第4章 侵食の進行~次々と吹いて来る追い風(4)~
しかしながら、農協の人事に関しては全くと言っていい程動きが無く、智博も日々の農作業や営業にひたすら精を出す毎日が続いていた。
そんな或る日、智博のスマホに電話が掛かって来た。
「はい。」
「もしもし、伊藤さんですか?こないだお会いした、岳南製菓専門学校の小林ですけど、ちょっと聞いてほしいことがあって、電話したんです!!」
声の主は、先日寄せ書きを渡しに訪れた咲希の親友のうちの1人だった。
「えっ、何でしょうか?」
「やっと、咲希が学校に来る決意を固めたんですよ!!」
「ほんとに?それは良かった!!」
何でも、昨日になって親友のスマホに、
「もう1度、パティシエールになる為に、頑張ってみる!!」
と、咲希本人から連絡があり、学校にも復学の手続きをしたと言うことから、居ても立っても居られなくなり、事前に連絡先を伝えられた伊藤に電話して来たのだと言う。
「これも、咲希のお兄さんと伊藤さんが、一緒に協力してくれたおかげです!!」
「いや、僕はたまたまその場にいて、名刺を渡しただけだから・・・。」
「そんなことないです!!この度は、本当にありがとうございました!!」
謙遜する智博に、尚もお礼の気持ちを伝えた親友であったが、漸く、咲希が夢に向かって再スタートを切ったことに、心底喜びを感じたひと時になったのは、間違いないようだ。




