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勝敗

「なあツッキー」

「うん?」

「今回は俺の勝ちだぞ、お前が先に膝ついただろ?」

「馬鹿言え。俺は膝ついただけだ。先に倒れたのは弾希だろうが」

「だったら、先に意識失ったの、ツッキーだ」

「いんや弾希だね」

「俺の勝ちだ」

「いやお前の負けだ」

「どっちでもいいわボケ!!」

 がす、と俺は頭を何かで叩かれた。おそらく弾希も同じ目にあったのだろう、うめき声が聞こえる。

 ここは病院のベッドの上だ。俺も弾希も全治二週間の宣告を受けた。息をするだけで脇腹が痛い。

「どれだけきしょければ気が済むのよアンタら。ちょっと目を離したら本気で喧嘩して、大怪我して」

 俺と弾希は喧嘩の勝敗を、体に負った傷の少なさで判定しようと躍起になって数えたので、お互いの容態を詳しく知っている。

 骨は二本骨折、さらに二ヵ所剥離骨折、そして四ヵ所ヒビが入り、あとは全身打撲。

 弾希も似たようなものだが、俺より剥離骨折が一ヵ所少なく、ヒビが一カ所多い。

 個人的に俺の判定勝ちだと思って−−

「って聞いてんのかコラー!!?」

「うぐぉっ」

 骨折した脇腹に波倉の裏拳がピンポイントで入った。俺は悶絶する。

「特にアンタは何回入院すれば気が済むのよ」

 その件に関しては本気で済まないと思ってる……主に毎回毎回付き合ってくれる医者に対して。あの人ついに俺のかかりつけ医みたいになってきたもんなぁ。

「二人とも仲良くしないと、また酷いよ?」

 花瓶の水を換えに行ってくれていた古式が、病室に入るなりそう言った。俺は思わず手を頭にやる。弾希も多分似たような反応をしただろう。

 今朝お見舞いに来た古式は、言葉を発する間もなく俺と弾希の額を本(古語辞典)でぶっ叩いた。どうやら俺達二人が何も言わず喧嘩して、その上何も言わず仲直りして−−つまり自分が完全にかやの外だったためにご立腹らしい。

「次は国語辞典だからね」

 怒りの度合いを本の分厚さで表現されても困る。そして最終的に広辞苑とかになると死ねる。

 俺は弾希の方を見た。あいつも苦笑いでこちらを見ていた。鏡見てる気分だ。

「ま、引き分けって事で手を打つか」

「だな」

 俺達は今度はすっきりと笑い合ってそう言った。

 答えが出ない事でもう迷わないし、ぐだぐだと考えない。

 とにかく古式との記憶が、さらに弾希や波倉との記憶が、ちゃんと戻ればそれでいい。

 そして弾希との喧嘩でかいま見た記憶の断片は、俺にとって懐かしく大切なものだった。失った時間を取り戻したかのような高揚感は、言葉では語り尽くせない。

 それはまるで押し入れの奥に突っ込んだ、入れた事さえ忘れていた、古びたアルバムをめくるようで−−俺は記憶が戻る日が待ち遠しい。

 ただ、そう思えた。

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