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魔導学園ですって

(俺はいつ帰れる?)


 緊張が隠しきれないその言葉を受け、好々爺は少し考えたあと、静かに答えた。


「今すぐに、ということにはいかんが、そう遠くないうちに元の世界に返すこともできよう。サリナじゃったか?詳しい説明をしてやってくれ」


 そして、円は自分の口から説明を受ける。

 

「えーっと、多分、私の卒業の時期、つまりあと二年ほどで契約は切れると思うわ。

 契約が切れた後は契約を更新しない限り、召喚されたものは元の場所に戻ることになっているの」


 その言葉に安堵する。ここもテンプレ通りだとしたら、最悪の場合帰れない可能性の方が高いし、そうでなくても数十年単位掛かるかもしれないと考えていたからだ。

 といっても、二年が決して少ない年数だとは思わない。二十の自分にとっては人生の十分の一だし、戻ってきた途端二留の烙印を押されることは決定しているし、二年も失踪してたら、死亡扱いで退学させられることも考えられる。

 その心配はぬぐいきれないと再び声をあげようとしたが、自分の口に邪魔をされた。


「といっても、あなたが心配しているようなことはないと思うわ。あなたがこの世界で過ごす二年間というのはあなたの世界には全く干渉しないもの」


(つまりどういうことだよ)


 自分の懸念をわかっていたように語るサリナ。それに対して疑問を投げる。



「あなたがこの世界で過ごすことになる二年間はあなたの世界では一秒も進まない。元の世界に戻ったあなたの時間は召喚された瞬間からまた始まるってこと」


(つまり、今ここにいるって事実がなくなると?)


「それはちょっと違うかな。簡単にいうとあなたは一瞬で二年間の夢を見ている途中って言ったらいいかな。夢と違うことは、この世界はあなたにとって夢の世界だけど、確かに存在していてる世界だってところ」


(なんとなく、理解は出来た)


 つまり、前向きに考えると自分は二年間の人生の夏休みを得たことになる。やったね、しばらくは余計なことを考えずに過ごせるぞ!ってことか。

 しかし、そこでもやはり疑問が浮かぶ。


(そもそも、なんでそんなめんどくさい事までして、俺をよんだんだよ)


「だから、さっきから進学課題だって言ってるでしょ!」


「そこからはわしが話そうかの」


 それまで、黙っていた好々爺が口を開く。


「まず、わしについてじゃ。この魔導学園で召喚術長をしとるアリカ=アルマカンという」


(あ、ども。小野円です)


「ふむ、マドカか。良い名じゃな。それで進学課題についてかの。それを説明するには大まかにこの学園の説明をしたほうが手っ取り早いじゃろ」


 そういって、アリカは手足を組み換え、机の上にあった飲み物を口にする。

 改めて、部屋の中を見回してみると、最初の地下室と同じぐらいの広さの部屋の左右に多数の本が積んであり、その奥に凝った形をしているアリカの椅子と机がある。天井には魔方陣があったりと、まさに魔法使いの部屋という感じだ。


「この学園は名前の通り魔導の学び舎じゃ。この都市についての説明はあとでサリナにしてもらうといい。ここでは六年間魔導を学び、卒業後は各々の道に進むことになる。第一から第十まである魔導学園の中で、最も資質を認められたものだけがこの第一魔導学園に入学を許される。そして、各学年ごとに毎年自ら選んだ進学課題を提出。その出来により、進級出来るかが決まる。今回マドカ君が召喚されたのもその一環というわけじゃ」


(へー。うちの大学よりも厳しいんだな)


 大学生の自分にとっては、ある程度身近な話だ。といっても、そのレベルは大きく違って、ここにいる人々というのはいわゆるエリートと言われる人種のような気もするが。


(それでさっき言ってた、研究室がってのは?)


「ああ、それは四年間で自らの専門する道を決めたあと、五年目からはわしら各教授の研究室に配属され、その配属先で学んでいくのじゃが、四年の終わりに提出する進学課題というのは、その配属先を決める判断基準に用いられる、そのことを言っておるのじゃろ」


「そうよ、この研究室決めでどの教授の下で学ぶかによって、その後の進路が決まるの。つまり人生の分かれ道ってこと」


(ここら辺は俺らと同じなんだな)


 学生の苦悩はどこでも同じなんだな。と、円は一番の懸念事項がなくなった途端にそんなのんきな事まで考えるようになっていた。


「召喚の原因についてはこんな所かの。他にはなにかあるかの」


(それじゃ、俺はなんでこの子の体に憑依しちゃったのかを)


 そこで、心臓の動きが激しくなったのと顔の温度が上がったのを感じる。ついでに、顔の筋肉がこわばるのも。


「それは単に彼女の実力不足じゃ」


(実力不足?)


「そう実力不足。召喚術を行う際に重要なことは主に魔方陣、呪文、対価、術者の魔力、条件付けじゃ。

魔方陣、呪文については複雑な幾つもの公式を紬合わせ、目的に一番適しているものを術者自身で作り上げる。これは他の魔術、魔法にも共通しておる。

対価については宝石や魔石等じゃ。その召喚の位にあったものを用意せんといかん。より高度なものになるほど、より純度の高いものを求められることになる。

そして、術者の魔力についてはそのまま術者の実力といったところかの。最後に条件付じゃな」


(ちょ、ちょっと、ストップお願いします)


「ん?」


 突然話を止められこっちに疑問符を向けるアリカ。

 こっちをおいてけぼりにして延々と講義を続ける大学教授の姿とかぶる。彼らが教育の場に立つと多々ある場面で、本来研究者である彼らのことを思うとわからないでもないが、学生である自分としてはもっと工夫して話してくれてもいいのではないか。


(えーと、魔方陣、呪文は数学とかプログラミングに考えが近いのかな。対価と魔力云々はまんまファンタンジーのアレ。よし、はい整理できました。続きをお願いします)


「ふむ、それで条件付についてじゃ。これは召喚時に召喚する側、される側に対し条件を設定することで、召喚の難易度を上下させるものじゃ。今回は恐らく契約の期間、契約者に対し危害を加えることの禁止、ぐらいのものじゃろ。

本来、召喚術の中に契約術が含まれている所以でもあるが、最近はないがしろにされがちでの。ワシとしてはもっと丁寧にやってもらいたかったの」


 まさに、ギロッという擬音が聞こえそうな眼差しを向けられ、関係ないのに後ろめたくなる。


「す、すみません」


「この中でさっきサリナからも説明があったように、対価、魔力、条件付けの不足によって、不完全な召喚となってしまったんじゃろ」


(はあ)


「さて、大方の質問は終わったかの。あとの詳しいことについては、サリナ本人に聞いておくれ」


 話は終わったとばかりに、アリカは椅子を机に向き直し、本を読み直した。

 円もこれ以上聞いたら、また怒鳴られ寿命が縮みそうだとチキンハートが顔を出した。と思ったら、恐る恐る口が開く。


「それで、あの私の研究室についてなのですが」


 そういえば、体の持ち主の用事は終わっていなかったらしい。

円もビクビクしながら、アリカの反応を待つ。


「ふむ、今回の課題は内容としては興味深い。対価はともかく実力、条件付けの不足というのには少々思うところはあるが、異世界人召喚を自らの魔方陣、呪文で完成させたのは評価できよう。普段の成績も悪いわけではないしの……

まあ、とりあえず来年の進学課題はマドカくんの意識を体の代替物へ転移するとこから始めようとするかの」


「え、ということは」


「とりあえず、わしが世話してやるとするとかの」


 サリナは良い意味で全身の様子が変わったあと、元気の良い挨拶をし、その部屋を辞した。


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