出会い?
謎の光に包まれた円はしばらく状況の変化についていけなかった。それも仕方ないことで、光が収まった頃には体は横たわっているように感じるのに、まるで夢の中にいるかのようで、手足の自由がきかず、目すら開けない状況だったからだ。
他にどうすることもできず、思考するという逃げ道しか与えられていない円にはその混乱から抜け出すことは難しいことだった。
(いやいやいや、どういうことだよ。登校途中に光に包まれだと思ったら、意識不明で身動きがとれないって。
あれか、実は朝日に紛れたトラックとの衝突とかか?それで、今俺は生死の境をさまよってて、目を開けば、家族とか友達とかが泣いて出迎えてくれるとかか?それなら、ヤバイんじゃね?うおお、目覚めろ俺!見せてやるぜ、奇跡の生還ってやつをよぉ!)
そんな、混乱によって考えがブッ飛んでいた円だったが、その意識を現実に戻したのは、円の想像よりもブッ飛んだ現実だった。
「うっるさいわね!人の頭の中でごちゃごちゃと。こっちは召喚を失敗して落ち込んでるって言うのに。なによ、意識だけとか。ちゃんと体ごとこっちに来なさいよ!」
突然、自分の意思とは関係なく自分の口が開き、自分に向かって怒鳴ってきた。しかも、動いたのは口だけではなく、目が開き、手足も動き始めおもむろに立ち上がった。
見えたのは、薄暗い石造りの部屋で、広さは教室を一回り小さくした程度。ただ、家具などがないため実際より広く見える。その真ん中には赤い絵の具か何かで書かれた、幾何学模様があった。有り体に言えば魔方陣だ。
ここまできて、円にはとても嫌な想像がよぎる。バカバカしいと思いながら、現実がそれを目の前に押し付けてくる。
「私が何したっていうのよ。もう嫌、ホント嫌。何もかも投げ捨てたくなってくる……。とりあえず、この結果で希望が通ればいいんだけど……。だー、もう!」
自分の口で話続けているのは、激しく怒りと焦りを表す少女。自分の体なのに動かすことのできない円には何もできず、頭の中で思考することだけしかできない。
(キレたいのは絶対俺の方だよな、おい。えっと、あれですか?あのWeb小説とかで流行りの憑依ってやつですか?いや、確かに中学生の頃はそんなこと考えてたりしてはいたけどさ。なんだよ、まばゆい光で憑依とか、テンプレすぎんだろが。なんで、今頃なんだよ。返せよ俺の受験勉強。せっかく、地元ではいいとこの大学に受かって青春街道を謳歌してたってのによ、なんなんだよ。カムバック、我が青春!)
「もう、うるさいって言ってるでしょ。少し待っててよ。あとで色々説明してあげるから」
(いやいやいや、この状況で放置はないでしょ。納得いかない結果だったんでしょ?ならさ、俺なんか元の場所に返して、もう一回やればいいじゃん。ほら、ワンモアアゲイン!)
少しの会話と二次元知識、諦めと僅かな希望に頼って、円は少女の状況をなんとなく察して、自分にとって最上の提案をする。といっても、テンプレ通りとするならばこの先の展開は予測できそうだが。
もちろんこの世界でもこのテンプレは容赦なく適応し、円のかすかな希望を打ち砕くことになる。
「そんなことことできたら、とっくにやってるわよ。できないから、こんなに焦ってるんじゃない」
(え……まじで)
「残念だけど大マジよ」
そして、少女は一応の落ち着きを取り戻し、ひとつ深呼吸をする。
「はぁー。いつまでも落ち込んでてもキリがないか。
それじゃ、不本意だけど、とりあえず自己紹介でもしましょうか。私の名前はサリナ=ガーネットよ」
(お、おう。俺の名前は小野円だ。相手の顔も見えないのに自己紹介ってのも変な気分だけどな。
それで、今の状況とやらを教えてくれないか、誘拐犯さんよ)
「もう、人聞きが悪いこと言わないでよ。まぁ、当たってないこともないか。
とりあえず、ここではなんだからもう少しまって。もっと詳しい人に教えてもらうから。」
(当たってないこともないって、まんま誘拐犯そのものじゃねえか。今すぐ説明しろよ)
「たく、どっちでもいいけど、あなた本当に自分の立場わかってんの?」
自分で言ったように今の二人の関係は誘拐犯と被害者。
そう言われると、生殺与奪権は相手に手に握られてるため円はただでさえ低い部屋の温度が下がったような錯覚も覚える。
押し黙った円に満足するとサリナはすたすたと部屋の外へと出たのだった。