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コイン・メイカー  作者: 安田勇
3/55

一章  美少女は家には来ない、だから探しに行くんだよ ③

  三


「わたしの名前は広瀬なるみ。近いうちにこの学校のナン

バーワン・アイドルになる女の子よ。顔と名前をちゃんと

覚えておきなさい」

「ほお~。そうかあ~。へえ~」 


 西浦新太にしうらしんたは一人の少年と二人の少

女が話しこむ光景を見かけた。家に帰るため、校門前に

ある噴水広場を抜ける時に起きた出来事だった。


 生意気そうな外人少女に対して、かっこ悪い少年が受

け答えをしている。

 外人少女が自己紹介をしている様子からすると二人は

出会って間もないらしい。

 かっこ悪い少年は一度も話した事はないが、顔と名前

はよく覚えている。

 西浦の頭に血が上った! はっきり言えばむかついた

のだ!


 ――し、信じられない! 学園一ダサい男の小川良太

が女の子と話してるっ! あいつはだけは絶対に彼女がで

きないと思ってたのにっ! 

 ――あいつだけは一生彼女ができなくて、破滅すると信じ

ていたのにいいっっ!


 ――なんだよ、これはっ! 僕よりもダサくて頭も悪そ

うで金もなさそうな最低男が女の子と話してるなんて、今

の日本はどっかおかしいっ! 


 ――あいつが女の子とつきあえるなら、僕には十人ぐら

い美少女の彼女がいてもいいじゃないかあっ!


 西浦は心の中で怒鳴った! 『自分よりも下の男』が異

性と話している事に大ショックを受けた! 

 怒りで目の前が真っ白になった!

 

 西浦はこの四月で高校二年生になった少年だった。歳は

十六歳。

 髪型は坊ちゃん刈り。身長は百七十センチちょうど。

体つきは細くゴボウのようだと言われる。

 顔立ちは青白くて中性的だった。


 ナヨナヨしているとか、男らしくないとか西浦をけなす

者もいるが無視していた。西浦は自分を『内向的で儚い雰

囲気を持つ美少年』であると心の底から信じていた。

 西浦は男女交際を楽しむ『自分よりも下の少年』に近づ

き、無言で通り過ぎた。


 ――破滅しろっ! 不幸になれっ! 一生泣いて暮らせっ!


 通り過ぎる瞬間。心の中で何度も呪いをかける。

 西浦にとって呪いは息をするほど日常的な行為だ。西浦

は横目で二人の少女の外見をチェックする。

 三十歩程前進して彼らの声が聞こえなくなる位置まで来る

と、笑いがこみあげてきた。


 ――ふん……まあいいよ。どうせ、あいつと一緒にいる

のは、二人ともかわいい女の子じゃなかったしね。


 さっきの外国人は顔はロリ系だけど、体がセクシー系

で最低だった。僕は巨乳って大嫌いなんだよね。下品で

気持ち悪いし。


 ――それに性格もわがままな感じだから百点満点中三十点。

もう一人の二年は顔も服装も男っぽくて、少しもロリ系じゃ

ないから十五点だね。

 ――僕はセクシー系って絶対に嫌だな。絶対にロリ系がい

い。美人よりもかわいい女の子の方が絶対に上だよ。


 『自分よりも下の少年』をバカにした後、少女もセットで

バカにすると少し気分がすっきりする。西浦には理想の美少

女がいた。


 顔、体、声の全てがパーフェクトなロリ少女だ。

 その理想から少しでもずれると大減点になるのだ。過去の

人生で及第点である八十点をこえる美少女は存在していない。

少なくとも三次元世界には。


 ――やっぱり、顔も体も声もロリの女の子ってなかなか出

会えないなあ。どうしたらいいんだろう……このまま、ずっ

と彼女なしなんて嫌だよ。


 ――なんで僕に話しかけてくれるロリ系の女の子がいない

のかな? 僕って活発なタイプじゃないけど、静かで落ち着

きのある美少年なのに。

 ――僕の魅力に気付いてくれるロリ系の女の子が、学校に

一人もいないなんておかしいよ。


 問題を分析すると消えていた怒りが、再びこみあげてくる。

息が苦しくなり頭も痛くなる。携帯電話のメール着信音がし

たため、西浦はポケットから電話を抜いた。相手は見た事が

ない差出人だった。

 メールには次のように書かれていた。





 題 残念な報告


 富士原市立商業高校に通うあなたに残念な報告があります。

あなたは今まで異性とつきあった経験がありませんよね? 


