ギフトチェンジ
ギフト――天から授かった能力。才能。
生まれつきの才能に決して勝利できない分野がある。先取り教育では得られない特殊能力。それを人は超能力というのかもしれない。
これは、生まれつき与えられた能力を持つ人の余命の未来視能力を持つ少女とサイコメトリーによる視る能力を持つ少年の物語――。
私には余命が視える力がある。数字が人間の頭の上に浮かんで視える。
諦めという言葉にすると一番しっくりくるのかもしれない。ただ、数字がゼロになるのを見守ることしかできない。一番悲しかったのは小学生時代の初恋の男の子の数字が毎日減っていくことだった。ゼロになる日、彼は交通事故で亡くなった。一番大切な人を失ってしまった。
最近、数字の面で、気になったのが中学3年生の今、同じクラスになった少年だった。彼の数字は周囲に比べて明らかに少なく、1年もない。ざっと半年くらいだろうか。無難に数人の友達はいるけれど、決して目立つわけでもなく数字が視えなかったら、彼の存在すら気にすることはなかったかもしれない。
彼の名前は彩光流。
私には、みんなに秘密にしている事がある。私の家はごく普通の会社員の父と母との3人暮らし。父は順調に昇進して部長になるのも時間の問題らしい。我が家には6時から9時に父が悪魔に変わる。その時間は公園に行く。
父親はお酒を毎日飲む。お酒の限度を超えると、父親は悪魔へと変化する。
小さな公園のベンチには東屋があり、雨風をしのげるお気に入りの場所だった。そこに、今日は珍しい先客がいた。余命の数字がやたら低いクラスメイトの採光流だ。
「何、してるの?」
「星空を見てた。今日は月がきれいだし、夜空っていいな。夏の大三角が田舎町だとくっきり見えるんだよ。こと座のベガ、わし座のアルタイル、はくちょう座のデネブ。今日は空が澄んでいるから尚更よく見える」
意外とロマンチストな発言にギャップを感じる。クールで感情を見せない印象なのに、感情が豊かで意外と優しそうだ。
「無限に広がる空を見てるとちっぽけな俺が何かしなくても世の中の誰かがちゃんとやってくれるんだろうなって思ってさ」
「私、この公園によく来るんだよ。彩光君には、はじめて会うね」
「俺、この辺りの公園を毎日色々巡って夜景がきれいな場所を探してるんだ。色々と家庭の事情で、外で時間を潰してるんだ」
彩光流の家には母親の彼氏がこの時間、遊びに来ていて、暗黙の了解で外で過ごさなければいけないらしい。
「手を貸して」
一瞬ものすごい力が働いたような気がする。オーラとかパワーとかそういった類のものだ。風が下から吹き上げるそんな感じが一瞬だけあった。
「サイコメトリーって知ってる?」
聞きなれない言葉だ。
「サイコメトリー?」
「物に触れると過去の映像が見えるんだ。断片的だが、強い思いが残っていれば、3個程度なら見える。今読み取ったのは、おまえは何かしらの数字がいつも見えている。そして、当別な力を持っている。自宅にはお酒を飲んだ父親がいて怖いと感じている」
「すごい。超能力者じゃない? その能力ギフトっていうのかな?」
「まぁね。俺のことは、サイコ―って呼んでいいよ」
彼の前髪が夜風になびく。呼び方ひとつで近くなった感じがする。
「じゃあ、サイコ―って呼ぶね。私のことは、未来ってよんでいいよ」
「お前の数字が視える力って面白いな」
「どんな数字が視えてるんだ?」
「私にもわからないんだ」
とりあえずごまかす。まさか余命だなんて言えるわけがない。
ただ、夜空を見上げて二人で過ごす時間は一人で過ごすより意外にも心地よいものだった。
「おまえも、大変そうだな」
腕時計を見ると、そろそろ帰宅できる時間だ。
公園の近くに彩光の家はあった。
私の家の近くだったので、結果的に一緒に帰宅する形になった。
はじめて話したのに、同じクラスだというせいか、意外にも話しやすい。
もう二度と公園に来ないかと思ったが、サイコーは公園へやってきた。それも、毎日毎日私が悪魔から逃げている時間にふらりとやってきた。サイコーは物に触れると色々視えるらしく、ポストにまつわる恋愛話が視えた時は、その話をしてくれた。全部が視えるわけではないが、比較的最近のものや、強い念が残っていると、読み取れるらしい。サイコメトリー恐るべし。
