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コイン・メイカー  作者: 安田勇
13/55

三章 一夜に起きた二人の男の三流コメディー ③

   三


「金と指輪で魔法をかけるって言われても、信じら

れないなあ。だいたい、魔法っていう言葉が何度聞

いてもアホらしい」


 良太が不平をもらすと、石川が答えるより先に志

歩が口をはさんだ。

「石川さんにお任せすると妙な方向にお話がそれま

すので、この先はわたくしがご説明いたします。石

川さんはしばらく、おだまりになっていて下さいね?」


「へいへい」

 石川はニヤニヤ笑いながら返事をすると、スーツ

のポケットから文庫本を出して読み出した。題名は

血と骨。作者は梁石日。


良太にはよく分からないが、題名で判断すると外

国人が書いた医学の本なのだろう。


「良太さんはお父様やお母様から、こうおっしゃら

れた事はございませんか?『お金を触った後はしっ

かり手を洗いなさい』と」


 優しく美しい少女の声でありながら、ていねいな

言葉使いで話す志歩に良太は面食らった。

汚い男の声と汚い言葉使いで話す石川とは正反対

だ。何だか妙な気分になり、良太は緊張しながら答

えた。


「べ、別にオレの親はお父様とかお母様っていうイ

メージじゃないけど、ガキの頃にそんな事を何度か

言われたことがあったなあ」

「では、お金に触れた後に手を洗う理由をご存知で

すか?」


「それは単純に金が汚いからだ。金は知らない奴

がいっぱい触ってきた物だろう? バイキンが大

量についてると思うぞ」


「ええ、おっしゃる通りです。でも、手を洗うの

は衛生上の問題だけでしょうか? 忘れてはいけ

ない大切な理由が、もう一つあるのですけれど」


「それって呪いとか念みたいな話か? 科学的な

ことじゃないけど、金は人間が持つ欲望とか感情

と多く触れ合うから、目に見えない汚れがついて

いるって事を誰かが言っていたけどな」


「大正解ですわ。もう一つの重大な理由は念。今、

良太さんがお気づきになられたように、お金には

誰かの念が宿るものなのです。


わたくし達は念のこめられた特殊なお金を念銭

(ねんせん)と呼び、念銭にこめられた念を取り

出すことで魔法を使います。

 それは念術ねんじゅつと言う名で、念術の

使い手を念術師ねんじゅつしと呼びます」


 はっきりとした口調で志歩は魔法――念術と

かいう物について説明した。

石川も葵も夏夜も何も言わず話を聞いている。

そんな事は千年前から常識という顔をしていた。


聞きなれない用語に混乱し、良太は自分一人が

取り残された孤独感をおぼえた。腕組みをして

うなりながら質問をした。


「うーん……信じられないけど意味は分かった。

仮に人が念を持っていることにしよう。じゃあ、

念はどういう時に出るんだ?」


「人の心の中で起きる現象であるため、確かな

事は分かりません。ただ一つ言えるのは、人が

何らかの感情や欲望を覚えた時に念は生まれる

らしいという事です」


「どっかの高校三年生が、卒業式までに彼女を

作りたいと必死で思いつめりゃあ、念が出るか

もしれねえなあ~?」

 石川が本から目を離して良太の顔を見ながら、

ニヤニヤ笑ってヤジを飛ばした。


「それは、どういう意味ですの?」

「何の話?」


 志歩と夏夜の二人が同時にたずねてきた。二

人は意味が分からないように良太と石川の顔を

ちらちら見ている。


だが、葵は一人だけ口に手を当てて、女の子ら

しくない大あくびをしている。良太の事情を知っ

ているのか、興味がないのか不明なリアクション

だ。


「へ、へえー。そういう三年生もいるのかー。面

白いなあー」

 良太は他人事のフリをした。ここに来た動機が

彼女を作るためだと知られたくなかった。


 自分が女の子にモテない男だと証明するよう

でつらい。


 いつか気づかれるとしても、最後までとぼけ

る事を良太は決めた。これ以上続くと、ボロが

出そうなので別の質問をする。


「でも、人の体から念が出るなら直接、人の体

で術を使えばいいじゃんか? どうして、わざ

わざ金を代用するようなめんどうくさい事をす

るんだ?」


「……人が持つ念は純度が低いから」


 水でしめったような少女の声――今度は夏夜

が話し出した。彼女の声は小さいが、話し方に

異様な迫力がある。良太を含めた全員の視線が

夏夜に集中した。


「念を術として使うには精錬して純度を高めな

いといけない。でも、人が持つ念は感情や欲望

を源に生まれるから不安定で激しく変わる。

 例えば先輩は昨日まで大好きだった物が、次

の日に大嫌いになってた事ってない?」


