襲撃
塔から外を眺めていると、王宮からもれる音楽とキラキラした明かり。
まだ、舞踏会をやっているのね。
お父様…大丈夫かしら。
随分、お窶れになっていた。
お姉様は…
“ ほら、この子は大丈夫ですわ。
自己犠牲を苦とも思わない、根っからの善人なんです。
それで、自分は良い事をして満足できる子なんですもの。
だから、私たちの為に犠牲になって本望でしょう? ”
ああ、そうか。
私が勝手にそう思っていたんだ。
私さえ我慢すれば、
みんなが幸せになるならって、考えていたのは。
褒めて欲しいとか、感謝されたいとか、願ってなかったけど…
この心掛けが、まさか嘲笑われていたなんて。
結局、都合よく利用されていただけだった。
“ 私、あなたには感謝しているのよ。
だって、もしこの立場が私だったら、あの人と出会えなかったもの。
本当に心から嫁ぐのが、私じゃなくて良かったわ。
ありがとう、ジュリエッタ ”
パキンッ‼︎
ハッとして音の方へ目をやると、暖炉の焚火が爆ぜたらしい。
お姉様…あなたは、前からそんな人だった。
自己中心的で浅慮で、私をいつも敵視していた。
私が少しでも褒められると、癇癪を起こして手が付けられなくなり、
お父様や周りの使用人には、お姉様の前で私を褒めないようお願いしていた。
でも、人前では優しく慈悲深い王女らしく振る舞えていたのに、
今はそれさえ繕わなくなってしまったのね。
国の危機なのに、公より私を優先したあなたは、もう王女ではない。
愛を知って、幸せになって、子を成して、自分より不幸な妹を見下し、
女として凌駕して勝ったと優越感に浸って、喜びが抑えきれなかったのだろう。
“ ふふっ、ありがとう。
あなたもそのうち、王太子殿下のお子を産むでしょうし、
これで両国の強固な繋がりができて、平和になるわ ”
そんな訳がないでしょう?
武力で他国を侵略して支配する国が、
私を人質に取って牽制している国が、
平和的に交流すると?
だから、お父様は少しでも国のためにと
命がけで贖っていらっしゃるのに…
お姉様…あなたは、どこまで愚かなのですか?
*******
「すまない…ジュリエッタ」
帰りの馬車で、ボソリと不憫な自分の娘の名を呼ぶ。
このままでは、隣国に蹂躙され、民達が飢えるのは時間の問題。
娘を差し出しても、結局流れは変わらなかった。
イメダリヤは、今夜はあの騎士と共に過ごすと帰国を拒否した。
もう、あれは駄目だ。
完全に向こう側についてしまった。
近隣国や保守派の貴族達と、反旗を翻すチャンスを狙っているが、
敵国の国王は、周辺国に恨まれている自覚があるのか、
警戒心が高く、なかなか個人的な謁見の機会を設けられなかった。
それに、行動を起こすにしても、ジュリエッタが人質に取られている。
今日舞踏会後の遅い時間だというのに、無理に帰国したのは
帰路途中の峠で、志を同じくしている協力者達と合う約束があったからだ。
ゴトゴトと動く馬車の窓の外は、暗い森ばかり。
そして、まばらな松明が見えてきた。
馬車を止めて降り立ち、手をあげようとすると、
足元に血まみれで横たわる、同志達が目に入った。
そして、その後ろには松明を持ち、
剣を構えた隣国の騎士達が立っている。
ああ、もうお終いだ。
すまない、ジュリエッタ…
すまない…
不甲斐ない父を…許しておくれ…




