第3章 侵食の始まり~名家の外堀を埋める時(1)~
少し経って、過熱気味だったマスコミの取材攻勢も鳴りを潜めては来たものの、事件の真相が明るみになったことで、街の秋川家への評判は擁護派と批判派で完全に二分化されていた。
「悪いのは鈴木とか言う男の方。それで美咲ちゃんの家族が叩かれるのはおかしい。」
「殺人事件の片棒を担いでおきながら、2年も隠し通したばかりか、婚約までするなんてとんでもない!!」
地域は勿論、県内でも有数且つ伝統のある資産家であるが故に、一部では秋川家の再興を願う声も挙がっていたが、それは年齢層が高い住民達が大半であったと言う。その一方で、若年層は街の評判を著しく汚したとして、断固排除の方向へと言う声が圧倒的だった。
無論、智博は後者の部類に属する者であり、かの不祥事を大義名分にした上で、徹底的な秋川家潰しの策略をに秘かに練り始めていたのだった。
そして、事件発覚から3か月後、美咲の初公判のニュースが報じられた。
しかし、鈴木が「間違いありません。」と起訴事実を全面的に認めたのに対し、美咲は「遺体を埋めたことは事実ですが、人間だったとは知らなかったし、(遺棄を)共謀したこともありません。」とほぼ否認したのである。
「くっ!!何て、往生際の悪い野郎だ!!いつか絶対に、こいつの家を潰してやる!!」
誠意なき美咲の発言に、智博のはらわたは再び煮えくり返った。そして、その話を父に伝えると同時に、地域で立場を逆転させる画策があることをもカミングアウトしたのであった。