第3章 侵食の始まり~名家の外堀を埋める時(3)~
しかし、謹一郎は話を続けた。
「ほら、『鳴かぬなら・・・』と来たら、『殺してしまえ』とか『鳴かせてみせよう』とか『鳴くまで待とう』って続くだろう。中でも信長の場合は最初の『殺してしまえ』がそれに当たるわけで・・・。」
「だから、一体何が言いたいんだよ!!」
ちと回りくどく聞こえる父の話に、思わず苛立ちを覚えた智博だったが、
「話は最後まで聞くもんだ!!」
と、謹一郎は一喝し、尚も話を進めた。
「ほら、『殺してしまえ』ってのは、それだけ信長が短気であることを表していて、つまり、今の智博は怒りの感情に任せる形で、事を進めようとしてると言うわけだ。」
「じゃぁ、『鳴かせて見せよう』ってやり方の方がいいとでも言いたいの?」
「違う。何かをやろうにしても、まだお前のキャリアでは若気の至りで、かえって失敗する可能性の方が高い。それよりもむしろ、これからもっと経験を積んで、周りからに更に自分の存在を認めてもらう、すなわち『鳴くまで待とう』の精神で行く方がいいんじゃないかと、父さんは思うんだ。」
智博は、一瞬押し黙った。内心では正論と思いつつも、何処か納得出来ない、一種の能書きを垂れているようにしか思えない何かがあったようだ。だが、次の父の提案によって、半ば一本気な智博の心にも変化が訪れたのだ!!