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発現

 一週間ほど経って、ある発見があった。

 古式はどうやら、通学に自転車と電車を利用しているようだ。

 俺達の通う高校は田舎のため、最寄駅から自転車で15分程かかる。

 校区も田舎ゆえに広いため、家から徒歩→電車→バスor自転車で高校に通う者が半数程度を占めている。

 俺もその中に入り、古式と同様自転車を利用している。その方が帰りに友達と寄り道なんかもしやすいからな。

 そしてこの邪念が、俺に古式が俺と同じ方から電車で通っているという事実の発見を遅らせた。

 何故って、今までほぼ毎日寄り道してたから、直帰組と帰りの電車が一本ずれてたんだ。

 これに気づいたのだって数日前、雨で波倉とバスに乗って大人しく帰ったのが原因だった。

 うん? なんで二人きりかって? 弾希は部活だから仕方ない。俺も波倉も、他の親しい友達は、みんな何かしら部活かクラブに所属していて、ここ二週間くらい前からこれが日課になっているんだ。何もやましい事はない。

 ……つーか、古式をネタに毎日色々おごらされてんだけどね。

 そもそも今まで気づかなかったのは、波倉が古式をネタにして俺に寄り道を強制したからなのだ。

 ……つまりは波倉に相談した俺が悪いんだよね。

 また後ろ向きになりそうな思考を放棄して、俺は一人駅の改札を通る。周囲に人気はほぼない。

 今日は進学希望者対象の土曜補習の帰りだから、授業が午前のみで半端な時間なのも原因だろう。

 だが、何よりの原因は今朝の朝もやである。その影響で電車のスケジュールがアテにならなくなったのだ。俺のクラスメイト達も、電車を気にせず帰路についていた。

 普段は終わると同時に疾走して、一本早いのに乗ろうとする者が大半で、普段は混雑気味なのだが。

 俺はというと、今日は波倉とは別れてすぐに帰る事にした。

 ここ数日、古式が一人で駅から電車に乗るのを確認している。話しかけるには、絶好のチャンスだ。特に今日は午後が空いているので、会えれば遊びに誘ったり出来るかもしれない。そう分かっていても中々声をかけられないんだけど。

 一応言っておくが、数日前の昼休みの時点で波倉には当面こうする事を連絡しておいたし、放置してきた訳ではない。この事を聞いたあいつは、物凄い不機嫌そうに、

「あっそ」

 とだけ答えてそれっきり、黙ってしまった。てっきり攻撃が来ると思い、身構えていた自分が情けない。

 あんな醜態をさらしたのだから、頑張らねばと気合いを入れ直す。

 電車が来るまであと数分だ。

 そろそろバス組が来て、ただでさえ狭いホームが人波でごった返す。

 それまでに古式が見つかればいいのだが。

 そう祈りながら俺は階段を上る。この駅では反対側に行くためには、線路の上を跨ぐ歩道橋みたいなアレを通らないといけないのだ。

 この歩道橋は老朽化が進んでいてかなり怖い。朝うちの高校の始業時間に合った電車を使えばそれがよく分かる。

 みんなの足音に呼応して、歩道橋全体が微妙に揺れてる気がするんだよね。……いつか壊れんじゃないだろうか。

「あ、いた」

 歩道橋を渡り終え、予想外に早く古式の姿を認めて俺は間抜けな声を出した。

 古式は歩道橋の通路の真下辺りにいた。待ち時間を持て余したのか、文庫本を読んでいてこちらには気づいていない。

 今日こそ話しかける……うん?

 俺はそこで何か違和感みたいなものを感じた。違和感というか既視感。

 いや、どちらかと言えば異物感とでも言おうか、何かおかしい。そう感じた。


 古式が危ない。


 ……え?

 よく分からない直感めいたもが、俺の脳内をかすめた。

 まるで夢の中で、ああこれは夢なんだと実感するような、不確かな感覚だ。

 頭がぼーっとして鼓動が早いのは、古式を見つけたからか、それとも別の理由があるのか。

 数瞬で冷めた異物感と引き換えに、周囲の喧騒が耳に届いた。

 既にバス組がぞろぞろと、歩道橋を上り始めていた。

「古式ッ!!」

 俺は何故かハラハラして古式の名前を叫んだ。

 びくり、と古式が文庫本から顔を上げる。

 俺に定められた視線には驚愕と、少し戸惑いが混ざっていた。

 そりゃいきなり名前叫ばれたら驚くよな。

 けどそんな事今は気にしていられない。

 何かヤバい。

 そんな気がして駆け出す。


 同時、歩道橋の表面のタイル数枚が剥離。落下。


 真下には古式。

 俺は古式を抱き抱えるみたいにしてかばう。

 そこで、俺の意識は衝撃に掻き消され、途絶えてしまった。

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