偽りの騎士
「来週、我が国主催で、戦勝祝賀会及び周辺国との親睦会が開かれます。
正妃様は諸事情で、不参加とさせていただきますが、
ご親族様が面会を希望していらっしゃいます。
私めが、身嗜みを整えるお手伝いを賜り、お世話させていただきます。
面会時のみ本邸の1室へご移動ください。
よろしいでしょうか?」
「…承知いたしました」
「では、失礼いたします」
パタン…
王宮勤めの侍女が、突然訪ねて来てこう言い放った。
舞踏会には、私は何らかの理由で不参加だが、
親族に私の生存を確かめさせる為、別室で面会はさせるらしい。
多分、余計なことを言わないよう口止めされるのでしょうね。
窓際に置いてある植木鉢に目をやる。
随分、育ちが早い。
育てやすい野菜の苗を植えたのだけど、早すぎないかしら。
熟れた真っ赤なトマトがゆらりと揺れる。
小さな調理場もあるし、今度トマトスープでも作ってみよう。
トマトについていた水滴が、ポトリと涙のように落ちる。
最後に見たお姉様は、泣き顔だった。
お父様は…どうだったかしら。
俯いて…両腕を前で組んで…無表情だった気がするわ。
あれは、確か何かを耐えている時の癖だわ。
二人ともお元気なのだろうか。
ひどい目に遭ったりしてないだろうか。
お母様は、私を産んですぐ亡くなってしまって、
母親の存在を知らずに生きてきたけど、
今となっては、こんな状況の国と私達を見なくて済んで
良かったのかもしれない。
*******
「よお、色男!」
「何だよ。それ」
「はははっ、敵国の王女孕ませるとは流石だなぁ。
俺にも教えてくれよ、その手練手管」
見回りをしていたら、同僚の騎士にがっしりと肩を抱きこまれた。
ニヤニヤといやらしい笑顔で、下衆な想像をしているのがわかる。
「仕事だ。馬鹿が」
「いいなぁ、俺もそういう任務したい」
「アホだな。これでも大変なんだぜ?
好みじゃない女を籠絡するのも、バレないように気があるフリするのも、
想像以上に神経使うからな。恋に溺れてる女は、反動が恐ろしい。
騙されていたなんて知ったら、あと先考えないで最悪刺される」
「うわ、こええええっ!でも、ヤレるからいいじゃねぇか」
「本当はそこまでする気なかったんだがな…
あの王女が、勝手にのぼせ上がって止まらなかったんだよ。
ああいう状態の時に拒むと、怪しまれるから仕方なかった。
懐妊するのは予想外だったが…まあ、これはこれで使えるから結果オーライ」
「ええ?あの王女いいじゃん、
顔は王族にしては人並みだけど、胸デカイし」
「デカけりゃいいってもんじゃない。
普段はコルセットで整えてるけど、脱がせたら酷いもんだった」
「ははははははっ!王命とはいえ、大変だな。
でもさ、いくら仕事とはいえ、少しも情は沸かないもん?」
「全然。俺には祖国に愛する妻と二人の娘がいるからね。
さっさと終わらせて、早く帰国したいよ」
「顔がいいのも大変だな。こんな仕事ばっかさせられて」
「まあ、でも予想通り何でも言うこと聞いて、いい工作員になってるし、
父親と仲違いし始めたからな…8割の任務は遂行できたかな。
お偉さん方も文句はないだろ」
脅すより、籠絡させた方が女は支配しやすい。
要するに惚れた弱味だ。
自分だけは助かりたい者、命に変えても国を守ろうとする者、
相容れない二つの派閥を対立させると、勝手に自滅していく。
侵略した後は、武力ではなく心理戦が物を言う。
王族はこうやって内側から、ジワジワ仲違いする方へ仕向けていく。
これは、我が国のいつものやり方だった。
何人籠絡して手にかけてきたか、もう覚えていない。
大抵の女は攻略できるが、ごくたまに通用しないのもいる。
こちらの策略に気がつく賢王や賢妃は、
人材として優秀だから惜しいが、
こちらにとっては反逆の危険因子になるため、全員暗殺される。
イメダリヤ、あの王女は、残念ながらしぶとく生き残るだろう。
そして、こちらの都合のいい傀儡で存分に働いてもらい、
子供を出産後は用済みだ。
どの道、遅かれ早かれ、敗戦国の王族は全員死ぬ運命なのだ。




