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【短編集】5分後にほろり ファンタジーな恋話集めました  作者: 響ぴあの


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リベンジチャンス

 大地がすすり泣くような地鳴りともに、地球が発狂するかのような激しい揺れ。耳をつんざくようなうなる音がする。津波が襲う。泥水は想像もしないくらいの高さからあざ笑うように人々を襲う。青春を彩る青い海は別の生き物に豹変した。美しい思い出は流され、なにもなくなった。灰色の泥となった海は容赦なく人の命や住処や大切な物を奪う。法律で裁くことができない大量殺人。自然の驚異には逆らえない。人間は防御と逃亡のみの無力な生き物だ。


 大震災を経て、萩野月美は変わってしまった。どう頑張ってもうまくいかない。考え方もマイナス思考だ。あと、もう少しだけ前向きだったら――あの時に戻りたい。今は亡きお父さんと初恋の彼、遠野奏とおのかなでがいた世界。大震災当時、小学生だった。初恋の彼は、優しくて笑顔がかわいくて、とても人気者だった。でも今、その彼はいない。そして、お父さんもいない。私のまわりにはないものばかりだ。「ない」で埋め尽くされて存在している萩野月美、高校を卒業間近の18歳。闇の底に突き落とされたまま生きている。


「君は、リベンジチャンスを与えられた。君の大切な人を救いたいって思ってるなら、手助けするよ」

 緋色の髪をした宙を浮く少年が突如現れる。


「リベンジチャンス?」


「俺はタイムリープできるんだ。リベンジチャンスは過去に戻って修正できるシステムなんだ」


「過去を変えられるの? そんなことしていいの?」


「今の世界がすべて正しいとは限らない。善人が悪人に殺されることだってあるし、死ぬべきじゃなかった人が死んでしまった世界もある。それを少しずつ俺は変えている。今いる世界はリベンジチャンスの末に創られた世界なんだよ。何が正しいことで、何が正しくないのか、それはとても曖昧な基準だと思わないか?」


 この少年は、すごくまともなことを言っているのだと思う。でも、少しばかり難しくて頭が混乱する。


「今、難しいって思った? じゃあ簡単に言うよ。死んだ彼が生きている世界を創ろうって提案しているんだよ」


 よくわからないけれど、こんなチャンスはきっと今後ないだろう。


「タイムリープは結構危険な作業だから俺の言うことに従って。まず、タイムリープすると君は小学生の自分と同化する。外見は小学生だけれど、中身は高校生の今の君だ。でも、タイムリープしたとかそういったことは言わないでね。あとは、バレる発言をしちゃだめだよ。バレたら即、今の世界に引き戻されるから。せっかく過去を変えに行ったのに、そのまま帰るなんてもったいないから、気をつけて。困ったときは、助けるから」


 手を差し伸べてくれる善意にすがっていた。緋色の髪のきれいな顔立ちの少年だ。どこか人間離れした雰囲気とでも言おうか。風もないのになびく髪はこの世の者とは違う空間を歩いている人ということを物語っている。


「リベンジできるならば、何でもする!! お願いします。リベンジの神様」


 感じのいい人だな。人当たりが優しくてなめらかな印象だ。

 どことなく、育ちがいいのだろうか。のんびりした口調が落ち着く。不思議な声だ。高くもなく低くもない、そんな心地のいい声質だ。


「でも、過去を変えることなんて……できるかな」

「大丈夫。俺、こう見えても色々便利なアイテムを持ってるからさ。初恋の彼には九死に一生を得るというアイテムを使おうか」

「なにそれ?」

「九割死ぬはずだった人が一割の可能性で生き残ったとか、運よく生き延びたっていうのは、たいてい誰かがこのアイテムを使ったと思っても過言じゃない。運を集めて彼に渡すんだ」

