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6 ブラックボックスゲーム

「【ゲームは今週の金曜日にやる】けど、いろいろと準備のいるゲームだから、ルールについては今のうちに教えておくわね」

 江良は公園の錆びついたジャングルジムのてっぺんに座り、丈を見下ろしながら説明する。

「あたしがやるゲームは、『ブラックボックスゲーム』っていうの」

「ブラック、ボックス……?」

「そう。ブラックボックスってのは、一般的には内部構造の解らない装置のことをいうわけだけど。あたしの言う『ブラックボックスゲーム』は、いわゆる『装置と回路』の問題をベースにしているわ」

 ブラックボックス問題、あるいは装置と回路の問題――数値を一定のルールで変換する装置を複数つないで回路を作り、入出力される数値の関係を明らかにするという問題で、主にSPI試験で出題されるものだ。

 装置は、ある信号を入力したときに、規則に従ってそれを変化させ出力させる。たとえば装置には、「0を入力すれば1を出力し、1を入力すれば0を出力する」というような規則が適用される。

 さまざまな規則を持つ装置をいくつか回路でつなぎ、最終的に何が出力されてくるかを考える。

「基本的な考え方は『装置と回路』に則っているけれど、別に数字をあれこれこねくり回して小難しい計算問題をやろうって言ってるわけじゃないの。要は【ブラックボックスは入力されたものをある一定の法則で変化させて出力する】ってとこだけおさえてもらえればいいわ」

「数字じゃなかったら、何を入力するんだ?」

「なんでもいいわ。その辺に落ちてる小石だろうが、生き物だろうが、なんだっていい。とにかく形のある物体を入力する。そして、ゲームに使用するブラックボックスは、あたしの得意な変身魔法の粋を集めて作ったとっておきの魔法の箱……【その箱を通り抜けると、入力された物体は、ある一定の法則に従い、魔法で『変身』して出力される】。小石を入力したら猫が出てくるかもしれないし、リンゴが出てくるかもしれない。そこは、ブラックボックスに適用させる規則次第。で、ゲームでは【入力したものと出力したものの関係から、ブラックボックスの変身規則を当てる】のよ」

 今江良が出した例で言うなら、小石を入れてリンゴが出てきたのは、どういう法則に従っているのかを当てる、ということになる。

「ま、これだけじゃピンと来ないかもしれないから、一つ例題を出すわ。

 バナナを入力すると、ボートを出力する。

 アヒルを入力すると、ボートを出力する。

 カボチャを入力すると、馬車を出力する。

 ……解りやすいようにものすごくシンプルにしたけれど、問題はこんな感じで出すのよ。今は言葉で説明したけれど、【実際にはちゃんと入力する物体を用意し、ブラックボックスを通して、魔法で変身させる】わけだけど。ちなみに今使った規則は、入力した物体から一般的に連想される乗り物に変身する、というものね」

「要はなぞなぞみたいなものか」

「まあ、そう思ってくれてもいいわ」

「で、俺はあんたが出す問題に答えればいいのか?」

「いいえ。問題を出すのはあんたで、あたしが答えるの」

 江良はにやりと不敵に笑う。

「今までたくさんの問題を解いてきたあたし……つまんない問題じゃあっさり解いちゃうから、気合入れて問題を考えてよね。あんたは、【勝負の金曜日までに、ゲームに使う、入力する物体を三つ用意しなさい】。ヒントは少なすぎても多すぎても面白くないから、三つくらいが丁度いいの。ああ、【使うブラックボックスの入り口の大きさは一メートル四方くらいだから、それを通らないような大きい物は持ってこないでね】。【入力するものさえブラックボックスを通れば、出力するものは箱より大きくても、そこは魔法の箱だから、なんとか出力する】から、そこは安心していいわ。とはいっても、さすがに『地球』とかは出てこれないだろうから、『地球儀』みたいな代用品が出てくると思うけど。【ブラックボックスに適用させる規則は、あんまり複雑すぎてもアレだから、三十文字以内で簡潔にまとめてきてね】」

「……俺が三つの物体を入力して問題を出し、その問題にあんたが答えられなければ、あんたの負け、ってことか?」

「そう。あたしが答えられたらあんたの負け。勿論、このままじゃあんたに不利すぎるから、時間制限を設けるわ。【あたしが一分以内に答えられなければあたしの負け】よ。【誤答をしたらその場であたしの負け】。どう、解った?」

「その勝負を受ければ、阿澄を返してくれるのか?」

「返してほしいなら、勝負に勝ちなさい。あんたが勝てばあの子は返すし、魔法の鍵にはもう関わらないって約束してあげる。でも、あんたが負けたら、あんたの友達は返してあげないし、魔法の鍵も貰ってく」

「鍵が手に入れば、阿澄は関係ないだろう」

「あのねぇ、なんか勘違いしてるみたいだけど。別にあたしは、あんたが勝負をちゃんと受けるようにするためにあの子をさらったわけじゃないの。単純に、こうした方が面白そうだからってだけ。ねえ、解る? あの子はゲームの商品なの。ほら、こうすれば、あんたも少しは必死な顔、見せてくれるでしょ?」

「……クソ性格の悪いグリムの灰かぶりアシェンプテルだ」

「変な名前つけないでよね」

 不愉快そうに言うと、江良はジャングルジムからぴょんと飛び降りて、危なげなく着地する。

「じゃあ、金曜日に、あんたの教室に迎えに行くから。楽しみにしてるわね」

 じゃーね、と手を振って、江良はスカートの裾を翻した。

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