序 すべての元凶・魔法の鍵
シリーズ二作目、始めました。相変わらず、魔法は出てきますが、魔法でドンパチはしない予定です。残酷描写ありは保険です。
魔法の鍵とはなんなのか。
天才魔女として勇名を馳せた桐島御影が逝去し、魔女界は震撼したという。仕事で世話になったとかで、あちこちから友人だという魔女が弔問に来てくれた。そういうことを鑑みると、母はなかなか人徳があったのだな、と末っ子長男の桐島丈はしみじみ思ったものだ。
が、そんな感動的展開は長くは続かなかった。桐島御影は、魔女が職業として認められた「魔法特区」の中で、友人も多かったが、敵も多かったらしい。敵、と一言でひっくるめてしまうと語弊があるような気がするので具体的に言うが、たとえば、御影の好敵手を自称して「あいつは強かった。が、私の方が強かったんだからね」などと聞いてもいないアピールをし始める奴、「御影さんはいい人だったんだけど、結婚相手にするなら絶対私の方がよかったはずなのにねえ」などと嫉妬に満ちた台詞を残していく奴、エトセトラ。
一番多いのが、御影の遺した魔法道具を狙う者。すでに市場に出ているものについては当然のごとく大金を積んで収集しようとするコレクターがいるのだが、御影がこっそり隠していたものまで発掘しようと息巻き、桐島家に近づくものがいた。
魔女たちが狙う魔法道具の筆頭が、魔法の鍵。御影は生前この鍵を隠し、隠し場所を、あろうことか魔法を使えない丈にだけ教えたのだ。
御影の死後、桐島家では家族会議が開かれた。議題は、「で、結局魔法の鍵って何に使うの?」である。
そんな話が持ち上がったきっかけと言えば、四女の四葉が、「実は魔法の鍵がたいしたことない使えないアイテムだとかって話なら、鬱陶しい客も減るのにね」と言ったことだ。当時、鍵狙いの魔女の来襲に最もキレていたのは四葉だった。四葉は高校受験前だったのだ。
「鍵っていうくらいなんだから、錠を開けるんだろうよ」
まっとうな意見を言ったのは丈だった。が、この意見は、
「錠ってどこにあんだよ」
「まさかここにきて魔法の錠と対になってるとか言い出すつもりなの?」
「もしそうなら、私なら苦労して鍵を手に入れるよりも錠をこじ開ける」
「それな」
四人の姉から叩きのめされた。四面楚歌とはこのことである。
しかし、人の意見はにべもなく切り捨てたくせに、姉たちが出した意見もたいがいだった。
「やはり、心をアンロックするとか、そういう類じゃないのか?」
「えー、私は魔法のカードとセットで使うに一票!」
「召喚魔法に使うのやも知れんぞ?」
「ボス部屋を開くのに使いたい」
そんな調子で姉たちは、わいわいきゃいきゃいと主張し、いつしか「好きな漫画・ゲームは何か」という話になっていった。馬鹿らしくなったので、丈は五分くらいで退場した。
結局、魔法の鍵の用途は未だ不明。ちなみに、丈は御影から教わった隠し場所にすら一度も行っていないので、鍵の形状すら不明というのが現状である。




