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じじい

 サリナが扉を開けると、そこは同じような石でできた廊下と一定間隔に置かれている松明がまっすぐ続いていた。ひんやりとした廊下と石の隙間からも光が見えないところを考慮すると、ここは地下室になるのかと思う。


 そんな思いとは別に足は出口に向かって進んでいく。さっきから、感じていたことだが自分の意思とは関係なく体が動くことの奇妙さと恐怖を円は改めて感じていた。

その事について、元凶の少女サリナに言葉をぶつけようとも思うが、体から『黙れ』という言外の言葉が発せられているので、サリナの視界の範囲で周りを観察することしかできない。

 ほどなく、石製の螺旋階段を登り地下室の出口に着き、違和感とともに左手でその扉を開ける。そして、外の景色を見ることになるのだが、そこはあいも変わらず石でできた構造物の一部だった。ただ、隙間から漏れ出す光やさっきまで感じていた、肌寒さがなくなったことからここが地上であることはわかった。

 道は左右に分かれているが、足は左側に進んでいく。そして、しばらく歩いたあと、開けた空間に出た。そこで初めて異世界ということを実感した。


 校庭ほどある空間にタイルのようなものが敷き詰められている。筒状に空間が上に伸びていて、一番上は高層ビルほどあるように感じる。要は鉛筆の先っぽみたいな建物。一定の高さごとに八方向に巨大な穴があいていて、見える範囲で100はあると思う。

 建築基準法とかどうなっているんだろう。

 空中には大小幾つもの平べったいタイルのようなものに人が乗り、そこらじゅうを行き交っている。そのタイルは人を乗せて巨大な横穴を行ったり来たりしていて、エレベーターのようなものだということがわかった。

 その光景に呆気を取られている間に気づくと自分もそのタイルに乗っており、体の持ち主の少女が研究棟、と言うととんでもない速度で建物の上に向かっていった。その間も重力や風を感じることもなく進んでいくのを見ると、心の隅でファンタジー世界に来てしまったという現実への無駄な抵抗をしていた円は動かない肩を落とした。


 8階?の横穴に入る。横穴の中は思ったよりも普通だった。タイルは横穴に入ったところで直ぐに止まり、歩いて廊下を進む。円はといえばこの建物の大きさや動くタイルに気を巡らして魔法ってすげー、と現実逃避をしていた。

そんなことを考えていると、やっと目的の部屋に着いたのか、長い廊下の一番奥の部屋の前でサリナが足を止めたのがわかった。

 三つのノックの後、部屋から声がして、左手で扉を開ける。


「失礼します。四年、召喚術専攻志望のサリナ=ガーネットです。進学課題の発表に来ました」


 部屋に入り、部屋の奥の人影を確認するとすぐに自己紹介を始めるサリナ。そこで円はある言葉に反応する。


(進学課題?俺はそんなことのために拉致られたのかよ)


「そんなことって、なによ。私にとってはここでこの先の人生が決まるっていうのに!」


「ふむ。それで、進学課題はどれだい?君の言うとおりこの瞬間に君の人生が決まると言っても過言ではない。

一人でふざけているなら外でやってくれないか。ついでに、この学園からも出て思う存分一人芝居をしてきたらいい」


 脊髄反射的に反応したサリナとサリナに静かに語りかける初老の男性。その男性は見た感じ好々爺の魔法使いという印象が強い。黒いローブを羽織い、長い白髪を後ろで結び、ニコニコと目尻を下げている。手足は組んでおり、すぐそばの杖掛けには杖が立て掛けられており、巨大だが細身の杖の先には大きな宝石のようなものがはめ込めれている。

 しかし、その見かけとは違い、言葉には温かみはなく、直接かけられたわけではない言葉にも円は背筋が凍る思いがした。


「い、いいえ。これはその進学課題のことでありまして、召喚対象に話しかけられたといいますか……ゴホン

今回、私サリエ=ガーネットは進学課題として異世界人召喚を行いました」


「ほう、それでその召喚対象とやらはどこにいるのかね」


「それが、今回の召喚では人体召喚に足る対価ではなかったこと、私自身の魔力、条件不足によってその人格のみの召喚になってしまいました。

また、その結果他の憑依物がなかったため憑依先が私自身となってしまいこのような結果になってしまいました。

憑依者との会話自体は念話によるもののため、この場での会話も可能かと思っております」


「異世界人か……」


 そこまでの会話の流れでこの場での大体の自分の立場がわかった円は声を上げる。


(おいおい、なんだ?俺はお前の進学課題とやらのためにこんなとこに呼び出されたかと思ったら、失敗して体さえなく、訳のわからん奴の頭の中だけで存在しているとかいう不安定ななにかって?ふざけんな。

そこの偉そうなじいさんに言ってさっさと俺を元のとこに返してくれ)


「少し落ち着いて話を聞いてくれんかの?」


(この状況で落ち着けって?そりゃ無理な相談だろ、おい。耄碌してんのかじいさん。……ってじいさん?俺の声聞こえてんのか?)


「ちょっと、早く静かにして、今説明するから」


「聞こえとるから言っとるんじゃ」


(なら、話は早いさっさと俺を…)


「だから、ちと静かになれんか。三度目はないぞ。」


 その言葉に身震いした。直接向けられたその言葉には有無を言わさない力があった。


「やっと、静かになったか。それじゃあ、話を始めようかの。まず、何が聞きたい」


 先ほどの迫力が消えた見た目好々爺の魔法使いに対して、心だけが身震いしつつ、物怖じせず言葉を返した。


(俺はいつ帰れる?)

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