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しゅぞくまわる  作者: ナハァト
種族間戦争編
11/76

敗者、勝者、友情

 既に戦いは終わり、両種族共HRWWを回収するために、整備員達がトレーラーへと詰み込み作業を行っている中、


 ガアアアァァァッンッ!!


 金属を打ちつけるような音が辺り一面に響く。

 その音を響かせた人物の拳は、HRWWを運搬するトレーラーの一部を殴りつけていた。

 殴りつけられたトレーラーの一部には、拳の跡がくっきり残っており、威力の程が窺える。

 一方、その人物の拳は、金属に跡を残す程の力を込められていたのに、一切傷が付いていなかった。

 それもそのはず。その人物の拳は金属製で、俗に言う義腕であった。

 その義腕の持ち主、バーン・バァンの顔は、今にも人を殺してしまいそうな厳めしい表情を浮かべている。


「……くっ……皆、すまん。今回の敗北は、隊長でありながら碌な指示を出せなかった俺の責任だ」


 体の内に燻ぶる怒りを抑えつけ、バーンは自分の後ろに居る仲間達へ謝罪の言葉を伝えるのだが、当の仲間達、ドルチェ、ジジル、ザッハ、ゴッツの全員は特に気にしていないのか、特に悔しそうな表情をしていない。

 仲間達の手には既に酒瓶が握られているのも影響しているかもしれないが……。

 もちろん、ゴッツはジュースであり、雰囲気に酔っているだけである。

 そして、仲間達を代表してドルチェがバーンに声をかける。


「バーンはドワーフにしては珍しく考えすぎだ。確かに大事な初戦ではあるが、俺達ドワーフが初戦を落とすのは毎回の事なんだから、気にしすぎなんだよ。前回もそうだったろ?」


 ドルチェの言う通り、ドワーフは種族間戦争において初戦を常に落としてきた。

 だが、それでもドワーフは強者として存在している。ランキングも上位で終わる事が多い。

 つまり、種族間戦争の後半戦こそがドワーフの本領発揮なのだ。

 スロースターターというべきか、尻上がりで調子を上げていく。

 何故なら、ドワーフが最も得意とするのは“鍛造”である。

 今使用しているHRWWで駄目なのならば更に上の物を造るだけと、性能を上げた外殻フレームを後半用意してくるのが、ドワーフの技術者達であり、代表者達であった。

 上位常連である以上、資源は豊富にあるのだから……。

 そして、ある意味ドワーフの技術者達は狂気に侵されていると、言ってもいいのかもしれない。

 代表者達は戦いがあるのでそうはいかないが、技術者達全員が喜び、不眠不休で新しい外殻フレームを造り上げるのだ。

 『新しい技術の革新の朝だ!』と、よく言っているらしい。

 これが戦争毎に起こるのだ。ついていけない。

 だが、結果は伴っている。

 “ドワーフは後半強い”