「集めて渡す?」

「運がいい人っていうのは何かを持っている。そういう人から運を分けてもらうんだ。そうすればおのずと彼は強運になる。偶然助かったことになるから、問題ない」

「そっか。でも、運がいい人なんてわからないよ」

「誰でも運は持っているけれど、強運を持っているかどうかは、この識別メガネをかけると見えてくるんだ」

 一見普通のメガネだ。


「識別メガネをかけてごらん。すると、人間の色がわかる。そう言った人からエネルギーをもらうと効率がいい。この世界で、まずは運を集めて、タイムリープする。そして、彼の元へ届けようか。この世界の運というのは幸福の象徴でもあるかな。幸福な人は幸運な人が高確率で多い。幸運が重なった結果、幸せな生活を送っているということさ」


「たしかに、運って見えないけれど、人生を左右するかも」


「入試や面接なんかでも運がいい人は強い。体調が良かったり、問題や試験監督に恵まれていたりする。結果的に行きたい進路を選ぶ権利が与えられるんだ。結婚も運かもしれないな。良縁がある人は幸せになれるからね」


「人って色々な色を持っているんだね」

「黄金色はかなり強い運を持っているんだ。黄色、赤色、青色が運の順番だよ」

「緋色は虹色のような色が組み合わさったオーラに包まれているね」

「俺は普通じゃない仕事をしているからね」


 普通じゃない仕事。たしかに、この人何者? そもそも人間なのだろうか? でも、今はとりあえず幸運を集めなきゃ。


「幸運を集めるってどうするの?」


「名前を聞いて握手をする。すると、この幸運の箱に運が貯まっていくんだ。これが満タンになったらOK。でも、偽名だとかニックネームだと集まらないから」


 リュックサックから取り出した箱は白い小さな箱だった。インテリアとして置いたらかわいいかもしれない。


「でも、急に知らない人に名前を聞くなんて、変だよね」


「そこは頭を使うんだよ。例えば、道を聞くふりをして、ありがとう、名前を聞いていいですか。そして握手をする流れがポピュラーだけれど。そうだな、ハンカチを落として、拾ってくれた人に感謝しながら名前を聞くのもありかもね」


「拒否されたらどうするの?」

「次のリベンジでしょ」

「別に断られてもデメリットはないよね?」

「精神的なダメージはあるかもしれないけど、問題はないから。箱に貯まるエネルギーが足りないというだけだよ」

「じゃあ、繁華街のほうに行ったほうがいいかな」

「まぁ、この町は田舎だから、もうちょっと都会の方が目立たないかもな」

「たしかに。知り合いも結構いるし、道を聞くほど込み入った町じゃないね

「田舎って悪くないよな」

「都会に行きたいと思ってる私みたいな人間もいるのに」

「でもさ、田舎の方が、心が優しい度数が高い人間が多いのも事実だな」

「心の優しさが見えるの?」

「俺はメガネをかけなくても人間の運の色も優しさの度数も見えるんだ」

「不思議な人」

「ヒーローには謎が多いってことで納得しろ」


 そう言って、頭の上にぽんと手を置く。

 優しい人だな。この笑顔に救われた。きっと私は幸運だ。


「自分が幸せになる方法って知ってる?」

 緋色が聞いてきた。


「この箱に幸運を入れればいいんだよね」

「自分が幸せだと思うことが幸運への第一歩だ。だから、君はかなり幸運に近づいているってことだよ。笑顔、いいと思うよ」


 私、自然と笑えていたんだ。不思議な人。


「私の名前は萩野月美。月美でいいよ」

「よし、田園風景を眺めながら電車に乗って楽しもう」


 なんだか、わからないが、この人は幸せにする何かを持った人だ。多分幸せを分け与える存在の人なのだろう。


「たしかに、田園風景は悪くないかも。言われてみて改めて良さを認識したよ」

「同じ景色でも俺と見ると楽しくなるんだよ」

「自分で言う?」


 こんなやりとりを誰かとしたのは、いつぶりだろう? リベンジできる? これはチャンスなのかもしれない。神様がくれたチャンス!! こんなに気持ちが楽になったのはいつぶりだろう? 


