監視騎士
コンコンと出入り口のドアをノックする。
「おはようございます。井戸へ水汲みに出ていいでしょうか?」
「…………」
ガチッガチャガチャ…ジャラジャラ…ガタンッ!
ギィイイ……
無表情の騎士がドアを開ける。
「ありがとうございます。
3往復ほどしますので、ドアは開け放しでお願いできますか?」
「…3往復?」
「はい。今日はお風呂に入るので、多めに水を運びたいのです」
「良ければ、お手伝いします」
「…は? いいえ、結構です。慣れていますので。お心遣いありがとう存じます。
どうぞ騎士様は、いつも通り監視のお仕事を続けて下さい」
返事を待たずに、小走りで井戸に向かう。
何だろう…急に手伝うとか…
もしかして、何か怪しまれている?
あの人は3番目の人だ。黒髪で青い瞳。
他の人よりは、私に対する態度は柔らかい気がする。
名前がわからないので、監視する順番で私は覚えていた。
井戸の前にきて、木桶を下ろし、
手押しポンプのハンドルを握ってギコギコと動かす。
木桶にキラキラとした水が溜まっていく。
満タンにすると重くて運べないから、半分ほどでハンドルを止める。
冷たくなった手に息を吹きかけ手を擦り合わせ、木桶を持ち上げる。
「よいしょ…っと…!」
フラフラとしながら、塔の中の螺旋階段を登る。
これが一番キツイ…
出入口で立っていた監視騎士は、何か言いたげにこちらを見ていた。
この半年間、ずっと無視されてきたのに、
急に親切に声を掛けてきた意味が分からないし、怖かった。
素直に受け取ることが出来ず、つい警戒心が出て断ってしまった。
でも、この待遇は歓迎されてはいない。
お互い関わらない方がいいのだ。
そして、3往復して水を汲み終えて、
終わった旨を伝え、ドアに再び鍵が掛けられる。
暖炉の薪の補充が階段の隅に積み上げられていた。
それも抱えて、再び最上階の塔の部屋に引きこもる。
この3番目の人は、この日から私に話しかけてくるようになった。
理由が分からず、私は申し訳なく思いながら、
当たり障りなく避けまくっていた。
*******
パチパチパチ…
暖炉の火を起こした後、雪がひらひらと舞い降り始めた外を窓から見る。
綺麗…雪、初めて見た。なんて幻想的な景色だろう。
私の国は降らないから、少しワクワクする気持ちを抑えながら、ふと気付いた。
監視騎士の人…寒いんじゃないのかしら…
今日は、あの3番目の人だったはず。
いつも声をかけてくれるし…少しくらいお返ししたい。
ゴソゴソと塔内に捨て置かれた陶器の植木鉢と薪を持ち、螺旋階段を降りる。
出入口近くに植木鉢に薪を入れ火を起こして、小さな暖炉のような物を作った。
そして、同じく捨て置かれている古びた木製の椅子をズロズロ引きずり、
その植木鉢の近くに置く。
ドアをノックする。
いつものガチャガチャと鍵を開錠する音の後に、静かにドアが開く。
「どうしました?」
「あの、良かったら中にどうぞ。雪が積もりそうです。
即席の暖炉も用意しました。火が小さくなったら
そこの支給される薪を継ぎ足してください。
換気の為に、ドアは開け放しでお願いします。
では、失礼します」
そう一気に言って私はさっさと踵を返し、螺旋階段を登って引き返した。
嫌なら使わなくていい。返事を待つ必要はない。
すると、後ろから「ありがとうございます」と聞こえてきた。
どうやら使ってくれるらしい。
ドアが開いた時に、チラリと彼を見たが黒髪に少し雪が積もっていた。
私を監視するのが仕事とはいえ、
こんな寒空の下1日中外で立っているのは、やはり気の毒だ。
これくらいの親切は問題ないだろう。