 それはあなたの努力が足りないからではありません。魅力

的なあなたに近づこうとする少女を何者かが邪魔しているか

らです。

 我々がある方法で調査した所、あなたに告白したいと思っ

ている女子学生は学校内に数人存在していました。


(その中には顔、体、声のすべてがパーフェクトなロリ少女

もいます)しかし、何者かの邪魔によって彼女達は告白でき

ない状況にあります。このままでは、あなたをあきらめてし

まうかもしれません。

 我々、健全純愛育成カンパニーはあなたが彼女達とお付き

合いできるように、協力するつもりでいます。大至急メール

を下さい。





 ――どうして、こいつは僕の事をこんなに知ってるんだ?

 ――僕がロリ少女を好きだと知ってる奴は一人もいないの

に、どうやって調べたんだろう? 

 ――僕のパソコンのハードディスク? 僕のネットの履

歴? 僕のパソコンの十八禁ゲーム? 

 ――僕の見ているアニメ? 僕が好きなライトノベル?

 

 メールを読んだ直後。電話をつかむ西浦の手はガタガタと

ふるえていた。


 半分は自分の個人情報を他人に知られた恐怖で。残りの半

分は自分の人生を変えることができるかもしれない期待で。


 ――もしかしたら、こいつは超能力者で僕の心を読んだの

かもしれない。だって、このタイミングでメールを送ってく

るなんておかしいよ。

 ――うわあ! こいつの言ってる事が本当だったらやば

いっ! パーフェクトなロリ少女が僕に告白できなかったら

やばすぎだよ! 何とかしないとっ!

 

 西浦は携帯電話番号を書いたメールを高速で相手に返信し

た。送った文はたったの一行。『電話で詳しい話を聞かせて

下さい』。

 自分の電話番号を他人に知られる事より、幸せのチャンス

を逃す方が嫌だった。


「先輩。ちょっといいですか? 美術部に行きたいんですけ

ど、場所が分からないんで案内してもらえませんか?」


 気が付くと西浦の目の前に見知らぬ女子生徒が立っていた。

自分を先輩と呼んだため 新一年生だと分かる。身長はかな

り高めで西浦とほぼ同じ。

 最近、学校内で多く目にするショートカットの髪型で、

さっぱりとした顔立ちをしている。


 誰に似ているといえば先程、『赤点巨乳女』といた十五点

の少女に近い。つまり非ロリ系の少女。西浦は彼女の姿を上

から下まで見て採点を始めた。


 ――この女って背が高すぎたよね。僕は背が高い女って嫌

なんだよ。

 ――あと、髪が短いのもアウト。それに声もしゃべり方も

全然ロリ系でもないし。この女って全体的に少しもそそられ

ないなあ……百点満点で十点って感じ。


 西浦は十点だと分かると、とたんに目の前にいる少女に興

味を失った。

「……悪いけど僕は急いでるんだ。誰か他の人に聞いてよ」

 早口で告げると新一年生の横をぬけて通り過ぎた。校門

をぬけて外に出る。

 ――ああ、だめだっ! ロリ系じゃない女に話しかけられ

ても、ぜんぜん、うれしくないよ! 

 ――パーフェクトなロリ少女と出会いたいよ! 


 ――僕に告白したいロリ少女がいるなら絶対に会いたいっ! 

十万円払ってでもいいから会いたいよおおっ!

 西浦の頭の中にあるのはロリ少女の事だけだ。それ以外の

異性――例え世界一のセクシー美女が水着姿で誘惑しても無視

するだろう。

 全身を構成する六十兆個の細胞が『ロリ! ロリ! ロリ!』

の大合唱をしていた。


 自分よりも先に下校していた二人の学生の後ろ姿が目に入

る。男子と女子のカップルだ。横顔しか見えないうえに距離が

離れているせいで声はよく聞こえない。

 ただ、何か楽しそうに会話する様子は伝わってきた。


「もしかしたら、あいつかも? 僕のロリ少女の告白を邪魔

しているのは、あいつかもしれない……」

 先程のメールでは自分の恋愛を邪魔する『敵の存在』につい

て書かれていた。その事実を知った今では、誰も彼もが『敵』

に見えてしまう。


「僕に特殊能力があればいいのに。特殊能力があれば、あい

つらを破滅させて不幸にしてやれるのに。僕の前で幸せを見

せつけるなんて本当にむかつく」


 西浦は体の中で暗い炎がメラメラと燃え上がるのを感じた。

気が付けばいつもの呪いの言葉を口にしていた。


「……破滅しろっ! 不幸になれっ! 一生泣いて暮らせっ!」


 これまでは心の中でそれを思うだけだった。しかし、今は

声にして半径五メートル以上に聞こえる音量で呪いをかけてい

た。

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