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しゅぞくまわる  作者: ナハァト
種族間戦争編
10/76

第一戦 獣人対ドワーフ 2

 ドワーフ代表者達の隊長、バーンは考える。

 自分達が置かれている状況は芳しくない。

 獣人のHRWWの動きに対して、自分達が全く対応出来ていないのだ。

 完全に弄ばれていると言っていい。

 だが、獣人共が自分達のHRWWの性能に喜んで油断している今が、最大のチャンスであるとバーンは結論付けた。

 逆に、ここでどうにか出来ないと負けるのはドワーフである。

 だからこそ、バーンは考える。


(……今の俺達のHRWWでは、獣共の速さに対応出来ない。これは完全に外れクジを引いたな……。せめて出会い頭の第一戦でなければ対応策も取れたんだが、後手に回っているな……。獣共のHRWWは、こちらが1行動する内に2行動は動ける。となると……。いや、しかし……)


 あーだこーだとバーンは思考を繰り返すが、段々イライラしてきた。

 元々肉体的に恵まれているドワーフは、考え続ける事が苦手な者達が多い。

 直情型というか、職人気質の難しいタイプというか、感性で生きている者が多いのだ。

 しかし、そんなドワーフ達の造り出す物は一級品が多いという事は、あながちその感性が間違っていないという事だろう。

 ぐだぐだ考え続ける暇があるのなら、行動を起こせという事なのかもしれない。

 それは、バーンも例外ではない。

 今は隊長という立場と前回の戦争経験者という事から、冷静に考えていたのだがそろそろ限界が訪れようとしていた。

 端的に言って、面倒臭くなってきたのだ。むしろ持った方だろう。


「……あ~、もういいや。このままこうしていても埒が明かない。でたとこ勝負だ」


 バーンは頭をガシガシと掻くと、仲間達へと通信を飛ばす。

 簡単に作戦の指示を言うと、全員了解の意を示し、即座に行動へと移った。

 現在、ドワーフ側5機のHRWWを取り囲む、獣人側のHRWWは3機。

 その3機に向けて、それぞれが飛び出した。

 ナラス機にはドルチェ機が、チミック機にはゴッツ機が、セーフ機にはザッハ機が襲いかかる。

 ただ、その行動は相手機を破壊しようとするのではなく、動きを抑えて行動を制限させるように掴みかかっていた。

 だが、そこは運動性を誇る獣人機。


「全く、苦し紛れの行動の浅はかさは見苦しいな」

「やろうっ!」


 ナラス機がドルチェ機の突撃を余裕でかわし。


「もう少し考えて行動したまえよ」

「なろっ!」


 チミック機がゴッツ機の掴みかかりを華麗にかわし。


「うささささ」

「くっ!」


 セーフ機がザッハ機の出した手に触れる事なくかわしたのだが、そのザッハ機の後ろからジジル機が突如現れる。

 その手には2本の短剣が握られていた。


「死にさらさんかいっ! “グラム”」


 ジジルが叫びと共に魔力を機体に流す。

 2本の短剣に幾何学模様の魔法陣が浮かび上がり、銀色の刀身が緑色の膜に覆われ、「ブブブ」という音を響かせながら振動しだした。

 高周波ブレードと化した2本の短剣、グラムがセーフ機に襲いかかる。

 上と下、まるで咬み付くように迫る2本の刃を、態勢を無理矢理後方へ動かし、関節部の悲鳴のような音を響かせながらギリギリかわす事に成功するセーフ機。

 惜しむらくは、グラムが短剣である事でリーチが足りなかった。

 しかし、セーフ機のバランスは崩れ、一分の隙が生まれてしまう。


「うささささ。危な――」


 セーフが安堵を吐こうとした瞬間、ジジル機の更に後ろからバーン機が現れた。


「確かにてめぇら獣共の動きは、俺達の1行動している内に2行動出来るようだが、なら俺達は3人分合わせて3行動分だっ!」


 バーンが機体に魔力を流す。


「“ミョルニール”!」


 バーン機が持つ巨大なハンマーに幾何学模様の魔法陣が浮かび上がり、溶けるように消えていくと、その表面に黒いイカズチを纏い出した。

「バチチチチ」と、大気を震わす程の甲高い音を出す巨大なハンマーが、セーフ機へと襲いかかる。

 いかに運動性に優れた機体であとうとも、態勢の崩れたセーフ機によける隙は無かった。

 バーンにとってはまさに千載一遇のチャンス。

 紙装甲の獣人機では例え受け止めても、そのまま叩き潰されるであろう事が、誰の目から見ても理解出来た。


「……いやはや、失敗、失敗」


 前面のモニター全てを塗り潰すように映る、黒い雷を纏ったミョルニールを眺めながらセーフは自分の死を悟る。

 死に直面した事で飛躍的に伸びた体感時間の中、セーフは走馬灯を見た気がした。


(うささささ。圧殺であるか。痛みを感じなさそうな事だけは救いであるな)


