戦闘集団・・・?
(それにしても、あの地下室の脅し文句はなんだったんだよ)
一段落して、円は地下室でのサリナとのやり取りの最後の言葉を思い出していた。
「あ、あれは私自身が混乱してたから、とりあえず落ち着く時間が欲しくて、つい」
(あの状況であの言葉は、ついでは済まされんだろ……)
「ごめんなさい」
(まあ、いいよ。俺も大分混乱してたからさ)
「ふふ、そうね。マドカって慌てて、口数がとても多くなったり、よく分からないこと言ってたもの。」
(……忘れてください)
そんな風に談笑する余裕も出てきた二人。しばらくして、ベッドに横たわったままの体を起こし、伸びをする。
改めて、部屋の中を確認すると、目の前には白塗りの壁の真ん中に扉があり、その周りには何もなく飾りっけがない。ベッドの後ろからは夕日が差し込んでおり、窓があるように思う。部屋の中心にベッドが鎮座し、その右側に机、左側には質素というより、性能重視の戸棚と化粧台が置いてある。これが12畳の長方形の部屋に収まっている。
円の感想としては、貧乏症か余計なものは置かない主義なのか、といったところだ。
「さてと。夕食までは時間があるし、この世界についての詳しいお話でもしましょうか」
(それじゃ、お願いします)
「えっと、どこから説明しよっか」
(と言われても、何がどう違うのか分からないと、何とも言えないんだよな。見た限りテンプレファタジーのように見えるけどさ)
「てんぷれってのはわからないけど、それもそうね。とりあえず、生活の拠点になる学園と魔導について最初からざっくりとって感じかしらね」
(ん、とりあずそれで)
ベッドに座り直し、深呼吸を一つしてサリナは説明をはじめる。
「ここは、というかこの大陸は西側を元々大きな一つのアーカソという王国が、東側を魔物を率いる魔王がそれぞれ支配して争いを繰り返していたの。その時に最先端の魔導や戦術を学ぶ、軍の養成学校という形でこの学園が設立されたのよ。
その後、魔導の進歩や勇者の召喚によって、アーカソが東側に進出してより大きな国になった。国が大きくなっていくにつれて、地方への影響力は落ちて奴隷、亜人や王弟の大規模な反乱、都市同盟の独立が起こったの。
その中でここ魔導学園も独立して魔導学園タギィンが出来たの」
(世界史でも似たような国があったな。魔物じゃなくて、蛮族とかだけど。ってか、勇者、魔王、魔物って流石ファンタジー。
それでその反乱や独立したのってどうなったのよ?)
「今でも健在よ。大まかに言うと、ここタギィンを中心に西に王弟が、北に元奴隷と亜人が、東に都市同盟が独立して南にアーカソって感じね」
(うわー、お互い仲悪そ)
「うーん、そうね。基本アーカソとはどこもギクシャクしてるけど、経済なんかは絡み合っているから、交互に交流があったりしてるわね。
特に都市同盟は商業国で今では魔物の国とも交易があるんじゃないかって言われるくらい商人根性溢れるところで大陸のあちこちに貿易網をもってるわ。それでうちと西のナソォーク以外は交易の喉元を握られている状況だから、貿易をやめることはできないでしょうね。
だからこそ、うかつに手を出したりってのはできないし、都市同盟には大陸制覇とかの野心ってのは特にないから、あんまり争いの起こる可能性ってのはないかな。あと、うちは国家事情が特殊だからまず攻め込まれるってことはないでしょうね」
(ほー。それでその特殊な事情ってのは?)
「さっきも言ったけど、ここは元々最先端の魔導研究が行われていた場所で、今も他国と比べると数十年単位で先を進んでるの。独立したのも純粋に魔導を探求したいって理由で、今もその精神は健在なのよ。
魔導の探求を邪魔する存在に対して徹底的に抵抗する。そうやって、内外に表明してるし、いざとなったら市民全員が兵となって戦うことが義務付けられてるから、まず他国が軍事力的に手を出せないの」
(……魔導学園とか言っときながら、ガッチガチの戦闘国家なのね)
「まあ、そうね。こちらからは争いを仕掛けたことはないし、これからもないからそう言われるのは少し違うとも思うけど」
一通りの説明が終わったところで、窓からの光がほとんどなくなっていることに気づいた。
目線が時計に行くと、そろそろ十九時になる時間。
「さてと、それじゃあいい時間だしご飯でも食べましょうか」
そう言って、サリナはベッドから立ち上がり、部屋の戸を開けた。