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しゅぞくまわる  作者: ナハァト
種族間戦争編
14/76

第一戦 エルフ対富裕者 2

 再び弾丸が飛んでくる。それも2発。

 炎と雷を纏っていた。

 1つは、自機の頭部部分に、もう1つは自分が居るコクピット部分へと。

 確実にこちらを殺すつもりである事を悟る。

 自分でそれを意図した訳ではない。

 だが、自然と体が動いたとでも言えばいいのか、結果として自機が持つ大盾でその2発を見事に防ぐ。

 それが、ウイゼル・カーマインの感じた事であった。

 はっきり言って、自分が富裕者代表者の選ばれた理由等、主人であるエダル・リズベルトが文字通り“盾”としての消耗品として連れて来た以外にない事をウイゼルは教えられている。

 だから代表者に選ばれたからといって、自分が受けたHRWWの操縦訓練は最低限のものである事も理解していた。

 本来であれば、通常はある程度HRWWの操縦が出来る者が代表者に選ばれる。

 それは、どの大陸でも共通であるのだが、しかし、それでは満足に人数を揃える事が出来ない場合もあるため、過去には抽選で選ばれる者や犯罪者、推薦や特定の条件を飲む代わりに参加する者等も居た。

 ただ、そうして選ばれた者は所詮HRWWに関して素人であるために、充分な操縦訓練期間を以って参加させるのだが、ウイゼルはその期間を満足に与えられず、HRWWのパイロットとしてはせいぜい移動させる事ぐらいしか出来ない。

 だからこそ、ウイゼルの心中は驚きで満ちていた。

 何故こんな事が出来るのか。

 自分はHRWWを拙い動きでしか操れないはずなのに、やった事は認識出来ない距離からの狙撃を見事に防ぐという、普通に考えれば誰にでも出来る事ではない。

 しかし、自分は不思議とそれを成し遂げた。

 どういう事なのだろうか。

 ウイゼルは答えの出ない思考の海へと沈み、その場から動く事が出来ずにいた。

 だが、そんなウイゼルの事などお構いなしにと物事は動く。


「“盾”が見事に“盾”の役割を果たすとは驚きだな」


 ウイゼルの奇跡的な動きを見てエダルがそう呟き、なんとなく拍手を送る。

 それは他のメンツも一緒で、「おー」と言いながら、少し驚いたように拍手を送った。

 だが、確かに驚きはしたが、エダルはウイゼルにそこまで興味が無く、直ぐに別の事を考え、周りの仲間に確認する。


「……で、見えたか?」

「そうだな……。姿は見えないが、構えた大盾が真正面であった事から、田舎のエルフ共は正面のある岩山辺りに潜んでるだろうな」


 エダルの問い掛けに、キステト・ウォーラが的確に答えた。

 ちなみに、キステトは田舎のエルフと言ったが、もちろん彼の中で都会とはパラダイスの事を指している。


「僕も同意見で」

「自分もそのように思います。ただ、もうそこには居るかはわかりませんね。まだ距離がある以上、こちらからは手が出せませんし、もう少し近付いた所を次は全機一斉射撃で仕留める可能性もあります」


 次いで、ミミク・ペテトキクルとレオン・ドレスフィールが同意を示す。

 エダルも心中では同じ事が結論として確定しており、レオンが言ったようにその可能性も考えていた。

 その事は正しく、現在エルフ代表者達は岩山から移動するか、もう少し富裕代表者達が近付いた所を一斉に撃つかを協議している最中である。

 初手で仕留められなかった以上、ロカートは同じ場所で迎撃するには少々ケチが付いたと思っており、自分達の場所もばれた以上、別の場所で仕切り直したいとも思っているのだが、遠距離特化のエルフ達に向いた場所が今居る岩山の他に周りには存在しておらず、このまま有利な場所で迎え撃つ方がいいのではないかと、悩んでいるのであった。

 そうしてエルフ達がこれからの事を協議している間に、富裕代表者達は結論を出す。


「まっ、そこに居るかは行ってみればわかる。居なかったら居なかったで、手間だがまた探せばいいさ」

「それもそうだな。それに、エルフ共の攻撃力もわかった」

「あははっ! 大盾を貫く事も出来ない程度の威力しか出せないなら、僕達の敵じゃないね!」

「油断は禁物であろうが、こちらの装甲の方が上である事が露呈した以上、そう恐れる事もないだろう」


 なんとも簡単に今後の方針を決める富裕代表者達。

 自分達のHRWWの出来を信じているのか、それとも元々の性格故なのかはわからないが、富裕代表者達は余裕の態度で移動を開始する。

 ウイゼルは未だ思考の只中でエダル達が通信を送っても返事が無いため、あっさりと放置される事が勝手に決められた。

 レオンが執拗に通信を飛ばしたのに一切無反応で、いい加減面倒臭くなったエダルが放っておけと動き出し、それに賛同してキステト、ミミクがその後に付いていき、レオンも仕方なくその後を追う。

