死神見習いとの出会い
小学六年生の美空。地味女子で友達はあまりいない。勉強も運動もいまいち。見た目もあか抜けない。ちょっと人見知りで物静かな美空の元に、イケメンな死神見習いのリジンがやってきた。
どうやら美空はリジンの理想の人間だったらしい。理想というのは外見とかそういうものではなく、幸せポイントが低い人間という一点のみ。不幸にまみれたただの女子。リジンの目的は、正式な死神になること。その用件は、幸せにした人間をあの世に連れていくこと。幸せだと思って死んでもらうことだ。リジンの姿は他人には見えない。しかし、リジンと名乗る死神見習いは一時的に人間に見えるようにする力があるらしい。見た目は普通の人間とかわらない。
リジンの性格は明るく、口は悪いが優しい。
「お前は幸せポイントが低い。俺はお前を幸せにした状態であの世に連れていけば、正式な死神として認定されるんだ。だから、俺のために幸せになってほしい」
「私、死ぬってことじゃん? 幸せになる予感なんてゼロだよ」
「どうせ今は幸せポイントがほぼゼロだ。俺が幸せにしてやる」
かっこいい顔で幸せにしてやるだなんて――。
「かっこいいセリフだけど、つまり……幸せにして私を殺すってことでしょ」
「殺すっていうと聞こえが悪いが、魂を連れ去るとでも言っておこうか」
「どっちにしても死ぬってことじゃん!! でも、私はそれでもかまわないよ」
「人間が幸せに感じる時ってのを調べてみた。人間は、恋愛をして両想いになれば幸せになれるんだろ? 好きな奴はいないのか?」
急な提案に戸惑う。なんで恋愛なのよ。そりゃ、好きな人はいるけれど――。
頬が染まる美空。
同じクラスの秀才で運動新景抜群の秋野柊人をずっと好きだった。
「告白しろ」
半ば強迫めいたリジンのセリフに後押しされ、小学一年の時からずっと憧れていた気持ちを伝えようと告白する。死ぬ前に想いを伝えられたらそれでいい。そんな気持ちだった。秋野君はいつもにこにこしていたから、きっと優しく受け止めてくれると思えた。だから思い続けられた。
呼び出しはリジンがうまくやってくれた。
「用事がある女子がいるらしい。体育館の裏に昼休みに行ってくれ」
勇気とチャンスを与えてくれたリジンに感謝しつつ、勇気を振り絞る。
手は震え、声もうまく出せない。でも、今言わないと。そんな気持ちになった。
「ずっと一年生の時から六年間好きでした。付き合ってください」
秋野は驚く。青ざめた顔と冷めた瞳で見つめたように感じた。
「僕にはもったいないから」と言って優しい笑顔で遠回しに断られる。
もしかして惹かれるではないほうの引かれた?
ドン引きされたような気がした。
何となくだけれど、彼の表情が曇りうっとうしいような瞳をしたような気がしたからだ。でも、気のせいだよねと自分で納得する。気持ちを伝えられただけで充分だ。
しかし、放課後クラスメイトに告白されたと自慢げに話す秋野は美空のことを悪く言う。偶然教室に戻った時に聞いてしまった。一瞬にして体が凍る。
「あいつ、暗いし、六年間も想い続けていたって言われたらマジで引くって。キモイ」
美空は秋野が小春に悪口を言っているのを聞いてしまう。悲しくて涙が止まらない美空。
その場を立ち去ろうとするが、涙があふれて動けなくなってしまっていた。
とめどなくあふれる涙と負の感情は雨のように流れ落ちた。
すると――リジンが秋野に文句を言いに行く。
全員に見えているということは、彼は人間となる力を使ったのだろう。
「美空はいい奴だ。おまえにはもったいない。おまえが好きな女子は小春だろ。目の前にいる一緒に悪口を言っている小春は二人の男と極秘で交際しているんだ。何も知らないおまえはみじめだな」
秋野は驚いた顔でただ小春を見つめた。
小春は気まずそうに視線を逸らす。
リジンの優しさを知る美空。小春の二股を知っていたリジンには人の心を知る力があるらしい。その力を美空のために使ってくれた。それが嬉しかった。もしかして、今幸せだと感じた? 幸せポイントが上がったような気がする。
「リジンとデートをしてみたい。そうしたら、後悔なしで死んでもいいかな」
戸惑うリジンだったが、見える人間の姿となり、週末デートをする約束をする。
「どんな服を着ていこう? そんなことを考えているだけでとっても幸せだよ」
