始まりと、設定説明。
どうも、初めまして。
始めての作品なので荒い部分も多いと思いますが、そこは皆様の器量の大きさに頼らせていただきます。
不定期更新です。
飽き性なので途中で執筆が止まるかもしれません。
アドバイスなどは募集してますのでよろしくお願いします。
『さとり世代 - Wakipedia』
僕はそこにカーソルを合わせ、右の人差し指を2回ほどタップした。
画面を上下にスクロールするとずらずらとたくさんの文字が。
さほど時間に追われていない僕にとってはこの長々とした説明を読む時間は十分にあるのだが、さすがにこんな無味無臭の文章を読むほど人生に飽き飽きはしていない。
なので、ページの上方にあった『定義』『特徴』といった部分に目を通してみた。
「やっぱ僕とは違うんだよな。」
独り言をつぶやく。明確に誰に向けたというわけではないが、確かにその言葉には道標なるものがあった。
さとり世代。主に1990年代、ちょうどバブルが崩壊したごろに生まれた世代であり、不況真っ只中で育ち小さいころからインターネットに触れてきたことから現実を直視し自分に不釣り合いな夢を持たない世代のことである。何に対しても無欲であり無駄な努力が嫌いなのも特徴である。
そして、そんなさとり世代に対して強い嫌悪感を抱いている人物が一人。
「さとるー、朝ご飯出来たわよ!」
佐鳥悟。一般的な高校生活を送る高校3年生である。
「はいよー、ちょっと待ってて」
そう答えると、つけていたパソコンの画面を落として部屋を出ていく。
ああ、みなさんが言いたいことはわかる。
「一般的な」「普通の」を枕詞にした高校生という物語の導入に信憑性が薄いことは重々承知だ。
あえて言おう、これは無自覚にもさとり世代の象徴となってしまった佐鳥悟という高校生のちょっぴり不思議でちょっぴり刺激的な日々の記録である。少なくとも異世界に飛ばされることはないだろう。
ガララ。
「3-2」と書かれた札を一瞥しながらドアに手をかける。
3年に上がってから既に3か月経ち、暑さが本領を出してくるこの季節。いろいろ言いたいことはあるのだがこのドアの詰りは本当に何とかしてほしいものである。
教室に入り見渡してみると、まだちらほらとしか人は来てないようだった。
僕は自分の席に着く。なぜかこの学校には席替えという、青春の一大イベントである制度が存在しない。まあそれでもたいていの生徒は今の席で文句がないらしく、少なくとも自分のクラスでは暴動は起きてない。
かくいう僕も窓際の一番後ろいう席がゲットできてなによりである。席にはかなりのこだわりを持つこの僕だが長くなるのでまた今度にしようと思う。
とりあえず、HRが始まるまで仮眠でもとろうと思い机に突っ伏すと、
「おはよー、さとり」
すがすがしい、聞いただけで青天の空を思い浮かべるようなそんな声が耳に入った。いわゆるイケボ、というやつだ。僕は組んだ腕に据えた頭を少しひねり、見上げるような形でその声のもとを追った。
「おはよー、平」
視線の先にはすがすがしい声とは裏腹に少し残念な顔があった。腹はかなりアグレッシブな攻撃を得意としその二の腕は女性の胸の感触を超えると言われている。彼の名前は平清山。デブである。動物でたとえるならば問答無用で「豚」といいたいところだが、ヤッフル豆知識によると豚は体脂肪率はそんなに高くないらしいのでここは「黒毛和牛」とでも言っておこう。だが、そんな彼はどうしても拭い切ることのできないデブ=不潔のイメージとは一線を画すもので、彼曰はく「清潔には気を使ってる」そうだ。でもやはり乱れた食生活の中でどうやって清潔を保ってるのか疑問はぬぐいきれない。
「聞いてくれよ、さとりー。実は昨日なー、」
彼は陽気に話し始める。ちなみに彼は僕の右隣の席であり、いつもこうして他愛のない会話をしている。話の内容はどうやら昨日の生放送のことらしい。テレビ番組のことではなく、ネット上の。彼は配信というものをしており、その外見とは似合わない声の効果でかなりの人気を博しているようだ。ちなみに顔は出してないらしい。
適当に相槌を打ちながら、さほどの興味もないため話半分に窓の外に目を向ける。そこには言葉では言い尽くせないような幻想的な世界が広がっていた。というのは大袈裟で、景色しか見所のない地元に対して少しばかりの情けを含んだ誇張表現であるが、そこそこの景色がそこにあった。
ここ栄路高校は山の中腹という立地条件の悪さのおかげで、窓からは瀬戸内海を眺めることができる。島が多く、水平線を見渡すことはできないがこれはこれで趣がある。海と山に囲まれ、非常に自然に恵まれたまちである一方、それしかないと言われるとそれまでである。
ふと意識を教室に向ける。向けざるを得なかった。というのも、教室がざわつき始めたからだ。それもそのはず、今しがた教室に入ってきたのはクラス、いや学年のトップカーストである美女4人集が入ってきたからである。言い忘れたが今日から夏服への移行期間と言うことでまばらに夏服の生徒はいる。しかし、彼女らの夏服姿は一味違ったようだ。このざわつきがそれを証明している。
4人の中で一番背が高いのは黒町。名前に恥じぬ綺麗の黒髪ロング。学年一とは言えないがそれなりに頭がよく、素直な性格と合わさって結構厳しい性格である。
次に、だるそうに下敷きで仰いでる茶髪の彼女は差更。その美貌でイケメンばかりと付き合っては別れている。そのため裏では「さらびっち」略して「さらびー」という全く上手くないあだ名で呼ばれているが、なんだかんだで愛されている。
差更の横で差更に注意してる小さい子は秋田。実際、身長は黒町以外はさほど変わらないが、ビクビクした性格から秋田はどうしても小さく、もっと言うなら子供のように見える。
最後に、まるで男のような振る舞いをしているのは八色。影からの人気が高いが、その怖さゆえあまり表では持ててないという位置づけにいる。
それぞれがそれぞれの個性を持ち、隙というものが彼女らには存在しない。誰でも一度はこの中の誰かを好きになるものだ。
そしてこの僕は佐鳥 悟。先ほどの説明と矛盾して僕はこの中で好きな、はたまた好きになったことのある女子はいない。誤解のないよう言うがホモではない。ただ僕も平と同じよう顔には恵まれず、性格だって最悪だ。そういう意味で自覚してる。いや諦めてる。僕は僕の力量に見あった生活ができれば十分である。今の生活におおかた満足している。そう、自分に言い聞かせる。
そんな悟を遠目から眺め、一人怪しい笑みを浮かべる者が一人。人と表現するのは間違いかもしれない。おそらく彼女であるその生物の背には深い黒く染まった立派な翼が生え、今もゆっくりとだが質量感たっぷりに羽ばたいている。また彼女の体のラインは、その人外と瞬時に判断できる翼を度外視できるほど世の男を魅了してしまう素晴らしいものであった。顔も先ほどあげたうぶな4人には見受けられなかった妖艶な顔立ちをしている。その生物、彼女を私の持つ辞書で一番似合う言葉で表すならばおそらく、
ーーーーサキュバス。
人生に悟り気味の彼の刺激的な日々が始まる。