「そこまで激しく変わらないけど、去年は面白

いと思っていた本とか漫画が次の年に読み返し

たら、つまらなかった事はあるな」


「それと同じ。人が持つ念は時と場合により激

しく変わるから、純度が低くて術を使うのはす

ごい大変。

 でも、お金に入った念は精錬されて純度が高

いから、術として使えるエネルギーになるの。

 だから、夏夜たち念術師は念銭というお金を

使う」


 夏夜はテーブルにある一枚の百円をつまみあ

げて良太に見せた。良太の目にはただの百円硬

貨にしか見えないが、念銭という魔法の品なの

だろう。


 念術師とかいう魔法使いには、ただの百円が

特別な価値のある何かに見えるのかもしれない。

 この話が全部本当だとすれば……だが。


「お金は小さくて持ち歩きやすいし、たくさん

の人の欲望や感情と関わる事が多い。だから、

人の念がたまりやすい。

 人は念銭という道具を持たないと術が使えな

い事を覚えて。夏夜が学校で小銭を買い取って

いるのは念術のためなの」


「ふーん。なるほど。じゃあ、仮に人が出す念

が金にたまる事にしよう。となると、クレジッ

トカードとか銀行振込の金は念がたまらないの

か?」


「たまらない。念がたまるのは直接人が関わっ

たお金だけ。それも紙のお金じゃなくて小銭だ

け」

「紙の金には念がたまらないってどうしてだ?

 世の中に出回るのは小銭よりも札の方が多い

し、札の方が念はこもりやすいと思うぞ」


「人が持つ念は紙よりも金属にたまる性質があ

るの。紙は薄くて軽いから宿る念はほんの少し。

とても術を使える量にはならない」


「金属に念が宿るとすれば、小銭以外の金属は

どうだ? 例えば野球部が使う金属バット。若

いねえちゃんが耳につけているピアス。


 乗り物でいえば自転車とか車とか、駅の階段

にある手すりとか、今の世の中はたくさん金属

が使われているじゃんか。そういうのには念は

宿らないのか?」


「……うーん、えっと」

 夏夜は両目で天井を見上げながら言いよどん

だ。

 石川は本を読み続けて、葵はテーブルに置かれ

た小銭を触って遊んでいる。二人とも自分の世界

に入っていて会話をしそうな様子はない。

 夏夜の代わりに答えたのは志歩だった。


「基本的には金属で作られたお金にしか、念は

宿らないと言われています」


「じゃあ、どうして金属で作られた金だけなん

だ? 金に念がたまるのは分かるし、紙の金より

も金属製の小銭に念がたまるのも分かる。


 だけど、念が金属にたまる性質があるなら、

他の金属に念がたまらない理由を教えてくれよ。

 もし理由がないと、三流ライトノベルの強引

な設定になっちゃうぞ」


 悪意をこめたわけではないが、良太は志歩を

きびしく問いつめた。

 現実離れした話は終わりにして欲しいのが本

音だった。良太は基本的に、魔法も超能力も霊

能力の存在も信じていない人間だ。


 そうした超科学の話はフィクションの中だけに

とどめてほしいと思った。

 志歩は困るわけでもなく怒るわけでもなく、

おっとりした優しい笑顔を浮かべて静かに言い

返した。


「それは金属に念が宿るのではなくお金という

概念がいねんに念が宿るためです」

「概念?……どういう意味だ?」

「良太さんにお聞きしますが、一万円札はただ

の紙切れだとお思いですか?」


「そんなアホな事は思わないぞ。一万円は紙だけ

ど一万円分の価値がある金だ。一万円分の物とか

サービスと交換できる引きかえ券じゃんか」


「ええ、おっしゃる通り。お金は物やサービス

と交換するための引きかえ券。誰もが同じ事を

思っているはずです。

 それをもっと大げさな言葉で言えば、人はお

金を力だと思っていると考えられませんか?

 

 誰でも人はお金に対して、こうあってほしい

という様々な願いをたくします。人がお金の力

に対して持つ希望や幻想が、お金に宿り念にな

るのでしょう。お金以外の金属に念が宿らない

のは、そうした幻想を持てないせいかもしれま

せん」


「うーむ……ここにいる四人が魔法使いという

話はよーく分かった。その魔法が金の中にある

念で使う事もよーく分かった。

 でも、魔法がこの世にある事がどうしても信

じられない。

 もし魔法があるっていうならオレに見せてく

れよ」


「そう言うと思ったぜ。じゃあ、今からとなり

のボロ工場で魔法ショーを見せてやろう。ショ

ックでぶったまげるぞ」


 石川は意味ありげに笑うと文庫本を閉じて立

ち上がった。店の隅に向かうと、細長い物体を

持ってきた。

 石川の手に握られていたのは一本の金属バッ

トだった。




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