 表情に変化が見えないセーフは、それだけを思った。

 そして、ミョルニールがセーフ機を破壊する――その直前、この場に居る全員の意識外から1機の水色のHRWWが現れた。


     ◇


 駆ける。駆ける。駆ける。

 水色のHRWWが1機、戦場を駆ける。

 そのHRWWに乗るパイロットの名は「テリアテス・ボナ」。

 彼はドワーフ機達の動きを見ている内に、仲間達へと迫る危機を感じた。

 具体的に何が起こるかは分からない。

 しかし、獣の特有の勘とでも言えばいいのか、毛が逆立つような感覚に襲われて、様子を見ていた場から一気に駆けだしたのだ。

 何よりもその場に辿り着く事を優先し、自機は二の次である。

 HRWWの関節部にある駆動系を痛めつけながら、前へ前へ、一秒でも早くと走らせた。

 コクピット内にある前面モニターに映るのは、水色の獣人機1機に対して、銀色のドワーフ機3機による連続攻撃が開始される所である。

 1機目、2機目、危なげなくかわす獣人機であったが、態勢が崩れた瞬間を狙ったかのように、黒い雷を纏う巨大なハンマーが迫っているのが見えた。

 その瞬間、テリアテスが機体に魔力を流す。


「“フロッティ”!」


 テリアテスが流した魔力にHRWWが反応する。

 機体の両手足から「ガシュンッ」という音と共に、それぞれ手足の先へと向かうように肘膝から、白光する刃が半円を描くように飛び出す。

 自機に装備された武器の存在を確認すると、テリアテスは更に自機の速度を上げ、一気に跳躍する。

 込められた力を表すように、大地は抉れ、ひび割れ、土煙が舞う。

 そして、宙を舞うテリアテス機は白光している刃を前に出し、狙いをつける。

 狙いは1点。黒い雷を纏うミョルニールだ。

 ミョルニールがセーフ機を圧壊しようとする瞬間、テリアテス機のフロッティが側面からぶつかり、その軌道を逸らされる。

 セーフ機の真横を通り過ぎ、そのまま何も破壊する事は無く、地面にめり込んだ。


「くっ!」


 ミョルニールによる攻撃を阻止された事に、バーンの表情が更に厳めしいものへと変わった。

 だが、それでテリアテス機の行動が終わる事は無かった。


「テリアテス・ボナ!」


 自分を助けた者の名を叫ぶセーフ。

 その声が通信で耳へと届くが、テリアテスは返答をしなかった。いや、出来る余裕が無かったのだ。

 テリアテス機のコクピット内では機体を無茶して走らせた影響で、機体状態を表示している一部のモニターは赤く明滅し、各関節部に異常を示すアラームが鳴り響いていた。

 もう少しだけもってくれと、テリアテスは操縦桿を強く握り、視線は目の前の敵へと固定したまま機体を動かす。

 バーン機がミョルニールを再び構え直そうとしたが、それよりもテリアテス機の行動の方が早かった。

 鳴り響くアラームを一切無視し、悲鳴をあげる関節部をもう一度痛めつけながら、飛ぶようにして瞬時にバーン機へと肉迫するテリアテス機。

 その勢いのまま、テリアテス機は右手側のフロッティをコクピットがあるバーン機の胸の部分を突き刺すように放った。


「このままではっ!」


 白光の刃は間違いなくコクピット部分を貫き、そのまま自分の命すらも貫くであろう姿が見えたバーンは即座に行動する。

 フロッティが迫る僅かの間に自機をずらす。

 そのままフロッティはバーン機を貫き、その刃の姿はコクピット部分にも現れたが、狙いを僅かにずらされた事でバーンの命を奪う事は無かった。

 実際は、バーンのちょうど真横にフロッティの刃がある。

 その事にバーンは引きつった笑みを浮かべ、その顔には冷や汗があった。


「あっぶな~……」


 バーンは呟きと共に自機を動かしてテリアテス機に掴みかかろうとしたが、その前にフロッティが引き抜かれ、再びテリアテス機の攻撃が始まる。

 両手のフロッティによる、下からなぎ払うような攻撃でバーン機は両腕を落とし、テリアテス機はそのまま後転をするように後方へと両手を持っていくと、今度はそのまま両足を蹴り上げ、その勢いを利用して両足のフロッティでバーン機の両足を斬り裂いた。

 しかし、ここで無理が出たのか、テリアテス機は関節部に小さな爆発が起こり、煙を立ち昇らせながらバランスを崩して、後転の最中であったためにそのまま地面へと落ちる。

 バーン機もまた、両手両足を失い、胴体部分は地面へと落下した。

 フロッティの刃がコクピット部分を貫いた時に、降参宣言のスイッチも破壊され、既に行う事が出来ないため、バーンは仲間達へと通信を飛ばす。


「全員死ぬ事は許さん! 獣共に殺される事はあってはならない!」


 その言葉にドワーフ達、ドルチェ、ジジル、ザッハ、ゴッツの4人は、苦虫を噛み潰したような表情を浮かべるが、現状を鑑みてその選択しかない事を理解する。

 確かに大事な一戦ではあるが、まだ初戦。こんな最初の段階で人数を減らす訳にはいかない事をわかっていた。もちろん、最終戦であればこの命を使ってでも最後まで抗っただろうが……。

 数的不利は、後の戦いに多大なる影響を与える事をバーンから教えられたからだ。

 他種族に負ける等、我慢が出来る事ではないが、最後に笑うのは自分達ドワーフであると、心を納得させる。

 その後、彼等の取れる行動は一つしかなかった。

 これまでの状況、両種族のHRWWの出来の違い、ここから挽回する事は出来ないと判断し、残り4機のドワーフ機は全武装を放棄して両手を上げる。

 隊長機が降参宣言出来ない場合の、自分達の負けを示す方法であった。


こうして、第一戦、獣人対ドワーフはドワーフの負けで終わった。


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