 これが、他の種族全てが共通している思いであった。

 現に今も、この場に居るドワーフの技術者達は狂喜乱舞しながら、新しい外殻フレームの案を出し合って意見を交わしていた。

 その事を、バーンも理解してはいるが、それでもやりきれない表情を浮かべてドルチェの方を見る。

 額に手を置いて、考え込むように空を見上げた。


「……そんな事はわかってる。だがな、そんな歴史を変えたかったんだ。ドワーフは初戦から強い。そんな印象を与えたかったんだ」

「それはまぁ、そうだが……。今回は仕方ないさ。俺達ドワーフから見ても、獣共のHRWWの出来は、こちらを上回っていた。ただ、それだけさ……」


 そう言って、ドルチェは両手に持っていた酒瓶の1つをバーンへと渡す。

 酒瓶を受け取ったバーンはそのまま一気に飲み干す。


「ごく……ごく……かあああぁぁぁ~~~っ! ちくしょおっ! 負けちまったぁ~!」


 バーンの叫び声が轟く。

 そのまま空になった酒瓶を地面へと叩きつけた。

 他の者達もバーンの行動に習い、同じように一気に飲み干すと空になった瓶を叩きつけた。


「ほんとほんと、やってられないよなっ! まさか獣共に負けるなんてよっ!」

「まったくじゃわい!」

「私達ドワーフがこれで終わると思うなよっ!」

「やってやるぜ! 俺達の本領はこれからだっ!」


 4人がバーンに続いて大声を上げる。

 そしてバーンは、すっきりしたかのように晴れやかな笑みを仲間達へと向けた。


「よぉ~し、お前等! 俺達は全員生きている! なら、悲しむ必要なんかない! そして、これから俺達がやるべき事もわかってるな!」

「「「「おぅっ!」」」」


 これから彼等がやる事は、ドワーフ機の搭乗者として問題点を洗い出し、それを技術者達に伝え、次の戦いまで共に新しい外殻フレームを造り上げる事である。

 そんな事はわかってると、ドルチェ達4人は全員声を出して頷く。


「次の勝利のために!」


 バーンが言葉と共に、握り拳を高々と掲げる。


「「「「次の勝利のために!」」」」


 残りの4人も同じように、握り拳を掲げる。

 この切り替えの早さもドワーフの強さの一因なのかもしれない。

 そして彼等は、HRWW全機がトレーラーに搭載されたのを確認すると、早々にこの場から去って行った。


     ◇


 一方、獣人サイドのHRWWを回収している辺りの方からは、歓声が上がっていた。

 獣人の整備員達は一様に手を上げて喜びを表現し、代表者達を讃える声が響く。

 それはそうだろう。

 獣人側からしてみれば、テリアテス機は超速の動きによって関節部が痛んではいるが、それ以外に目立った外傷はなく、完勝と言ってもいい結果であり、他の種族達に自分達獣人の強さを見せつけたようなものなのだから、喜んで当然である。

 その周りの歓声を聞きながら、その中心で代表者達もまた喜んでいた。


「はははははっ! いやいや、完勝だな、おい!」

「うささささ! 当然であるな。何せ、私達は栄えある獣人。当然の結果であろう」


 パーン! と、ナラスとセーフの2人が互いに上げた手を叩き合う。

 本当に嬉しいのだろう、口調が砕けた感じになっているナラスと、相変わらず表情が変わらないセーフであるが喜んでいるのは、なんとなく雰囲気でわかった。

 そのまま2人は、整備員達が祝杯のために用意した酒を杯に並々と注ぎ、コーン! と杯を打ちつけ合って一気に飲み干す。


「かぁ~~~っ! 美味いっ! やっぱ勝利の美酒は格別だなっ! なぁ、セーフ」

「うささささ! 相変わらず良い飲みっぷりであるな。まるで昔のようである」

「おいおい、俺を過去の人にしてくれるなよ! まだまだ飲めるぜっ!」


 ナラスとセーフは友情を築いている。

 そのセーフの目から見ても、今のナラスは上機嫌であると言えた。

 余程こちらの被害は無いに等しい――完勝したのが嬉しいのだろう。

 ただ、最近のナラスはイルムンの事で気苦労しており疲れきっていたので、今のナラスを見るのは友達として喜ばしい事であるとセーフは思う。

 だからといってその気苦労を一緒に背負おうとは、これっぽっちも思ってはおらず、心の中で頑張れとだけ声援を送っていた。

 そして、その2人に近付く者が居た。

 共に喜びを分かち合おうと、両手に酒瓶とその酒が並々と注がれている杯を持って。


「自分もこちらに参加してよろしいかな?」

「おう! 確か、チミック・フロフだったな! 来い来い! お前も俺も頑張った! 共に勝利を喜ぼうじゃないか!」

「うささささ。構わんよ、私達は運命共同体。共に誇りある獣人代表者であるのだ。もっと砕けた感じでも良いのだぞ?」

「ありがとう。それにこの態度と口調は元よりだ。気にしないでくれ」


 そう言ってチミックは、空になったナラスとセーフの杯に酒を注ぎ、もう1度杯を重ね合わせて一気に飲む。

 勝利の美酒の味に舌鼓を打つ3人。

 そのまま談笑を交わす3人を遠巻きに眺める者が2人居る。

 イルムン・ワナイとテリアテス・ボナであった。

 ただ、それぞれ居る場所はナラス達3人を中心にして真逆の位置であり、1人で居る理由は違う。


「……ちっ、くだらん」


 イルムンは喜ぶ3人の様子に辟易していた。

 理由は単純である。

 たかが1戦勝っただけで、そこまで喜ぶような事かと思っているのだ。

 何しろ自分は誇り高き狼の獣人であり、後々、世界を統べる王になる者であると信じている。

 だからこそ、イルムンにとっては勝って当たり前と思っていた。


(……それに、今回のHRWWの出来もいい。それも拍車をかけているのだろうよ)


 そう心の中で呟きながら、イルムンも手に持つ杯を口へと運ぶ。

 あ~だこ~だと思ってはいるのだが、だからといって負けた事を喜ぶ者は居ないだろう。

 イルムンもなんだかんだと思いながら、手にした勝利に対して少しだけ口角を上げた。

 一方、テリアテスは勝利の杯を持たず、腕を組んで出発の時を待っている。

 目を瞑り、背をトレーラーに預け、自分に関わるなという空気を出していた。

 実際、整備員達は今回の勝利の立役者でもあるテリアテスに声をかけたいのだが、その身に纏う雰囲気に容易に近付く事が出来ずにいるので、仕方なくナラス達へと声をかけに行くのである。


