第1章 侵食の矛先~老舗農家令嬢の裏の顔(4)~
何でも、この人物こそ、美咲と共に死体遺棄で逮捕されたフリーターの26歳の男であり、名を鈴木一馬と言う容疑者だった。
この男も又、東京都内の裕福な家庭に生まれながら、ロクに定職にも就かず、それどころか、ラジオ局のアナウンサーである母親の肩書を利用しては、エセ業界人を気取っている不良だったのである。おまけに、学生の時分から弱いものいじめばかりする等悪評が絶えず、金銭トラブルを起こしても、その都度、親が金で解決すると言うパターンで、のうのうと暮らしていたと言う噂さえあったのだ。
しかし、何故美咲はこの鈴木と言う男と、恋愛関係を持つにまで至ったのか?それには、こんな驚くべき経緯があった。
週刊誌の情報にも記されていたように、事件当時、大学の放送研究会に所属していた美咲は、と或る合コンの席で鈴木と対面し、彼が放送業界に詳しく、著名人や人気キャスターと縁があると言う話を機に意気投合し、やがて連絡先を交換した上で、交際へと発展したと言うのだ。
だが、その時鈴木は、29歳の子持ちのバツイチ女性とも交際をしており、或る日、別れ話のもつれからか、その女性と子供を殺害するに至ったと、別の週刊誌でも報じられている。
要は、2股交際の清算と言う名目で、美咲は先に犯罪を犯した鈴木の後始末を強引に手伝わされた格好となるのだが・・・、その後の報道が、智博をはじめとした近隣住民を激怒させるような事態に発展するのであった。