第4章 侵食の進行~次々と吹いて来る追い風(6)~
そして、いつしか暦は年の暮れになっていた。この時期は、農閑期に当たることもあってか、智博の仕事は営業活動や会合への参加が主たる物と化していたが、いつかは立場が逆転し、自分の方が地域一番の店になることを切に願いつつ、父と二人三脚で頑張る日々が続いていた。
そんな或る日、智博の店に届け物が来ていた。お歳暮だと思い開けてみると、そこにはメッセージカードが添えられたデコレーションケーキが入っていた。
「伊藤さん、今年はお世話になりました。伊藤さんの協力があったおかげで、私たちは再び楽しい学校生活を送ることが出来ました。もちろん、咲希もすごく喜んでいます。これはほんの気持ちですが、咲希が書いたレシピを元に、私たちが心を込めて作ったクリスマスケーキです。伊藤さんの口に合うかどうか不安ですけど、どうぞお召し上がり下さい。そして、良いお年を迎えて下さい!! 小林由莉佳 勝亦陽菜 井出亜里沙」
そしてこの日、伊藤家の夕食にはそのクリスマスケーキが加わり、家族5人で美味しく戴いたのだが、
「智博。今どきの子にしては、すごく礼儀正しい娘たちだな!!」
と父・謹一郎は特に、3人をべた褒めしていたのだった。
こうして、突然慌ただしくなった年は終わりを告げようとしていたのだが、礼状を書く智博の心は、皆への感謝の気持ちと、なかなか計画が前に進まないことへのジレンマに侵されていたのだった・・・。