自然と笑顔になっている。今まで一緒に遊ぶ友達もいなかった美空にとってとっても嬉しい出来事だった。
「後悔なしで死ぬなんて言うな」
「死神になる人にとっては好条件じゃない?」
「お前は幸せポイントがゼロに近い状態だ。秋野なんて忘れろ。むしろ俺が忘れさせてやる。週末は楽しめよ」
短期間なのにこんなに惹かれる。
彼のそばで死ねたら私は幸せだ。
週末の午前中にあえて待ち合わせをして人間になりすましたリジンと共にデートをする。服も一般的な小学六年生の男子という雰囲気だ。デートと言ってもお互い何をしたらいいのかわからない。とりあえず、ファーストフードで食事をしたり、ゲームセンターに行ったり、公園を散歩したり――。行く先々で意外と面白い話が飛び出すリジンのことがますます大好きになる。
「死神って面白い話のネタの宝庫なの?」
「別に普通の話をしてるつもりなんだけどな」
「じゃあ、私たちってとっても気が合うのかもね。今まで何人の女子を落としたの?」
戸惑うリジン。多分、そんなに女子を口説いたことも恋に落としたこともないような雰囲気だった。一言で言えば不慣れな感じが前面に出ていた。
「リジンの幸せのためなら、私は犠牲になってもかまわないよ」
美空の言い出した提案にリジンは辛い顔をする。
「バカ言うな。俺は、死神になることを辞める。じゃあな」と言い、二度と現れなくなった。最初で最後のデートは、一生の思い出になるくらい幸せの絶頂だった。
こんなに気が合う人は滅多にいない。
今後も出会えないかもしれない。
死神になることを辞める。そのことは、リジン自身の死や消滅を意味するのだろうか?
一人ぼっちになった美空。以前よりも、虚しい日々だった。
これが本当の失恋なのかもしれない。
想いすら伝えられなかった。後悔ばかりが募る。
もう、秋野のことなんて頭の片隅にもなかった。
もしかしたら、リジンとどこかで再会できるかもしれないと一抹の望みをかける。
色々なところへ出かけてみたが、リジンには出会えない。
もう会えないの?
夜は自然と涙があふれた。
もう一度会えたら気持ちを伝えたい。
大好きだよって。
その一か月後――。
「理沢陣です」
一人の転校生がやってきた。リジンだ。しかも普通の間の小学六年生になっている。ランドセルもちゃんと背負っている。なんだか以前よりも幼く見えた。
休み時間小声で耳の傍で囁くリジン。
「俺、死神じゃなく人間になる選択をしたんだ。そして、おまえの幸せポイントを高くしたら、神様候補になれるからさ」
「じゃあ、ずっと人間として生活するってこと?」
「神になるには百年以上かかる。たくさんの人を幸せにすれば神になるためのポイントが増えるらしい。つまりは、俺はおまえを最初に幸せにするってことだ」
「幸せにしてよね」
「おう、任せろ。今ので、お前の幸せポイントがグッと上がったみたいだな」
幸せポイントが見える理沢陣。今でも特別な能力は健在らしい。
あっという間にすぎる一日。
でも、明日も明後日もずっとリジンがいてくれる。
「ずっと一緒にいようね」
「あったりめーだ。俺はおまえのことが世界で一番大事だからな」
そんなにまっすぐな瞳で言えるなんて、リジンは凄く純粋で愛情深い。
「私だって、あなたのことが世界で一番大事なんだから」
お互いの視線が重なる。クスリと笑いあう。
心の中で大好きだよと叫んでみる。
心の中を知る能力によって、リジンの頬は真っ赤に染まる。
こんなからかい方もあるのか。
「最近の美空は幸せポイントが半端ないな」
リジンはポイントが見えるらしい。
「だって今、とっても幸せだもん」
リジンの髪が風でなびく。美しい瞳が美空を見つめる。
「俺、美空じゃないとダメだ。なんかわかんないけど好きだ」
「好きっていうのは理屈じゃないよね」
「そうだな。手を出せ」
二人が笑いあう。手と手が絡む。指と指が重なる。これは、気持ちが重なるのと同じなのかもしれない。
出会いなんて偶然だけど、きっとずっと前から決まっているものなのだから。縁とか出会いと言うのは己の力だけじゃ何にもならない。リジンが美空を変えた。そして、美空がリジンを変えた。
「出会えてよかった。ありがとう」
「俺がお前を幸せにしてやるから」
「私があなたを幸せにしてあげるんだから」
一緒にいるだけでこんなに幸せだ。