「冬の大三角。おおいぬ座のシリウス、こいぬ座のプロキオン、オリオン座のベテルギウスを結んでできる三角形。やっぱりきれいだ」
彼の瞳は今日の夜空くらい澄んでいた。
やっぱり、私にはどうしようもない数字の減少。サイコーの頭の上の余命の数字は確実に少なくなっている。友人の余命の数字が減るのは心苦しい。
「俺、サイコメトリー以外にも能力があるんだよな」
「まだあるの? すごいギフトをもってるんだね」
「5分後を視る力がある。これは、大きな出来事がなければ、視ることもない。たまに第六感的なもので的確なものが視えることがあるんだ。俺、おまえがいてよかった。この暇な時間つぶしを付き合ってもらうほどの友達もいないしさ」
いつものように2時間をともに過ごす。自販機の前で別れる。闇夜にそこだけがぽうっと明るく照らされていて、独特な雰囲気がある。そして、明かりがあることに安心感を覚える。
もう、父親は寝ただろうか。少し怖いと思いながら我が家へ辿りつく。
嫌な予感。我が家から悲鳴が聞こえる。悪魔が今日は凶悪化しているようだ。父親が酔って怒りに任せ、暴力をふるう。母親は逃げ出した。今日は何か狂気を感じる。刃物を振り回している。
固まっていると、手を取り、走るようにうながされる。
「大丈夫か? 逃げるぞ」
サイコーだ。
「サイコー、ありがとう」
「刃物で切られる未来が視えたから、急いで未来を変えに来た」
「え? 未来を変える?」
「大丈夫、俺の後についてこい」
キキキー!!!!
目の前に大きなトラックが飛び出す。
サイコーが倒れている。
彼はまだ生きている。彼のギフトの能力は秀でていたのに、どうして、防げなかったのだろうか。
救急車で救急搬送される。サイコーは、もう少しで死ぬだろう。
後に、日時指定されたメールが届いた。病院に入院している意識不明のサイコーからだった。
「これは、予約メールだ。今、多分俺はメールを送信できる状態にないだろう。俺はサイコメトリーで未来の視えている数字の意味がわかっていた。つまり、俺の余命は数日しかないと気づいていた。サイコメトリー能力で俺に死が近づいているのもわかっていた。実はサイコメトリーで大きな自分に降りかかる事故は、5分以上未来も視える特殊能力があるんだ。夏のはじめに、お前が死ぬ未来が視えた。だから、俺は上書きしたんだ。未来が死なずに俺が死ぬように。最初におまえが包丁で刺される未来。その後、俺が刺される未来に上書きした。それを回避しても別な事故など結局で俺は死ぬだろう。楽しい時間を過ごすことができたよ。お前に俺のギフトを継承する。ギフトチェンジだから、余命は視えなくなるだろう。俺のサイコメトリーは元々は実の父から継承したギフトらしい。夜の2時間、いつもありがとう。永遠にさようなら」
永遠にさようなら。この言葉の重みを感じる。
彼は過去だけでなく、未来が視えるサイコメトリーのギフトを持っていたなんて――。私は自分の余命の数字が視える力は持っていなかった。だから、自分の余命に気づいていなかったんだ。彼は私の代わりに死んだ。未来を上書きできるなんて。ギフト継承の力を持っていたなんて。ただ、余命が視えるだけの私とは違うんだ。彼は凄い力を持っていた。
残された私は、彼が思った以上に大切だった存在に気づいた。
今日も私は彼のいない夜に孤独を馳せる。彼がいない悪魔の時間はいつも孤独だ。サイコーを最高に好きだったことに気づく。
空を見上げる。去年の夏の大三角は二人で見ていたのに。今年は1人で見ている。
冬の大三角もまた1人で見上げるだろう。辛さ、寂しさ、切なさ、鬱々とした感情がほとばしる。全然タイプじゃなかったのに、好きになっていた。
今まで生きてきた中で一番サイコーが大好きになっていた。かけがえのない存在になっていた。
サイコーが死んでから、他人の数字が視えなくなった。どうせなら、余命が視える力より、サイコメトリーの力のほうが役に立つから使ってほしいという想い。継承できる力。未来が視えるという最高のギフト。
サイコーからの最高のギフトを持って私は今日も彼の分を生きる。夜空を見ると、いつも淡い恋心と感謝が湧き上がる。
ありがとう。




