表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。

ホラー短編作品集

漆黒の狙撃手。

作者: 候岐禎簾

「もしかして、アイツが二人をやったのか…!」

目の前にいる不可思議な存在を間近で見て、ワシは改めて猟銃のグリップを力強く握り締めた。

この山で猟師仲間の又蔵またぞう義吉よしきちが行方不明になってから今年で5年になった。

一度は猟師を引退していたのだが、二人が姿を消したことに衝撃を受け、ワシはまた銃を手にした。

村の者の話によると又蔵と義吉はこの羽婆山はばやまでいなくなったらしい。


二人の身に何があったかはワシにも正直わからん。

でもベテラン猟師である二人が行方不明になったということはそれ相応の獲物と出くわしたのだろう。


いや、もしかしたら、獲物と呼べるものではないのかもしれない…。


この地域には昔からの風習で伽屍合かしごうというものがある。

死んだ人を蘇らせる儀式のようなものじゃ。

大変危険な儀式のため、村の長老衆の取り決めでワシがまだ子供の頃、禁止された。

しかし、それを守らない人がいてその儀式をしてしまった。

たしかに死人は蘇った。生きる亡霊である伽屍かしとなって。


ワシの目の前にいるヤツがもし伽屍だとしたら二人はこいつにやられたのか?

儀式が不完全だったのかヤツの体中から骨が見え隠れしている。

幸いにもヤツはまだこっちに気づいていない。

それもそのはずだ。ワシはこれまで獲物に気づかれたことがない。

そんなワシのこと人はを漆黒の狙撃手と呼ぶ。

今ならやれる。間違いなく仕留めることができる。

ワシは照準をヤツの頭に向けた。

距離にして約25メートル。当たらない訳はない。

そう確信してゆっくりと引き金をひいた。


「バァーン!」

森に銃声が響きわたる。


たしかな手応えがあった。

ヤツはこの場に崩れ落ちた。


「やったぞ。又蔵、義吉、仇は取ったぞ!」

ワシは勝鬨かちどきをあげた。

そして仕留めたかどうか確認するためにヤツに接近した。

そして顔を確認する。


「おっ…。お前は!?又蔵じゃないか!?」

ワシは驚愕の事実を見た。

「なっ…。なぜじゃ!?なぜお前が伽屍になってるんじゃ!?」

そこには変わり果てた又蔵がいた。

ワシはパニックになった。

いったいどういうことなのだ。

なぜ又蔵が…。いや、落ち着け落ち着け…。

ワシは自分にそう言い聞かした。

落ち着かなければ次の行動に支障がでる。これは猟を通じて学んだ事実だ。

ワシは状況を整理した。

そして、ある答えに行き着いた。

「もしかして、伽屍は感染して増えていくのか…」

もしそうだとしたら、この事実を村の長老に伝えないといけない。

「又蔵。後で供養してやるからな…。しばらくここにいてくれ」

そして、ゆっくりと又蔵をその場に寝かした。

ワシは周囲の様子を伺いながら、山を降りるべく歩きだした。

「とりあえず村に帰ったら長老に報告しよう。そして、猟師隊を結成して山狩りを行う。ワシの勘が合っていれば伽屍はまだいる。危険な奴らをこのままにはしておけない」

そう、考えをまとめた。

その時だ。

後ろからもの音がする。

「誰だ!」

ワシは猟銃を向けた。

そこには伽屍になり変わり果てた義吉の姿があった。

「くっ…」

その時、引き金を引くのを躊躇ためらった。

その一瞬の迷いが命取りになった。


「最後に油断を見せた方の敗けということか」

消え行く意識の中でワシはそう思った。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