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塔の中の女神  作者: 米野雪子


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7/12

家族との再会


「では、少々お待ちください」



応接室のような王宮の1室に通された。

身嗜みを整えられ、支度がすむと侍女は退室した。

こんなに付け焼き刃の着飾り方では、痩せた体を隠せていない。

荒れた肌と手は、誤魔化せない。艶のない髪は、纏まらない。

目ざといお父様は、すぐ気がつくだろう。


初めて足を踏み入れる王宮は、目も眩むほどの豪奢な作りだった。

武力で他国への侵略を繰り返して、成り上がった国だ。


部屋の片隅に置かれた特徴ある花瓶は、私の国の特産陶芸品だ。

こうやって文化盗用もしているのね。


遠くから優雅な音楽が聞こえてくる。

多分、今頃は舞踏会が行われているのだろう。



コンコン



ノック音でドアが開かれる。


金髪碧眼の美しい青年が、騎士を伴って入室してきた。

そして、その後ろには側妃のウィンディーネ様が続いて入ってくる。

多分、この青年が王太子殿下なのだろう。


現時点では、誰かわからないから、

静かに頭を垂れ礼を取る。



「よい、顔を上げよ」



顔を上げると、こちらを無表情の冷たい目で見ている。

ああ、やはり私はそういう存在なのか。

仮にも正妃だろうに。私に対して嫌悪感を隠しもしない。



「私は、この国の王太子ウィルアム。

 こちらは、側妃のウィンディーネだ」



ウィンディーネ様が、丁寧な礼を取る。



「はじめまして、ジュリエッタです」



そして沈黙。

用件をさっさと言って去って欲しい。

嫌々来られても、それは私も同じだ。



「この後、そなたの父君と姉君が面会に来られる。

 5分ほどで切り上げよ。ここでの生活については他言無用。

 二国間関係が悪くなるようことは言わないように。

 面会中は、私とウィンディーネも同伴する」


「畏まりました」



監視って訳ね。

私のあの扱いについての謝罪もないし、余計な事を言うなと釘を差してきた。

この国の敗戦国に対する扱いが良く分かった。



「あの、正妃様、少し御髪が乱れています。

 私が直してよろしいですか?」


「…いえ、大丈夫です」


「遠慮するな。ウィンディーネは気が利くな。

 お願いできるか?」


「はい、失礼します。正妃様」



彼女はしずしずと近づいてきて、そっと髪に触れた。

そして小さな声で囁いた。



「大丈夫ですか?お顔の色が良くないです」


「ええ、大丈夫です。ありがとうございます」


「もうすぐ、ご家族がいらっしゃいます。

 あの…姉君の王女様は、ご懐妊されているそうです」


「…お姉様が?」


「ご存知なかったのですか?」


「はい。お知らせいただき、ありがとうございます」


「…これで、髪は大丈夫ですわ」



ニッコリ笑って彼女はその場を離れ王太子の隣に戻った。

優しい方だ。

自分のできる範囲で、私を気遣ってくれている。



そして、再びコンコンとドアがノックされた。



ドアが開かれ、豪華絢爛な衣装に身を包んだ、

お父様とお姉様が入室してきた。


お姉様は、お腹が少しふっくらしていた。

婚約者はまだいなかったはずだ。

一体誰の子供なのか…少し嫌な予感がした。



「お久しぶりです。お父様、お姉様。

 ご足労ありがとう存じます」


「おお、ジュリエッタ…無事であったか…」


「久しぶりね、ジュリエッタ。元気そうじゃない。

 素敵なドレス着せてもらっちゃって、

 随分大事にされているみたいね」


「…は、い…」


「痩せたな…気疲れしておるのか?」


「大丈夫ですわ、お父様も、お痩せになられましたね。

 お体は大丈夫ですか?」


「大事ない。私は自業自得だ。

 それなのに…すまない…お前だけに、こんな役割を…」


「私は、大丈夫です。みんなは…民は大丈夫でしょうか?」


「ああ、今のところはな…」


「ちょっと、辛気臭いわ。久しぶりに会えたのに。

 ねえ、ジュリエッタ、私を見て何か気づかない?」


「ご懐妊、されたとか…」


