毎日穏やかな朝を迎えられるという幸せを感じながら生きていきます!~彼らは勝手に滅んでいったようです~
穏やかな朝を迎える。
ベッドから起き上がり、身の回りの色々なものを整え、食事のための部屋へ向かえば夫と朝食が待ってくれていた。
なんてことのない穏やかな朝。
けれどもそれが何よりも愛おしい。
おはよう、軽く挨拶を交わして、自分のための席に着く。
「この後しりとりしないかい?」
「あ、はい。構いませんよ」
「ありがとう! じゃあゆっくり食べつつしりとりという歴史を紡いでいこう」
数年前結婚し私の夫となってくれた彼アーヴォンは資産家ながら少々不思議なところのある人物だ。もちろん悪い意味ではない。言葉の通り、そのまま、深い意味はない。ただ、彼はたびたび不思議な提案をしてくる。
「じゃあ僕から始めるね」
「はい」
だが、そういうところも含めて、彼という人を愛している。
なので少し変わっていても気にはならない。
むしろその個性に楽しさを感じるくらいだ。
そして、彼は、恩人でもある――かつて婚約者に理不尽に切り捨てられた私を救ってくれたのが外の誰でもない彼だから。
「いくよ……薔薇!」
「ラズベリー」
「陸地!」
「地理」
「また、り、だね……やるね……りんご、でいくよ!」
その昔、私には婚約者がいて、私は当たり前のようにその人と結ばれるものと思っていた。
「ご、ですね」
「そうだね」
「では……ゴミ箱」
「コイントス!」
「すみれ」
「レバー!」
だがその人との関係はある日突然終わりを迎えることとなってしまう。
というのも急に婚約破棄を告げられてしまったのだ。
「では、バイバイ、で」
「イルカ!」
「カミキリムシ」
「そうだねー……幸せ!」
「セミ」
「虫多いね……未来!」
浮気していた彼は、その罪をごまかすために、慌てて私を切り落としたのだった。
ただ、それだけならまだ良かったのだけれど、その際に幾つもの酷い言葉をかけられてしまって。それが胸に突き刺さって抜けず。当時の私はかなり落ち込んだ。ことあるごとに涙を流し、食事もろくにとれず、と、そんな日々が続いた。
あの頃両親にはかなり迷惑をかけてしまっていたなと思う。
だが、そんな地獄のような日々の中でアーヴォンに出会えたのだから、そういう意味では悪いことばかりではなかったのかなとも思うのだ。
アーヴォンと出会って、見たことのない世界を見ることができた。
彼は酷く落ち込んでいた私の生きる世界を書き換えてくれた。
「今」
「巻貝!」
「ええと……そうですね……居間、で」
「舞い系伝統芸能!」
「馬」
「マイタケ!」
「警備隊」
「妹!」
「年寄り」
「離婚率!」
「そうですね……では、積み木、で」
「木こり!」
アーヴォンに出会えたことは人生最大の幸運だった。
「り、多くないですか?」
「確かにそうだね、次からは気をつけるよ」
「いえ……では、りんごジュース、で」
「するめいか!」
「缶詰」
「めじろ!」
「ロバ」
「バードウォッチング!」
ちなみに元婚約者の彼はというと、私を切り捨ててすぐ浮気相手だった女性と婚約したそうなのだが、またしても浮気してしまったそうで、高額な慰謝料を支払わされることとなってしまったそうだ。
今度こそ彼は償わなければならないこととなった。
私の時のようにごまかすことはできなかったようである。
まぁ……それはそうか、そう何度も都合のいい展開に持ち込むことは不可能だろう。
「では、軍手、で」
「手紙! だね!」
「ミント」
「トイレ!」
罪に罪を重ねた元婚約者の彼は、実の親からも呆れられ勘当を言い渡されてしまい、家を出なくてはならないこととなったそう。
で、その後は孤独に路上を彷徨い、一年も経たないうちに飢え死にしたそうである。
「レーズンヨーグルト」
「また、と!? ……気を取り直して、トング!」
「ぐさぐさの髪」
「ミントチョコレート!」
「トド」
「ドーナツ!」
「釣り具」
「おおー。じゃ、ぐだぐだする人!」
「飛ぶ」
「舞台監督!」
「クッキー」
「きりたんぽ!」
ちなみに、婚約しているにもかかわらず浮気された私の時は浮気女性だった彼女もまた、後に破滅したようである。
というのも、酒場に出入りしていた時に顔だけはいい男性に惚れてしまったのである。
彼女はその男性にありとあらゆるものを搾取され、都合のいい女として捨てられてしまったそう。
捨てられた時、彼女には、もう何も残っていなかった。
お金も。
名誉も。
品格も。
清らかさも。
すべて吸い尽くされ奪い尽くされていた。
「……何ですかそれ」
「噂によれば、東国の食べ物らしいよ。美味しそうだったよ」
「そうなんですね」
人を傷つけるようなことをした彼らは勝手に滅んでいった。
一方で、私は穏やかな今日を生きている。
◆終わり◆




