な寂れた雰囲気を感じてしまうのは致し方ないだろう。
そんな街中をエダル、キステト、ミミク、レオンの4人が先頭を共に歩き、その後をメイドや執事が続き、最後尾はウイゼル1人という形で歩いている。
もちろん、何かしらあった時に、メイドと執事はいつでも動く事が出来るように、念のため周りに気を配っており、その内何人かの手には梱包された荷物をいくつも持っている事から、既に何軒かお店を回り終わっているのだろう。
「とりあえず買ってはみたものの……碌な物がないな。さすが低能機械共が動く街だけあって特産品も機械仕掛けの物が多く、初回の楽しみはあるが1度試せばそれまで……。まぁ、こういうのは記念品的な意味合いも兼ねているだろうし、そんなものか……」
と、エダルが何やら文句のようなものを言うのだが、その顔は悪戯小僧のような笑みを浮かべ、どことなく楽しんでいるのであろう事が窺える。
その事を昔からの付き合いがあるキステトは、きちんと理解していた。
購入した記念品を使って、周りに何か迷惑をかけるんだろうなぁ……と。
「はぁ~……。ほどほどにな、エダル」
「わかってますよ、キステト兄」
絶対わかってないだろうなぁ……と、先々の事を考え、色々後始末が面倒そうだなぁというのと、そろそろ大人になって欲しいと大きく溜息を吐くキステトであるのだが、エダルに感化された者が1人居た。
「なんか楽しそうですね! 僕も付き合っていいですか? エダルさん」
「あぁ、いいぞ! 一緒に楽しもうじゃないか!」
ミミクが楽しそうに参戦を申し出て、エダルが快く了承する。
その2人の姿にキステトは何やら頭痛がするのか、溜息を吐きながら頭を押さえた。
流石にその姿を見て、気遣うようにレオンが声をかける。
「……大丈夫ですか? キステトさん」
「……俺を気遣ってくれるなら、共に後始末に動いてくれないか?」
「ま、まぁ……。出来る範囲であれば……それより、エダルさんはいつもこうなんですか?」
「いや、いつもという訳ではない。むしろ、普段はリズベルト家を継ぐ者として相応しい態度を取っているのだが、やはり色々溜まるのだろう。ミミクよりは歳が上だが、俺から見ればまだまだ子供のようなものだし、ここでは、そういう家のしがらみのようなものを感じないから、少々タガが外れた感じだろうな。まぁ、ほどなくして落ち着くだろうし、それまでは兄貴分として遊ばせてやりたいとは思ってるが……。程々にして貰いたいというのが本音ではあるが……」
「……色々と苦労してるんですね」
どことなく疲れた表情を浮かべるキステト。
レオンがその表情から色々疲れる事が起こるんだなと察して、ちょっと他人事のような事を言うが、そんなレオンに対して楽しそうな笑みを浮かべるキステト。
「いやいや、ここに居る間は、その苦労をレオンと共に分かち合うつもりだが? 先程の言葉を忘れたとは言わせんぞ?」
「うっ……。はぁ……。わかりました。こっちはこっちで、自分がお付き合いしますよ」
「それは助かる。出来れば、パラダイスに帰ってからもお願い出来るか?」
「それは流石に都合が良すぎると思いませんか?」
「だよな」
そう言って笑い合うキステトとレオン。
もっとも、レオンの心情としてはパラダイスに戻っても、なんだかんだと手伝わされる事になるんだろうなと思っていた。
その考えは間違いではなく、この時、キステトの方もなんだかんだと理由をつけてレオンを巻き込もうと考えていたのである。
この後は、申し訳ない程度に置かれた特産品を販売する所も少なく、元々観光施設も無いフィナーレの街中をぶらりと歩き、塔へと戻って第二戦まで勝手気ままに過ごす。
その間、代表者の残りの1人、ウイゼルはというと、エダルの後方をずっと付いていき、元々、奴隷に落とされた事もあり発言権自体皆無に近いが、今はそれに拍車をかけて何も話そうせず、一言の発する事は無かった。
ただ、第一戦の出来事の最終的な罰として、メイドや執事よりも、ウイゼルが一番荷物を持つ事になるのである。
その事に関しても、ウイゼルから文句は一切無かった。




