改めまして
アリカの部屋を出て、タイルに乗りまた一階に戻ったあと、しばらく歩き建物の外へ出た。時間は夕方のようで、遠くに夕日が見える。
外から見たその建物は円の想像する西洋の城とサーカスのテントをまぜこぜにしたようなものだった。
中心にとても長い塔が伸び、そこに棟が八方向につながっている。中心の塔に近いほど高く、端に行くほど低くなっている。
八つの棟はそれぞれ扇状に広がっていて、一定間隔に窓が取り付けてある。窓の数を数えてみると、大体十階建てくらいはありそうだ。
その窓からは時折色とりどりのまばゆい光が見え、元の世界で最後に見た景色とかぶる。
その建物に背を向け、歩き出すと円は今見た光景について質問をする。
(なあ、あの窓の光ってるのって、やっぱり魔法の光とかそんな感じの?)
「ええ、魔光と言って魔術や魔法の発動に伴って発生するの。その専門分野ごとに光の色が違うから、その色を見ればどんな魔術や魔法を使おうとしているのかわかるの」
(へー。それと、さっきのじいさんもそうだけど、その魔法と魔術と分けて言ってるのってなんなの?)
「あー、そこからかぁ。まあ、簡単に言うと魔術は自然な状態では起こりえないようなことを魔力の行使で操るもので、魔法は自然のものを魔力の行使によって操るものってとこかな。
それで、分けて言ってるのはそれぞれが『我が魔術(法)こそが至高』っていう考えがあって、派閥争いとかめんどくさいの。私自身はそんな意識ないけど、教授連中は自分たちの使うものに絶対の自信を持ってるからね」
(うわー。こんなとこでも親近感沸くのも嫌だな。おい)
「やっぱり、そういうのってどこにでもあるのね。そんなわけで、学生たちにもそんな考えが広まってて、自分たちの専攻を先に呼ぶってのが慣行になってるってわけ。一応公式の場では二つまとめて魔導って呼んでるんだけどイマイチ浸透してないのよ」
前の世界にもあった派閥争いの一端を見て、うんざりしている間に足が止まる。
「ここが私たち学園生四年が住んでる寮よ。右が女子寮で左が男子寮。その間にあるのが、食堂よ」
目の前にあるの先程の建物の中心の丸い塔を5階建てに縮めたような建物が二棟並んでおり、その二つをつなぐように二階程度の大きさの建物が立っている。
言葉の通り、右側にある建物へと足を進めていく。
その途中で何人かの生徒らしき人々とすれ違い、さっきまでは緊張して気付かなかったことに目がいくようになった。
全員が黒いローブを肩から羽織っており、中から白いシャツが見え隠れする。下は赤いチェックのプリーツスカートなところにはアニメの見すぎだろ、とも思う。
硬そうな木造りの大層な扉を潜ると、さっきの塔と同じような構造で床や空中にタイルがある。足元にもそのタイルがあり、目的の廊下の前まで運んでくれる。
運ばれた廊下を進み、道の真ん中辺りの左手にある扉を開ける。
(どうでもいいっちゃ、どうでもいいんだけどさ)
「ん?なに?」
(サリナって左利きだよな。なんか、事あるごとに違和感が半端ないんだよ)
「ホント、どうでもいいことね」
(あと、言いにくいんだけどあんま人前でぶつぶつ喋るのはどうかと思うんだけど。俺のこと知らない人から見ると、ただの変な奴じゃないのか)
「……なんで、それを早く言わないのよ!うわー、なにそれ私絶対変な奴じゃん。
うっわ。明日からどうしよ……」
部屋に入ったタイミイングを見計らって、さっきまで喋りたかったことを言ってみた。
というか、何この子ドジっ子なの?
まあ、周りの目がなくなったことだしと、気になってることを質問しとく。
(まあ、そこらへんは明日事情を説明すれば分かってくれるんじゃないか。それとサリナも頭の中で考えただけで俺と会話するとかってできないの)
「あーもう、そうね。そこは明日にしましょ。それで念話ね。あー、なんで気付けなかったのよ、もう」
(つまり、出来るってことでよろしいの?)
(はいはい、こうでしょ)
耳からではなく、頭の中から声が響いてくる感覚。これから、慣れなければいけないのだろうけど、なんか気持ち悪い感覚がする。
その感覚に戸惑っていると、体はベッドに飛び込んだ。
「あー、とにかく今日は疲れた。もうこのまま寝たい」
(それはこっちのセリフだよ)
「その件については悪いとは思ってるわ。まあ、こっちも将来のためってことで、長い明晰夢でも見てる思って勘弁して。」
(はぁ。元の世界に影響が無いってわかったから、もういいか。長い長い異世界での冒険譚でも楽しむとするわ。)
「ありがと。それにしても、異世界ってどんなとこなの?」
(異世界ね。まあ、こことは全然違うさ。説明するのは難しいけどさ。ただ、学生の生活についてはそんなに変わらないんじゃないかと思い始めたよ。)
「そっか。それで遅くなって申し訳ないんだけど、改めてちゃんと自己紹介しましょ。さっきも言ったけど、私はサリナ=ガーネット。年は十七。ここ第一魔導学園四年。成績はまあまあってとこ。進学課題で異世界人召喚をしようとして、あなたを喚んだ。専攻は召喚術で特技は魔方陣、呪文構成。こんなことこかな」
(えと、俺は小野円。年は二十歳。地方の国立大学の経済学部二年。専攻はまだ決まってない。他に法学、教育学の講義をちょくちょく受講。高校まで男子校で乗り遅れた青春を楽しもうとしていたら、登校中に目の前でなにか光って、頭ん中にいた)
「うん。それじゃ、これから二年間よろしく」
(こちらこそ、二年間よろしく。楽しい夢を見させてくれよ)