だって、男の子だもの
(ひゃー。やっぱり、すげぇや)
食堂の広さに驚きをあらわにする円。
そこは八つの長テーブルが並んでいる。部屋の四隅、壁際には偉そうな銅像や大きな絵が飾られたり、天井には一流ホテルのようなシャンデリアが吊り下がって、爛々と輝いている。
食堂に行く道で聞いたことだが、ここでは最大千人もの人が一斉に食事を取れるようになっているらしい。今はまばらにしか席が埋まってないのは、この時期は進学課題によって、忙しく食事の暇もない生徒が珍しくないかららしい。
サリナが適当に席に座ると、どこからか食事が飛んでくる。
(魔法すげー)
(これは魔法じゃなくて、魔術によるものよ)
(あ、すまん)
円の適当な感想と、サリナの訂正。円としては耳馴染みのある魔法という言葉を使っただけで、そこに深い意味はなかったのだが、すぐさま訂正された。円の思ったよりも魔法と魔術の間にあるものは深いのかもしれない。
飛んできた食事に目を移す。それは円の期待していたような珍しいものではなく、シチューとパン、サラダ、それにデザートという円の目から見て特に目新しいものではなかった。
何の感想も浮かべないサリナにとっても何の変哲もないメニューのようで、拍子抜けのような気がしてくる。
(なんだよ。ドラゴンのステーキとか、スライムの刺身とかを期待してたのに)
(なによそれ、なんでそんなゲテモノ食べなきゃいけないのよ)
(ゲテモノ扱いなのかよ。ついでに聞くと、これって何の肉?)
(牛だけど)
ファンタジー食材を期待した円だったが、あっさりと期待を打ち砕かれる。
円の考えには目もくれず、サリナは黙々と食を進めていた。 円にもその食感は伝わってきていて、美味しいのだがやはり期待はずれというか、普通の味の域を出ない。
ここで円は異世界について何かと期待している自分の存在に気づき、自分が存外に切り替えが早いことを知った。
夕飯が終わり円たちは再び、自室に戻ってきた。
(それじゃ、今日は疲れたし、もう寝ましょうか)
そう言って、サリナはおもむろに服を脱ぎだした。
円が何か言う前に、シャツのボタンを外し、ピンク色のブラジャーが見えた。控えめの大きさだが、男子校出身の円には充分すぎるほど刺激が強い。スカートに手をかけながら、サリナは円に問いかける。
(で、どう?この世界は)
(お、おおおおう?)
(どうかした?)
(な、なんともないですよ?!)
スカートを脱ぎ、下着を脱ごうとしたサリナは円の反応のおかしさにひっかかり、彼の現状に思いを巡らせる。
(……そういえば、憑依って私の五感を共有しているのよね?)
(……せやね)
その応答の後、円は口角が引き攣るのを感じたのと、同時に思いっきり呼吸をし
「キャーーーーー!!!」
「なんで、言わないのよ!」
(いや、ここで言ったら男が廃ると思って……眼福です)
「ふざけないでよ!ああー、もう!!」
怒りをぶつける相手が目の前にいないことに歯噛みしながら、じたんだを踏む。
そして、思い出したように目を瞑りながら、着替えを終えた。
(憑依されたはいいけど、よく考えたらこれって私にとって大問題じゃないのよ)
(どんまい!)
(うっさい。こうなったらいち早くあんたの新しい体作らないと)
(俺としては、もう少しこの状態が続いてもいいかと思い始めてきたぞ)
(もう!)
目を閉じても、手の感覚は伝わって来る。体が自由に動かせないのは不便だが、この瞬間は円的にはなにがとは言わないが、ありだった。
サリナは収まらない怒りを枕にぶつけつつ、ベッドに横たわり、新しい魔術の開発のためぶつぶつと口を動かすのだった。