 のどかな景色が過ぎると、そびえたつビルが立ち並ぶ町が見える。先程よりも、人口密度が高くなったような感じだ。澄み渡る青空と空気がおいしい。少しばかり都会は排気量が多いのが難点だけれど。


 この県内で一番大きな町に着いた。人がたくさんいる。メガネをかけて、一番黄金色の人に声をかけよう。歩いてくるゴージャスな奥様は黄金色のオーラに包まれている。

「すみません。お土産売り場はどこでしょうか?」

「あぁ、そこの階段から地下街に下ってね」


 派手な色合いの衣服に包まれた奥様にお礼を言う。

「ありがとうございます。お名前伺ってもいいですか?」

「佐々木よ」

 握手の手を出すが、スルーされてしまう。


「あの、下のお名前は?」


 奥様は無視していなくなる。


「幸福の箱は?」

「まだ補給ゼロだな」

「やっぱりフルネームじゃないとだめなのかな」

「それもあるけれど、あの人、そもそも偽名だな」

「そんなこともわかるの?」

「まあね。幸運の持ち主が本当のことを言うわけじゃないよ。疑り深いからこそ騙されずに今の地位にいるって人も多いんだ」

「そうだよね。警戒されるよね」


 その後、リベンジするも、無視されたり、笑って何も言わずに立ち去る人が大半だった。見ず知らずの人に声をかけることは思ったより疲れる。少し座って休憩する。


「初恋の彼のどこが好きだったの?」

「優しくて、面白くて、顔もとってもかっこよくてね」

「完璧な男子だな」

「そうなんだよね。彼とは気が合って、付き合おうみたいな話になったこともあって。唯一の彼氏みたいな存在だったんだ。でも、今の私、全然いけてないんだよね。服のセンスはダサいし、面白い話もできないし。勉強もとりえがないし」

「でも、それって地震のせいなの? 震災が君の今を奪ったの?」

「え……?」

「服や話や勉強って、関係ないよね。初恋の彼が生きていても、今の月美を見たら気持ちが変わっちゃうかもしれないじゃないか。だってすごく完璧な男子なんだろ?」


 箱を見つめる。

「このまま、運が集まらないかもしれないな」

「じゃあ、だめってこと?」


 にこりと緋色がほほ笑む。

「そんな君に、朗報だ。幸せカメラだ」


 緋色は持っていたリュックからカメラを取り出す。


「幸せな人の姿をこのカメラに収めると、自動的に幸福の箱に幸せが貯まる」

「何? すごく便利じゃない!! そっちのほうが楽じゃん。最初から言ってよ」

「知らない人の写真を勝手に撮るのは本当はまずいから、最初は握手と名前で貯めるほうを提案したんだけどね。このままじゃ集まるのに相当時間がかかるからな」


 まだ補給されていない幸せの箱の数値はゼロを示している。


「私って、負けてるってことだよね。リベンジって元々復讐っていう意味だし、再挑戦しているんだもん」

「負けてると思っている人の前に現れるのが俺だ。再挑戦したいって思っているんだろ」

「でも、この人たちから幸運をもらったとして――その人たちは運が悪くなるの?」


「そうだよ。君に出会った時点で運が悪いってことかもしれないけれど、元々強運な人ならば少しくらいもらってもその人の人生は極端には変わらないとは思う。でも、宝くじ1等の人が5等になったら、人生としては結構損かもしれない。でも、1等だからと言って幸せになった人ばかりじゃないからな。幸運と不運って紙一重だしな」


「たしかにそうかもしれない」

 こっそり、風景を映すふりをして、道行く黄色や赤の人をシャッターに収める。我ながら、なかなか写真の腕前はいいような気がする。写真を撮るって意外と楽しい。でも、青い色の人がほとんどだ。そんなに強運な人なんていないんだろうな。何時間たっただろうか。徐々に箱の数値が上がる。これ、すごく楽しい。ゲームみたいな感覚だ。

