第3章 侵食の始まり~名家の外堀を埋める時(12)~
「先輩。何か、美咲んとこ、婚約相手の家族とすっげぇ揉めてるらしいっすよ!!」
これは、逮捕の一報を伝えて来た、近所のおばさんルートで仕入れた情報なのだが、やはり、犯罪行為に手に染めていたと言う事実を隠した上で、交際の果てに結婚まで考えていたことが、相手の逆鱗に触れたらしく、婚約解消は勿論のこと、何と、慰謝料問題にまで発展していたのだった。
「やっぱ、あそこ県内でも屈指の資産家だから、足元見られちゃってるようっすね!!」
「うん。でも、これが直接、どの程度まで影響を及ぼすかは疑問だけどね・・・。」
やはり、私的なトラブルである分、家業の経営に何処までダメージがあるかは未知数だと智博は思ってるようだが、翔太はこう続けた。
「何か、相手の家族が離婚相談に詳しい弁護士を立てて来たみたいで、完全にあっちの弱みを握ってるようなんっすよ!!」
「ってことは、『下手な真似をすると、(経営が)どうなっても知らねぇぞ!!』って奴か?」
「まぁ、そこまで荒っぽくはないだろうけど、あっちも弁護士費用で余計な出費がかかるってことだし、前よりは余裕をかませなくはなるでしょ!!」
「そうか!!」
傍から見ると、良からぬ話にも聞こえるが、後々、美咲の家業に何らかの形で影を落とす要素にはなり得そうだと言うことには違いないようだと智博は感じていた。そして、まだこけら落としに過ぎないものの、名家の外堀を埋めるべく、「鳴かぬなら 鳴くまで待とう ほととぎす」の精神を胸に、侵食の構図を描き続けていた。