「……」


 そのような状況であってもテリアテスは気にしていない。

 他の者と慣れ合う必要はないと思っており、今回の行動も同じ代表者だからというよりは、今後の戦いのリスクを少しでも減らすために動き、助けただけである。

 テリアテスにとっては、たったそれだけ。

 勝利に喜ぶ事はなく、心の中で思うのは自分の主である女王が喜んでくれればそれでいいと考えていた。だからといって、そのような思いで動いたとしても、結果としては仲間を救った事に変わりはない。

 全員無事で終わり、結果、勝利で終わっているからこそ、周りは喜んでいるという事も理解しているからこそ、テリアテスは何も言わず、ただただ出発の時を待ち続ける。


 その後も、この場で獣人達の勝利の宴は用意した酒が無くなるまで続いた……。


     ◇


「ぐぬぬぬぬ……」


 女王達が集う部屋。

 その女王達の中の1人、「ストーン」は唸っていた。

 感情の起伏が激しい彼女は、自分の治める大陸の種族であるドワーフが負けた事に怒り心頭である。


「大丈夫? ストーン」


 ストーンを気遣うように彼女の隣に座るグラスランドが声をかける。


「ぐぬぬ、勝負は時の運とも言うし、仕方ない。これから勝てばいいのだ。そう、これから……」


 そうは言うストーンではあるが、その顔は全然納得しているようには見えなかった。

 グラスランドも困ったような表情を浮かべる。

 それもそうだろう。

 なにせ、ストーンにその表情をさせているのは自分の治める種族が勝ったからだからだ。

 さて、どうしたものかとグラスランドは悩むが、それは杞憂に終わる。

 ストーンは大きく息を吸って吐くと、いつもの勝気な笑みをグラスランドへと向けた。


「いやはや、しかし凄いな! 獣人が今回用意したHRWWは! 圧倒的な運動性能だったな!」

「そ、そう?」

「あぁ! しかし、私達ドワーフの本領はこれからだ! もし、次ぶつかる事になったら、こうは簡単にいかないからな!」


 そう言ってストーンはグラスランドに、ニカッと歯を見せる。

 その表情を見て、グラスランドは心の中でほっと安堵の息を吐いた。

 グラスランドにとってストーンは“特別”である。

 女王達7人はある意味同一の存在であり、そこに上下は無い。

 しかし、そんな中でもグラスランドはストーンに対して、他の者達にはない友情のようなものを感じているのだ。

 だからこそ、種族間戦争において獣人がドワーフに勝った時、ストーンが自分の事を嫌ったらどうしようと不安になっていた。

 ただ実際は、ストーンもグラスランドに対してだけは同じような事を思っており、もしドワーフが勝っていれば怖がりつつ、グラスランドに話しかけているのである。

 ある意味、似た者同士であった。


「……やはり愚鈍なドワーフが負けた」

「あぁっ!」


 エルフの女王「フォレスト」が嬉しそうに呟くと、即座にストーンが反応し激昂する。

 その事にグラスランドは、またかと頭を抱えた。

 エルフとドワーフの仲が悪いというのは通説ではあるが、この世界においては全種族の間で仲が悪い。元々、他種族を滅ぼそうとしていたのだから当然であろう。

 そういう部分はかなり薄れてはいるが、やはりエルフとドワーフ、この2種族に関しては常に仲が悪く、それに引っ張られるようにフォレストとストーンの仲も険悪であった。


「まぁ、いいさ。ドワーフがエルフとぶつかった時、泣きを見るのはテメェなんだから!」

「……そっくり、そのままをお返しする」


 そう言って、ストーンとフォレストは互いに睨み合い、両者の間には火花が散っているように見えた。

 これを仲裁するのが私の役目なのかと、グラスランドはため息を吐いて両者の間へと入っていく。

 女王達が揃うと繰り広げられるいつもの光景を眺めながら、他の女王達は我関せずであった。

そんな中、エデンは思考する。


(……獣のHRWWの出来はいいが、パイロット能力はそう高くないな。此度の勝利もHRWWの性能に頼った部分が大きい。つまらん戦いだ。私が見たいのはそういう戦いではない……。この分だと、これからの獣の戦いには期待出来んな。むしろ、ドワーフのこれからの伸びしろに期待しておくか……。もっと私の心が弾むような殺し合いをお願いしたい所だな)


 そうして、エデンが凍てつくような笑みを浮かべ、未だ続くストーンとフォレストの言い合いを仲裁するグラスランドの声が室内に響く。

 それは、次の戦いが始まるまで続いたのであった……。


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