「すごい数値が上がってきたな」


 きっとこの人は人と比べるとか自分を低く見るとかそういったことをしない人なのだろう。だから、自信に満ちているんだ。あれだけ特殊な力を持っているのだから、納得だけど。


「満タンだ。そろそろ、過去に行って、彼にこの箱を開けさせよう」

「どうやって過去に行くの?」

「案内するよ。階段を上り切ったところで、行き止まりだ。底は見えない。そこへ一緒に落ちる」

「落ちるって命の保証はあるんでしょうね?」

「大丈夫、ほら」

 手を延ばす緋色の掌に触れる。意外にも温かくて、落ち着く。


 その瞬間飛び降りる。底は見えない。下に落ちる感覚だけがある。私は本当に過去に戻ることができるの?


「過去の自分と同化した時、相手に幸運の箱を開けさせるんだ。そして、未来のことは明かさないこと」


 その瞬間、私は、小学生に戻っている。まさかと思うけれど、小学生の時のスカートにパーカーだ。もう捨てたはずの服。


「じゃあ、彼の家に行こうか。俺は少し離れた場所にいるから」


 箱を渡される。久しぶりの初恋の人。もう6年経つだろうか。あの時の彼にまさかもう一度会うなんて。とても恥ずかしい。立ち尽くしていると、学校帰りの彼がやってきた。


「あの……プレゼントを受け取ってほしくて」

「どうしたの?」

「どうしても渡したいから、この場で箱を開けてほしいの」

「今日誕生日じゃないし、どういう風の吹き回し? あとで開けてもいい?」


 あとであけちゃったら、家族に開けられたとか、そういうオチになりそう。

「ダメ、今、私の前であけてほしいの」

 幸福の箱を開けてもらう。


 すると奏君は、黄金色や赤色に包まれる。

「不思議な色だな。ってこれどういうマジック?」

「不思議な箱だったから、見せたかったの」

「すごく、好きだよ。これからも仲良くしてほしい」

 まさに今、告白されている。人生の絶頂期。

「私も……」


 その瞬間、エレベーターで上に上るような感覚に襲われる。


「お疲れ様。君のリベンジは終わったよ」

 優しい笑顔の緋色だ。この人の傍はあたたかい。


「少しだけ、派手になったかな?」

 鏡を渡される。18歳の私は、以前よりもどこかあか抜けている。少しだけ今時の女の子に変化した。化粧をしているし、唇は真っ赤な口紅をしている。服装もわりとかわいいブラウスにスカートが似合っているような気がする。


「愛しの18歳の奏君に会いに行ったら?」

「……うん」


 奏君の家の前まで来てみた。


「あら、懐かしいわね。上がっていったら」

 奏君のお母さんだ。懐かしいってことはもうここへは来ていないということ?


 18歳の奏君はどうなっているんだろう。きっとあのまま優しくきらきらした瞳の少年のはずだ。

「奏、月美ちゃんよ」

 部屋に入ると、思ったよりも片付いていない。意外な印象だ。奏君はきれい好きだった。

「あぁ」

 暗い低い声。これは、18歳になった奏君? 

 髪がぼさぼさで、太っていた。趣味はゲームみたいで、そこら中にゲーム関連のものが置いてある。


 あれ、これが憧れの奏君? 私が好きなのは緋色のほう? 冷めた気持ちに気づく。恋なんて形はない。一瞬で冷めることもある。普通の人間ではない人に恋をする。心に秘めることなんてできない。


「緋色は私のヒーローなの。だから私の傍にいて」

「恋愛感情を持った者の前から俺は姿を消さなければいけない」


 その瞬間、私は元の冴えない姿に戻っていた。秘密にしておけば、緋色は傍にいてくれたのだろうか――。

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