序章 ~侵食の前の嵐(1)~
その知らせは、正に「寝耳に水」だった。そして、誰もが耳を疑う内容だった。
「ねぇ、ちょっと聞いてって!!」
それは、普段お世話になっている、近所の農家のおばさんの口から発せられた。しかも、何やら尋常じゃないくらいに、焦った様子で。
「何すか?いきなり。」
朝からお茶ッ葉の世話をしていた智博は、そう言って振り向いた。
「何すかって、近くの秋川さんとこの美咲ちゃんが警察に捕まったらしいのよ!!それも、死体遺棄容疑で!!」
「はぁ?」
その秋川さんとこの美咲ちゃんとかいう奴は、智博の小・中学校時代の同期生で、近所では勿論、県内でも有数の豪農の長女として有名だった。まさか、あいつがそんなことをするなんて・・・。
「マジっすか?」
「そうなのよ。そういやぁ、うちの近くにパトカーが通り掛かってねぇ。どっか交通事故でもあったのかと思ったら、これだもの。もう、おったまげたよ。ホントに。」
智博は作業をしつつも、おばさんの話に耳を傾けていた。そして、昼になって一息ついた時、何気なく開いたインターネットのニュースで、智博は事件の大まかな内容を目にすることになる。そしてそれは、驚愕の内容であった。
『相模市の山林で若い女性の遺体発見された事件で、神奈川県警は26歳のフリーターの男と、農業手伝いの24歳の女をそれぞれ逮捕した。』
その24歳の女こそ、正に、秋川さんとこの美咲ちゃんだったのだ!!
記事を読んだ智博の心に、ふと或る野望が芽生えた。
「よし!!これで、俺んちが地域一番のお茶屋になれっかも!!」
こうして、侵食の構図は、描き始められたのだった。