 富裕機の重量故に大した速度は出ないが、4機はゆっくりと確実にエルフ達が居る岩山へと近付いていく。


     ◇


 その姿をスコープ越しの映像で確認するエルフ機。

 ゆっくりと自分達が居る岩山へと近付いてくる富裕機の姿からは、こちらを侮るような余裕に満ちた雰囲気を与えられてしまい、ロカート、オブイ、ムライスの3人は険しい表情を浮かべ、アッティは大きくため息を吐き、パネラの体は大きく震えていた。


「……自機の姿を隠しもせず、堂々とこちらに向けて歩いてくるか」

「余程の自信なのか……。馬鹿なのか……。どちらにしても、ふざけとるのぅ……」

「正直言って、富裕機のあの姿を見ていると心の中に怒りが芽生えます」


 眉間に皺を寄せるロカート、オブイと、心中を素直に吐露するムライス。

 この3人は素直に感情を曝け出しているのだが、残りの2人、アッティとパネラは別の反応を示す。


「あぁ~……。死んだ。もうこれ死んだわ……」

「うぅ~……。うぅ~……。来るな……来るなぁ~……」


 アッティは全てを、自分の命すらも諦めたかのような表情を浮かべ、もう終わりだと呟き、パネラは先程よりも更に体が大きく震え、画面に映る富裕機の近付く姿に恐慌状態へと陥っていた。

 冷静で居られなくなったパネラ機が今にもライフルを乱射しそうであったので、その行動を止めるためにオブイ機が羽交い締めにして止める。

 金属同士がぶつかる音を聞きながら、ロカートはほっと安堵のため息を吐き、もう1度富裕機へと視線を戻す。

 いくら富裕機が近付いているとはいえ、その歩みは遅く、まだまだ距離があるためロカート以外では確実に当てらないだろうし、無駄弾を撃って少ないとはいえ魔力を消費するなど今の段階では無意味だろう。

 ロカートとオブイはその事がわかっているため、パネラ機を実力行使で止めたのである。

 どうにかパネラを落ち着かせ、エルフ達は今後の行動を相談する。


「さて、先程中断したが、これからどうするかのぅ?」


 オブイがそう切り出して、ロカートへと通信を飛ばす。

 言っていた通り、富裕機が動き出す前にこの後の行動を相談していたのだが、結論が出る前に動き出したため、先ずは相手の様子を見ようと確認したら、先程までの事が起こったのである。

 だが、富裕機の動きは間違いなく今居る岩山へと向かっているのは明白であり、取れる手段も大きく分ければ2つ。

 この場で迎え撃つか、別の場所へと移動するか、である。

 その事はもちろん、他のエルフ達も分かっており、隊長である自分が決めてもいいのだが、今はパネラが再び暴れないように抑えつけておかなければならないと、そう考えたオブイはロカートへと尋ねたのであった。

 ロカートもその事は理解しているために少しの間だけ思案すると、これが決定事項であるかのように皆に告げる。


「この場で迎撃しよう。見る限りこの場以上に有利な場所は無く、他の場所に行ったとしてもこちらがその分不利になるだけだ。それに富裕機の進軍速度は遅い。富裕機がこちら全員の射程距離に入るまでにはまだまだ時間の猶予がある。その間にこちらは魔力を限界まで流した弾丸を用意し、一斉に撃ち放てばあの頑強な大盾であろうと貫通する事が出来、そのまま奴等のコクピット毎貫けば終わりだ」


 自信を持ってそう答えるロカートに、他のエルフ達も納得したように頷く。

 だが口には出してないが、ロカートにはもう1つ、この場で戦う事を選択した理由がある。

 パネラの恐慌状態を見て、落ち着かせるために場所を移しても、結局その場で同じような事になるかもしれないと思ったからだ。

 それならばいっそ、自分達にとって最も有利なこの場所で決戦に持ち込み、得意の遠距離で一方的に終わらせた方が、パネラにとっても自分達にとっても良いと判断したのである。

 その考えはオブイも一緒であり、ではそれでいこうと結論付けると、ムライスとアッティもそれに同意した。パネラもオブイに宥められ、今は少し落ち着き、震えながらも同意するように頷く。

 実際、ロカートが提示した選択は正しく、例えこの場を変えたとしてもパネラは同じような事になり、時間経過と共に状況は更に悪くなっていた。

 しかし、例え正しい選択をしたとしても、それが勝利に繋がるとは限らない。

 この時、オブイとロカートの判断材料に何かを付け加えるとするならば、大盾の強度だけではなく、HRWW自体の強度も視野に入れておかなければならなかったという事だ。


     ◇


 富裕機4機がゆっくりと岩山へと近付いていく。

 金色の塗装がどうにも眩く、傍から見ると風景に対して異物感しかないが、何やら独特の雰囲気を与えてくる。

 悠然というか、畏怖というか、滑稽というか……。

 それでも富裕機の歩みは止まらない。そんなもの関係ないとばかりに。

 それは搭乗するパイロット達にも言える。

 彼等の会話にこれから戦いへと赴く者とは思えない程に、緊張感のかけらも無かった。


「あ~、もう飽きた。富裕機のスペックに対して文句をつける訳じゃないが、どうにもこの歩きの遅さにはどうにか出来ないものか……。キステト兄、“スキル”使ってパパッと行かない?」