「そう!愛する方との子供なのよ!祝って頂戴!」


「相手は、どなたですか?」


「こちらの国の騎士エリアス様よ。縁があって結ばれたの」


「そう、ですか。おめでとうございます」


「ふふっ、ありがとう。

 あなたもそのうち、王太子殿下のお子を産むでしょうし、

 これで両国の強固な繋がりができて、平和になるわ」


「イメダリア、お前の話はいい。今はジュリエッタと面会中なんだ」


「私、あなたには感謝しているのよ。

 だって、もしこの立場が私だったら、あの人と出会えなかったもの。

 本当に心から嫁ぐのが、私じゃなくて良かったわ。

 ありがとう、ジュリエッタ」


「イメダリア‼︎ もう黙れ!」


「は?何なんですの?」


「王太子殿下とジュリエッタの前で、無神経な言葉は慎め。

 いつから、そんな阿呆になったのだ?」


「…お父様、私は気にしてませんから…」


「ほら、この子は大丈夫ですわ。

 自己犠牲を苦とも思わない、根っからの善人なんです。

 それで、自分は良い事をして満足できるんですもの。

 だから、私たちの為に犠牲になっても本望でしょう?」


「…お姉様は私のことを、そう思っていたのですね」


「あら、間違っていないでしょ」



別れ際のあの涙は、なんだったのだろう。

こんな目にあっている私の前で、自分は幸せだと嘯いている。


お姉様は、こんな方だっただろうか。

初めての恋に、浮ついているだけなのだろうか。



「盛り上がっているところ、大変申し訳ありませんが、

 そろそろよろしいでしょうか?」


「は?まだ、来たばかりですが…」


「正妃殿は、あまり体調が良くないのです。

 ですから、舞踏会にも今回は欠席させていただきました。

 今日はご家族の面会の為に無理をしているのです。

 どうぞご容赦ください」


「そうですか。それは、すまなかった、

 無理をさせていたのだな。ジュリエッタ…」


「いいえ、お父様のお顔を見れて、安心いたしました」


「じゃあ、無事面会もしたし、私は先に失礼するわ。

 彼とワルツを踊る約束してるの。じゃあね、ジュリエッタ」



こちらが言葉を返す前に、くるりと踵を返し、

フワフワとドレスを揺らしながら、お姉様は退室した。


お父様は、もう一度私に近づき手を取った。

私の手にできた、赤ギレと豆を優しく撫でている。

やはり、私が不当な扱いを受けているのに気づいている。


お父様は目に見えて窶れていた。

これ以上、心労を掛けたくない。


二人の様子を見るに、お姉様は侵略国の騎士と恋仲になり、

反対しているお父様と対立しているのだろう。


疲弊しているお父様を

側で一番支えて欲しかったのに…



「私は、大丈夫です。こちらの国で頑張ります。

 お父様も、どうぞお体に気をつけて…」


「ああ、手紙は届いているか?

 一度も返事を貰っていないのだが…」


「…手紙、ですか?」


「ああ、それについては私から説明させていただこう」



王太子殿下が口を挟んでくる。

私に何か言って欲しくないのだろう。

お父様は、眉間にシワを寄せ不快そうな顔をした。



「届いて、いないのですね?」


「申し訳ないが、まだ両国の関係は良好とは言えない。

 検閲をさせて貰っている為、正妃殿の手元には、まだ届いていないのだ」


「届くまで1年もかかるのですか?」


「終戦後は、内政も混乱していた。重要な処理が先になり、

 個人的な手紙は、後回しになったのは事実だ。今後は善処しよう」


「…娘は、何も悪くないのです。

 あなた方にとっては、敵国の王女かもしれませんが…

 私には、大切な娘です。娘の扱いは、なるべく丁重にお願いいたします。

 どうぞ、罰するなら責のある私に全て…どんな事も受け入れますゆえ…」


「お父様……」


「分かっておる。こちらも、王女を冷遇するつもりはない。

 手紙の件は、こちらの不手際だった」


「また手紙を書くから、返事をおくれジュリエッタ」


「はい!必ず…必ず書きますっ」



お姉様の変わり様には失望したが、

でも、お父様は私を心から案じてくれていた。


それだけで、私の心は救われた。


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