第3章 侵食の始まり~名家の外堀を埋める時(5)~
こうして、打倒秋川家の野望を果たすべく、智博は仕事の傍ら、作戦の模索を続けていたのだが、やはり、これまで感情の赴くままに策を練っていた節があるだけに、なかなか「これだ!!」と言うものを思い浮かべられずにいた。
そんな或る日、智博は翔太の店を訪ねた。
「こんにちは。翔太君は居ますか?」
「居ますよ。ちょっと待って下さいね。翔太、伊藤君が来てるわよ!!」
ここのところ、本業の多忙により、なかなか顔を合わせられずにいた2人だったが、家業と咲希のことが心配だったのか、農作業の合間を縫って会うことにしたのだと言う。
「どうだ?商売の方は?」
「先輩とこの協力もあって、どうにか誤解は解けたし、売り上げも回復して来てますよ!!」
予てから、智博が父親と共に信頼回復の手助けをしていたことで、他の同業者からも助太刀を買う所が出た模様で、つい最近まで秋川園に着せられていた汚名は、綺麗サッパリ洗い流すことが出来たらしい。
「そうか、それは良かった。で、咲希ちゃんの方はどうなんだ?」
「それがなんですけど・・・。」
どうやら、部屋からは出て来るようにはなり、家族への挨拶も、一家揃っての食事に関しても以前の状態に戻っては来てるものの、やはり、肝心の学校への復帰は、かなりのためらいがあるのだと言う。
「しかし、一体誰がこんな酷いことを・・・。」
「それは分からないっすけど、幾ら、個人的な妬みがあるにしても異常だし・・・、どうすりゃいいんすかね?」
折角の再会も、その場には徐々に重い空気が流れ始めていた。