序章 ~侵食の前の嵐(2)~
「まさか、あの子が・・・。」
「そんなことをするような子じゃなかったのに・・。」
近隣の住民は皆、口を揃えてこう言っていた。
確かに、美咲はとても犯罪とはおおよそ繋がり辛い家庭環境で育っていて、家業の農家も朝早くから一生懸命やっていただけに、その謎は深まるばかりであった。
その噂をよそに、智博はいつもと変り無く、今日もお茶の世話に精を出していたのだった。しかし、智博の心は何処か憂鬱であった。何故なら、事件発覚以降、マスコミの取材がひっきりなしにやって来るからであった。
特に、智博は美咲と同学年であったことから、何か情報をと作業の合間を縫っては、自分に近づいて来るのであった。
「マジ、うぜぇ・・・。」
お茶作りに本腰を入れつつある智博にとって、マスコミはただの雑音でしか無かった。まるで、作業の最中に周りを飛び交うハエかカのような感じで・・・。
しかし、智博の悩みの種は、それだけでは無かった。
それは近所にある「秋川園」と言う名の店舗が、事件故の風評被害をもろに食らっていて、その家族が大変迷惑していることだった。中でも、特に智博が気にしていたのは・・・、小学生時代から可愛がっていた後輩・翔太のことであった。