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塔の中の女神  作者: 米野雪子


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3/12

側妃来訪


植物の本を見ていると、

飼育方法も明記されており、育ててみたくなった。


ダメもとで、監視騎士に大きめの植木鉢と野菜の苗をお願いしてみた。

意外とその要求は通り、いつもより早い2週間後に届けられた。


近くの森に行き、雪を掘り起こしながら土を採取して、植木鉢に苗を植えた。

流石に土は重くて監視騎士に部屋まで運んで貰った。


「育つの楽しみですね」


と声をかけられたが、どう答えたらいいのか分からず、私は曖昧に頷いた。


どうやら監視騎士を伴えば、敷地内の庭や森は自由に出歩いていいそうだ。

だから、暖かくなったら散歩を習慣づけようかと考えている。

森の中で、きのこや木の実、果実等も取れるかもしれない。

雪が積もった森の散歩も幻想的だが、生憎私は雪用ブーツを持っていない。

室内用のサンダルのような靴と、今は必要ない嫁入り時に履いていたヒールのみ。


「ブーツの支給を申請しますか?」


と3番目の騎士に提案されたが、私は首を横に振った。

人質のくせに、あまり要求ばかりして悪い印象をもたれたくない。


他の監視騎士も、前よりは嫌な態度は薄くなってきていた。

私が大人しくしているから、安心してくれたのか、慣れてきたのかは分からない。


でも、自主的に一番会話をしたがるのは3番目の騎士だった。




*******




ここに閉じ込められて、もうすぐ1年になる。

相変わらず、監視騎士達とは、ぎこちない対話だった。


そして、ある日突然来客があった。


私が部屋にいると、階段を登る足音が聞こえ、

部屋のドアをノックし、ドアを開けると監視騎士が礼を取る。



「突然のご訪問失礼いたします。ウィルアム王太子殿下の側妃、

 ウィンディーネ様がいらっしゃいました」


「え…?」


「正妃のジュリエッタ様に面会したいそうです。

 お通ししてよろしいですか?」


「は…い…こんな格好で良ければ…」



…側妃?

ああ、表向きは私が正妃だからか。

実質彼女が正妃の役割をこなしているのだろう。


こんな貧相な格好だけど、向こうも事情は分かっているだろうし、

無礼には当たらないはずだから構わないだろう。


一体何の用なのか…

緊張しながら、その場に立ち目を伏せる。


すると、さらさらと布が擦れる音をさせながら、

豪華なドレスに身を包んだ女性が部屋に入ってきた。

後ろには、侍女と護衛騎士が控えている。


こんなボロい場所に、そぐわない美しい貴族令嬢。

美しくウェーヴした金髪、青い瞳、いかにもな高位貴族の令嬢だった。

こちらを向き、軽く礼をする。


顔を上げ周りを見渡して、怪訝そうに少し眉を顰めている。



「はじめまして。正妃様にご挨拶いたします。

 側妃のウィンディーネと申します。

 突然の訪問、失礼いたします」


「はじめまして。ジュリエッタと申します。

 こんな所にわざわざご足労いただき…ありがとうございます」



突然の訪問だったし、ここには応接用のテーブルもソファもない。

申し訳ないが、お互い立ったまま面会するしかない。

それを詫びると、「大丈夫です、すぐに失礼するので」

と気を遣われてしまった。



「手短にいいますと、来月に終戦後初めての戦勝祝いも含めた

 周辺国の親睦を深める舞踏会が開催されます。

 それに、正妃様にもご出席いただきたいのです」


「…私が、ですか?」


「はい。隣国の正妃様のご家族も招待されております。

 お手紙で親族の方が、生存確認を強く希望されておりまして、

 正妃様のドレスの着付けや本国のマナー教育を舞踏会まで、

 私がお世話させていただこうと思いまして、こうして提案にまいりました」


「生存確認だけなら、ここで対面すればいいと思いますし、

 舞踏会にわざわざ人質の私が出席する必要はないかと思います。

 それに、こんなに見すぼらしい私が出席しては、醜聞にしかならないかと…」


「あの…」


「はい」


「この部屋は、寒くはないですか?」


「寒いです」


「そう、ですわよね…あの、王太子殿下に王宮に移動するよう、

 要請してみますが…」


「いいえ。結構です。

 ここに放り込んだのは、そういう意図だと分かっています。

 貴方様は、余計な事をしない方がよろしいです。

 敵国の私寄りの意見をするとお立場が悪くなります。

 それに、王太子殿下とは一度もお会いしたことはありませんし、

 お顔も存じません。お名前も今初めて知りました」


「は?…そんな…本当でございますか?一度も?」


「はい。着いて、すぐここに入れられました。

 監視騎士様以外と言葉を交わした方は、あなたが初めてです」


「…なんて…こと……これが、国としての対応なのですか?」



……あら?


この方、私がどんな待遇か知らなかったのだろうか。

なんで、彼女が悲しそうな顔をしているのだろう。

私は覚悟して来たのだから、別に大丈夫なのに。



「あの、お付きの侍女は?」


「いません」


「……では、ずっとここで…お一人で?」



彼女は言葉を失い、絶句していた。

伴ってきた後ろの侍女と護衛騎士の方に目配せをして、

側妃様は何か考え込んでいた。


この方は、正義感が強い方なのだ。

きっと他に方法がないか考えている。

だから、何か言い出す前に私が口を開いた。



「私の役目はここで大人しくしている事だと存じています。

 ここから出ることも許されておりません。

 舞踏会への出席は愚か、第三者と接触するのも遠慮した方がいいかと。

 そもそも私が舞踏会に出席するのは、国王陛下と王太子殿下の命なのですか?」


「いいえ…私の判断です。塔にお篭りきりだとは、伺ってはいました。

 てっきり敵国で警戒されナーバスになっておられるのだとばかり…

 終戦後、隣国や国内の処理と公務を私も手伝っていましてずっと多忙でした。

 ようやく余裕が出てきて、最近私も王宮入りしましたので、

 これから一緒に末長く過ごす正妃様と少しでも交流をと…今日伺った次第です。

 私が…もっと早く確認しておけば…」


「…出席は許されないと思います。

 お優しい、お気遣いありがとうございます。

 私のことは、どうぞご心配なく。ここに来たことも、どうぞ内密に。

 そして、私の存在や見聞きしたのもお忘れになって。

 もう…来ない方がいいです」


「……っ、………」



目を見開き、手が微かに震えている。本当に彼女は知らなかったのだろう。

王族は、私をこんな風に扱っている事を隠しているのだ。

だから、勝手に会いに来た彼女がどんな咎を受けるかわからない。

私は、もう一度今日の事は忘れて、会いに来ないよう彼女へ進言して返した。

監視騎士にも同様、口止めした。



罪を背負うのは、私だけでいい。


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