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塔の中の女神  作者: 米野雪子


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9/12

襲撃


塔から外を眺めていると、王宮からもれる音楽とキラキラした明かり。

まだ、舞踏会をやっているのね。



お父様…大丈夫かしら。

随分、お窶れになっていた。



お姉様は…



“ ほら、この子は大丈夫ですわ。

自己犠牲を苦とも思わない、根っからの善人なんです。

それで、自分は良い事をして満足できる子なんですもの。

だから、私たちの為に犠牲になって本望でしょう? ”



ああ、そうか。

私が勝手にそう思っていたんだ。


私さえ我慢すれば、

みんなが幸せになるならって、考えていたのは。



褒めて欲しいとか、感謝されたいとか、願ってなかったけど…


この心掛けが、まさか嘲笑われていたなんて。


結局、都合よく利用されていただけだった。




“ 私、あなたには感謝しているのよ。

だって、もしこの立場が私だったら、あの人と出会えなかったもの。

本当に心から嫁ぐのが、私じゃなくて良かったわ。

ありがとう、ジュリエッタ ”



パキンッ‼︎



ハッとして音の方へ目をやると、暖炉の焚火が爆ぜたらしい。



お姉様…あなたは、前からそんな人だった。

自己中心的で浅慮で、私をいつも敵視していた。

私が少しでも褒められると、癇癪を起こして手が付けられなくなり、

お父様や周りの使用人には、お姉様の前で私を褒めないようお願いしていた。


でも、人前では優しく慈悲深い王女らしく振る舞えていたのに、

今はそれさえ繕わなくなってしまったのね。


国の危機なのに、公より私を優先したあなたは、もう王女ではない。

愛を知って、幸せになって、子を成して、自分より不幸な妹を見下し、

女として凌駕して勝ったと優越感に浸って、喜びが抑えきれなかったのだろう。



“ ふふっ、ありがとう。

あなたもそのうち、王太子殿下のお子を産むでしょうし、

これで両国の強固な繋がりができて、平和になるわ ”



そんな訳がないでしょう?


武力で他国を侵略して支配する国が、

私を人質に取って牽制している国が、

平和的に交流すると?


だから、お父様は少しでも国のためにと

命がけで贖っていらっしゃるのに…



お姉様…あなたは、どこまで愚かなのですか?




*******




「すまない…ジュリエッタ」



帰りの馬車で、ボソリと不憫な自分の娘の名を呼ぶ。

このままでは、隣国に蹂躙され、民達が飢えるのは時間の問題。

娘を差し出しても、結局流れは変わらなかった。


イメダリヤは、今夜はあの騎士と共に過ごすと帰国を拒否した。

もう、あれは駄目だ。

完全に向こう側についてしまった。


近隣国や保守派の貴族達と、反旗を翻すチャンスを狙っているが、

敵国の国王は、周辺国に恨まれている自覚があるのか、

警戒心が高く、なかなか個人的な謁見の機会を設けられなかった。

それに、行動を起こすにしても、ジュリエッタが人質に取られている。


今日舞踏会後の遅い時間だというのに、無理に帰国したのは

帰路途中の峠で、志を同じくしている協力者達と合う約束があったからだ。


ゴトゴトと動く馬車の窓の外は、暗い森ばかり。

そして、まばらな松明が見えてきた。


馬車を止めて降り立ち、手をあげようとすると、

足元に血まみれで横たわる、同志達が目に入った。


そして、その後ろには松明を持ち、

剣を構えた隣国の騎士達が立っている。




ああ、もうお終いだ。


すまない、ジュリエッタ…

すまない…


不甲斐ない父を…許しておくれ…


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