第4章 侵食の進行~次々と吹いて来る追い風(8)~
突如として訪れた吉報から数週間後、またしても智博に味方するような情報が明らかになった。
「第2審で、検察は秋川美咲被告の控訴を棄却し、検察・弁護側の双方が上告しなかった為、懲役3年の刑が確定。」
これにて、騒動の元凶となり、智博の野心に火を点ける事態となった出来事に終止符が打たれたことになった訳なのだが、それと同時に、農協では例の秋川家降ろしが本格化しつつあったのだった。
「これで娘さんの有罪が確定した訳なのだから、君には専務の座を降りてもらう。」
「ちょっと待って下さい!!これは美咲がしたことであって、私の仕事には何の関係も無いじゃないですか!!」
予てから、専務の座に居座り続けることを明言していた美咲の父であったが、トップが解任の意向を強く固めていたことから、立場は徐々に狭くなっていた。
「こうした君の傲慢な態度が、そのまま娘さんの性格にも遺伝したんじゃないのか?」
「そんな。酷いですよ、組合長!!」
「明らかに人の死体だと分かる物を犬の死体だと言い張るやつが、一体全体何処にいるんだね!!」
「だからそれは、私には関係の無いことでして・・・。」
更には、事件後に自ら関係先へのお詫び行脚をしたことを盾にして、必死に縋り付こうとする秋川だったが、組合長はこう言い放った。
「兎に角、この一件が市全体の農業、特に主力商品である茶へのイメージダウンにも繋がったのだし、君には親として、その責任を取ってもらうことにする!!」
「えっ?」
「もし、受け入れないと言うのなら、君を組合員から除名する!!分かったか!!」
「ちょっと、そんな無茶苦茶な!!」
傍から見ると、パワハラにも受け止められるが、最早、役員の大半が組合長のサイドに付いていることを思えば、もう専務の座に就き続けることが極めて困難な状況に陥っていた。
結局、正組合員への大きな格下げを飲む形で、秋川は除名を免れた訳なのだが、秋川家は更なる窮地に追い込まれつつあったのだった。