一章 美少女は家には来ない、だから探しに行くんだよ ④
四
「いってえ~。純白の魔法が切れたら、顔がまた痛くなってき
たぞ~」
良太は顔に痛みを覚えて動かしていた歯ブラシを止めた。
しかし、虫歯は防ぎたいので痛みに耐えながら、歯みがきを
続行する。
今の時間は夜十時半過ぎ。ここは3LDKの良太の自宅であ
った。風呂から出た良太はパジャマに着替えて、現在、洗面所
で歯みがきをしている最中だった。
――考えてみれば今日は運が良かったな。今まで何も女の子
と出会えなかったオレが、二人も女の子と出会えたのはありが
たいことだぜ。
――これも苦痛を伴う改革ってやつで、人生を大きく変える
には苦痛が必要なのかもしれない……まあ、純白も見られたか
ら良かったことにするか。
歯みがき終了後はコップでうがいをして口をすっきりさせる
と鏡の前でニヤニヤしていた。なるみという少女の純白をまた
思い出したのだ。
同時に彼女のボディーライン――胸やお尻のふくらみもセッ
トで思い出してしまう。
たぶん、数日間はなるみ妄想で人生を楽しめるだろう。
「兄ちゃん、一人で気持ち悪い顔をしてんなよ~。それで外に
出たら逮捕されるぞ~」
すると、後から着たパジャマ姿の弟がバカにした口調で言って
きた。弟の名前は小川幸太。
今年中学二年になったばかりの少年だ。
良太よりも体は小さいが頭は賢く勉強は得意らしい。しかも、
外見は他人からはかわいらしいと呼ばれる形態のようだ。
普段なら文句を言ってやる所だが、上機嫌なため許してやる
事にする。
「あれは女だな。女。学校でなんかあったんだよ。ぐへへへ」
リビングにあるテレビでスポーツニュースを見ていた五十代
前半の父親。三流公務員の――小川源太が、
良太に対して下品に笑った。
直後、五十代に入った母親。専業主婦の――小川良子(おが
わりょうこ)がエプロン姿で出てきて、眉間にシワを寄せて怒
鳴ってきた。
「良太! あんた変な事件を起こすんじゃないよ! あんたが
警察につかまったらワイドショーが取材に来るよ! そしたら
日本中の笑いもんにされるんだからねえ!」
「分かった、分かった。もう寝るから邪魔するな」
良太はめんどくさそうに答えた。
息子が警察に捕まるより、ワイドショーが取材に来る方が
嫌とはおかしいんじゃないかと言おうとしたが、バカらしい
のでやめる。
頭の悪そうな家族と関わってもムダだ。
良太は四畳半の自室に行き、押入れを開けてふとんを敷い
た。良太の部屋は玄関のすぐそばにある洋室である。部屋の
中は極めてシンプル。
北の窓際にはタンス。南には押入れ。
東には二十インチのテレビとDVDプレイヤーとゲーム機
とCDプレイヤー。
西にはパソコンデスクとパソコン。小型の本棚に漫画とラ
イトノベルが合計二百冊ほど詰まっているだけで何もない。
時計を見ると十一時近いのでふとんに入り、電気を消して
寝ることにした。
良太は基本的に早寝早起きが基本の朝型人間であった。
真っ暗い天井を見上げると、急に不安がこみあげてきた。
――しかし、なるみって奴は見た目はかわいいけど、わが
ままな性格だよな。でも葵ちゃんの方は性格が良さそうだけ
ど女の子らしさが足りないな。
――どっちも何かが足りないんだよ。やっぱり、性格も外
見もパーフェクトな清純派美少女がいいよなあ。今の時代に
はいないのかもしれないけどさあ……。
目を閉じると思い浮かぶのは夕方の音楽室。そこで一人
グランドピアノを弾く清純派美少女の姿。
もう今の時代には絶滅していると分かると、余計にそれを
手に入れたくなる激しい欲求がこみあげてくる。
この感覚を言葉で表現すると、たぶん『切ない』というの
だろう。
――まあ、ないものねだりをしてもしょうがない。だいた
いオレだって百点満点で言えば、六十点の男だしな。でも、な
るみも葵ちゃんも七十点はあるだろう。
――六十点のオレが七十点の女の子と出会えたんだから、
ありがたいと思う事にしようか。
頭の中で結論を出すと、急に眠気が襲ってきたので良太は
目を閉じた。
一章はここでおしまいでございます。
次は二章やります。