第5章 侵食の終焉~2つの秋川家に訪れた明暗(8)~
かくして、秋川農産は江戸時代以来掲げていた暖簾を降ろすことと相成ったのだが、それは同時に、長年智博が思い描いていた、地域一番のお茶屋になる夢が現実となった瞬間でもあるのだ!!
経営こそ、不景気の波を例外なく受けはしたものの、技術の面では、相も変わらず日々邁進したことで、昨年も農林水産大臣賞を受賞する等、より腕に磨きが掛けられていたのだった。そして、具体的な数字こそ、昨年より漸減ながらも、売り上げの面で、遂に念願の市内1位を獲得することとなった!!
「まぁ、あんまり人の不幸を無闇に喜ぶものでは無いが、辛抱強くやっておいて、良かっただろ?」
「うん。ほんと、父さんの言う通りにしておいて、良かった・・・。」
最初は、なかなか思い通りに事が進まず、苛立ちを覚えることが多かった智博ではあったが、以前、父から言われた「ほととぎす」の教えを胸に、短気を起こさず、かの徳川家康の如く、じっと好機を待って事を叶える形で、思い描いていたストーリーを実現出来たことに、彼は感無量の状態であった。
「ただな、これで満足してるようでは、まだまだだぞ。」
「どうして?」
「だって、よく言うじゃないか。『勝って兜の緒を締めよ』って。」
また、格言に託けた能書きたれの始まりかと、内心、智博は思っていたが・・・、
「今回は、相手の倒産もあって、こう言う結果が生まれたけど、同業他社はいくらでもいるんだぞ!!分かるか?」
「うん。確かに、この近辺でもお茶屋さんはいくらでもあるからね。」
「つまり、油断してたら、すぐに王座の椅子を明け渡すことになりかねないってことだ!!」
こうして智博は、改めて日々邁進の重要性を確認することとなった。
「そうか!!分かったよ、父さん。俺、来年も1位になれるよう、頑張るから!!」
「来年じゃなくて、ずっとだろ?」
「あっ、そうだった!!」
そして再び、伊藤親子の笑い声が一室の中に響いた。