第5章 侵食の終焉~2つの秋川家に訪れた明暗(5)~
その一方で、美咲の実家の方の秋川家は、没落の一途を辿っていた。止むを得ない一身上の都合とは言え、代表理事組合長が交代したことにより、後ろ盾を失った状態の美咲の父親は、農協内でも完全に居場所をなくしていた。
そしてそれは、農協が主催する行事の中でも、顕著な形で表れていた。
例えば、今年の夏祭り。いつもなら秋川農産の出店が敷地内にあったのだが、今年に限っては完全に締め出され、商品を販売するのはおろか、会場にさえ立ち入ることが出来なかったのである。
事実、夏祭りの会場で、美咲の父親を偶然見掛けた際、智博は他の青年部の職員と共に、
「帰れ帰れ!!お前は立ち入り禁止だ!!」
「そうだそうだ!!来ても、邪魔なだけだ!!さっさと出て行け!!」
と一方的に、罵声を浴びせ続けたと言う。
そして、9月に行われた荒茶の品評会の時に至っては、その開催日時も場所も、秋川家には全く伝わっていなかったと言う。
「ちょっと待って下さい!!幾ら何でも、これじゃ村八分同然じゃないですか!!」
「うるさい!!犯罪者の家族に、参加する資格など無い!!」
やはり、これには新任の組合長の力が大きく働いており、加えて、市の茶業協同組合や商工会議所も、秋川家のシャットアウトに手を貸している為、秋川にとっては多勢に無勢で、正に四面楚歌と言う訳なのである。
この残酷過ぎる不当な仕打ちの数々に、秋川は訴訟を起こすことも考えたが、例の娘の慰謝料裁判で多額の慰謝料を払う義務が既に生じていた為、経済的にも社会的にも八方塞がりにあると悟り、その選択肢は捨てざるを得なかったのであった・・・。