「エダル、これはまだ第1戦だぞ? そうそうに手の内を晒してどうする。……と、言いたいが俺もこの遅さに飽きた。だからといってスキルを使うのは却下だが……。まぁ、そのうち着くだろ。それまではのんびりいこう」

「えぇ~、いいじゃん、スキル使っちゃおうよ。僕もう我慢出来ないよ」

「もう少しの辛抱だから、ちょっと我慢しようか、ミミク」


 エダル、キステト、ミミク、レオンは呑気な会話を交わしながら岩山へと向かっていた。

 その内、全員今はやる事がないと、コクピット内に用意されている携帯食料をかじって飲料水を飲んだり、大きく口を開いて眠そうに欠伸をしながら進んでいく。

 そうして、とうとう岩山を昇ろうかという時に、事態は動く。

 頂上付近から一斉に何発もの弾丸が飛んできたのだ。

 だが、そこは代表者に選ばれる者。即座に対応して大盾を構える。

 しかし、今回の弾丸に込められている魔力は多く、その分威力が増しており、いともたやすく大盾を貫いてきた。

 大盾を貫いた事で多少威力と速度は落ちたが、合計5発の弾丸はそのまま富裕機の本体へと向かう。

 その内の3発は富裕機の肩や足に向かっているのだが、残りの2発は確実にコクピット部分を狙っていた。

 弾丸はそのまま富裕機へとぶつかる。

 その瞬間、「カァン」「キィン」という甲高い音と共に、全ての弾丸を富裕機は弾いたのだ。

 富裕機の装甲は、大盾よりも強度が上なのである。

 元々、資金は潤沢であり、金にものを言わせて最上質の素材を用意して造られる富裕機はコンセプト通り、自機の装甲部分に全てを投資しているのであった。

 彼等曰く、大盾は飾りであり、外見上の姿を良くするために持っているだけなのだ。


     ◇


 富裕機自体の装甲を貫く方が難しい事を瞬時に理解出来たのは、ロカートとオブイだけである。

 次弾の魔力を直ぐに流して撃つが、元々大盾を貫けなかった事を完全に失念していると言える行動から、彼らも少なからず動揺しているという事なのだろう。

 当然のように大盾に弾かれ、この場で戦う選択をミスしたというよりは、選択を決める大前提が間違っていた事に今更ながら気付いて、歯を食いしばるロカート。

 今のエルフ機の装備では、あの装甲を撃ち貫く事は出来ないだろうと判断し、オブイはこの場から撤退する事を決める。

 富裕機の進軍速度は遅く、この場を離れれば向こうが追いつく事は無い。

 勝利は得られないが、負ける事は無く、時間経過の引き分け狙いで動こうとしたのだ。

 しかし、その判断は少し遅かった。

 オブイが撤退を告げる通信を飛ばそうとした時、その画面に映る富裕機の数が1機足りない事に気付き、辺りを確認する。

 そして、その隙をあざ笑うかのように拡声された声が響く。


「はははははっ! 逃げられると思ったのか、愚かなエルフ共が!」


 その声はエルフ機の頭上から鳴り響く。

 そちらの方へ機体の顔面を向けると、映し出されたモニター内に1機の富裕機がその重量を活かしてダイブしてきているが確認出来た。

 金色の機体が輝き、まるで太陽のようだとアッティは思う。

 オブイとロカートが「散開っ!」と告げる前に、その富裕機――エダル機が舞い降り、そのまま着地の衝撃でエルフ機が居た場所が崩れた。

 土煙が辺り一面を覆い、状況確認の僅かな間に他の富裕機がこの場に姿を現す。

 そうなると、最早一方的な展開となった。

 遠距離特化であるエルフ機に、近距離戦は実質死刑宣告のようなものだ。

 瞬く間にやられていくエルフ機。

 富裕機はエルフ機をこの場から逃がさないように立ち回り、乱雑に殴ったり、蹴ったり、時には大盾を凶器のように使って破壊していく。

 こうなると、エルフ達に出来る事は死なないように富裕機の攻撃をコクピット部分に当てないように立ち回るしかない。

 オブイもそのように判断し、決して死ぬなと通信を飛ばすと、慣れない近距離戦へと赴く。

 だが、その甲斐あってか、エルフ達がこの戦いで死ぬ事は無かったのだが、エルフ機は全機見るも無残なボロボロの状態にされてしまうのであった。

 蹂躙するのが楽しくて仕方ないと、高笑いを上げる富裕機達によって……。


こうして、第一戦、エルフ対富裕者はエルフの負けで終わった。


 これで第一戦の全てが終わり、


 人族   1敗

 魔族   1勝

 獣人   1勝

 ドワーフ 1敗

 エルフ  1敗

 富裕者  1勝


 という結果となった。

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