第5章 侵食の終焉~2つの秋川家に訪れた明暗(3)~
しばらくして、また咲希が口を開いた。
「由莉佳たちから聞いたんだけど、智博さん、すごく私のことを心配してくれてたんだって?」
「あぁ。だって、昔から知ってる同士の仲だったし。」
「実は、それがすごく嬉しかったの・・・。」
「それって?」
まだ恥じらいが抜けないのか、上手く自分の気持ちを伝えられない咲希だったが・・・、
「私があれだけ落ち込んでいたのに、親やお兄ちゃん以上に心配してくれてた感じだったし、あなたのお父さんも学校にお願いしたりと色々協力してくれたみたいだし、こう言うお父さんの息子さんって、きっと優しいいい人なんだなって・・・、私、思ったの。」
「いや、僕はただ、昔のように明るい咲希ちゃんに戻ってくれたらなと・・・。」
「だから、それがすごく嬉しかったの!!」
「えっ?そうなんだ・・・。」
漸く、言葉の真意を見抜いた感じだった智博に、咲希は更に続けた。
「確かに、昔から智博さんは明るくて優しい人だなって思ってたんだけど、こうやって、私が暗いドン底の状態に居た時でも、陰ながら私を見守ってくれてた感じだったし、1度は諦めかけてた夢を叶えられるよう、背中を押してくれた気がするの。」
「・・・。」
「だから、おかげで学校も卒業出来たし、実は私、市内の有名なケーキ屋さんへの就職も叶ったの!!」
「そうなんだ!!良かったね!!」
まだ、交際の是非への答えこそ出てなかったが、ついに、咲希が願っていたパティシエールへの道が大きく開いかれたことに、智博はこの上ない喜びを感じていた。