終焉の鐘
「ゼロスお兄様…」
「おかえり、我が妹よ」
「なんだ?監視騎士、お前が立候補するのか?いいだろう余興を始めよ‼︎」
ああ、思い出した。
私は─────────
「さあ、中断していた採決を。
お前で最後だ。
“可” か “否” か ────────」
「はい。 “可” です。
ですが、一部特例で救済をお願いしたいのです」
「救いたい者がいるのか?」
「はい。6名程」
「分かった。いいだろう」
「何を悠長に話しておる?さっさとやらんか‼︎」
「 黙 れ 、 人 間 如 き が 」
ブワリと竜巻のような風を纏い、
3番目の監視騎士とジュリエッタの姿が一瞬で変わる。
手枷もガシャリと砕け散って、
抱えていたお父様の首もキラキラ光り消滅した。
皆の目の前に現れたのは、
オパールに輝く、白い髪と瞳。
この世の者とは思えない美しい姿だった。
その神々しさに貴族達は息を飲む。
「この国は “ 審議中 ” だった。消去するか否か」
「消去?はっ!何を言っておる!この国は我の物だ!
それより、その姿…貴様達は何だ⁉︎
衛兵‼︎ 何をしておる、早く此奴らを捕らえろ!」
バタバタと衛兵が、剣を抜いて入室してくる。
ゼロスはそちらを一瞥し、腕を前にかざし力を放った。
「ダーク ヴァイン」
床から黒い植物の蔓がズロズロと伸びて、まるで蛇のように巻きつき、
あっと言う間に、衛兵達を拘束する。
「な、何だこれは‼︎ 動けない!」
「ぎゃああああっ!」
「うわあああっ、助けてくれっ!」
「痛い!痛い!」
貴族達はそれを見てパニックになり逃げようとするが、
次々黒い蔓に拘束され、謁見の間は阿鼻叫喚のようになった。
「全員一致の可決が絶対条件だったのだが、
この妹のみ人間好きでな。
最後まで “否” と譲らなかったのだ」
「き、貴様ら、何者だ‼︎」
ああ、そうだ私は。
いいか?
実在しない人物を作り上げ、お前を受肉させる。
その記憶も作り物であり、今のお前は記憶から喪失する。
家族や関係者にも、お前が存在する記憶を植え付ける。
お前は、第二王女。ジュリエッタ。
敗戦国の姫君。戦勝国の王太子の正妃として嫁ぐ。
実際に人間の一人として生き、人間の汚さを体現して答えを出すがいい。
そして、この国の未来を決めろ。
「お前たちの悪業は、もう容認できない。
そして、やっと妹は決断し全員一致で可決した。
最後の審判を下す。この国は、まもなく滅びる」
「ふざけるな‼︎ 勝手に決めるな!これを解け!私は国王だぞ!」
「お兄様…救済を…」
「ああ、誰を?」
「側妃様と王太子殿下、監視騎士4名です」
「分かった。拘束を解こう。だが3日間しか猶予はないぞ」
「はい。ありがとうございます」
バラリと6名の黒い蔓が解けて消える。
床にへたり込んでいる側妃ウィンディーネに手を差し伸べ、
妹は何かを伝えていた。
「行こう、ニケ。クラトスとビアが待っている」
「はい、ゼロスお兄様」
“ ニケ ” 勝利の女神 ───────
側妃ウィンディーネは、目を見開き打ち震えた。
女神様…ああ、感謝します。
「では、さよならだ。我が子達よ…」
彼女は悲しそうに呟き、窓辺にいくと大きく窓を開いた。
ザアッと風が吸い込まれるように、部屋に雪崩れ込んでくる。
カーテンが激しく舞い、彼女の白髪が風にあおられオパールの輝きを放っていた。
少しだけ顔をこちらに向けて一瞥する。
チラリと見えたオパール色の瞳は宝玉のように美しい。
そして、再び前を向く。
キラキラと髪を靡かせながら、
まるで鳥が翼を広げる様に、両腕を横にまっすぐ広げ、
やがて、その腕が真っ白な美しい翼にバサリと変わった。
彼女は、ヒラリとそのまま身を翻し、
窓から落下するように姿を消した。
「消去開始。来れ──執行人」
ゼロスも、ゆらりと姿をかえ大きな漆黒のカラスになった。
そして、真っ青な空に溶けるように飛び去って行った。
皆、二人の神が消えた窓を無言で凝視している。
一瞬の静寂の刹那。
ーーン…
ゴーーーーーン…
ゴオオオオオオオーーーーン…
地鳴りのような、不気味で低い鐘の音が、
遠くから少しずつ、少しずつ、近づいて
徐々に音が大きくなり始めた。
ゴオオオオオオオオオオオオオオーーーーーン‼︎
「ひっ…な、何の音だ…」
「…鐘の音?」
「いやああっ!助けて!誰か!」
「神様!どうかお助けを!」
「俺は何もしていない!命令に従っただけだ!」
「悪いのは国王だろ!殺すならアイツだけにしてくれ!」
「黙れ、黙れ!見苦しい下賎の者どもぉおおおっ!」
「い、いや!助けてエリアス様!お腹の子がっ!私たちの子供が!」
「うるさい!離せ!このっ馬鹿女が!俺は、家族の元にっ…くそっ!」
「は?私を騙したの?」
「触るな!俺はお前など愛してない!利用しただけだ!」
「私は、あなたの為に…お父様を裏切ったのに!何を言ってるの?」
「あああっくそっ!こんな女と最後を共にするなど…」
「いやよ…嘘よね?だって子供がいるのよ?ねえ?そうでしょ?」
「どうせ子供を産んだら、お前は殺される運命だったんだ!」
「嘘よ、嘘、嘘、嘘…いやあああああああっ‼︎」
「うるさい!触るなっ!」
それは一瞬だった。
空はみるみる灰色の雲が広がり、暴風が吹き荒れ始める。
ザアザアと木々が斜めに揺れ、葉が乱暴に舞い散っている。
ガタガタと城の窓が割れんばかりに、振動している。
まるで太陽と月と星々が消滅したような、漆黒の空間が迫る。
皆、顔面蒼白で恐怖で震え、懇願するように口々に懺悔して悔い改め、
もう神には届かない、祈りを唱え始める。
漆黒の暗闇の中、目を開けているのか閉じているのか分からないまま、
雨風が荒れ狂い、雷が落ち続け、炎に焼かれて、大地が裂ける。
暗闇の恐怖の中で、
人生で一番辛かった出来事、深層心理で抱く恐怖を
まるで現実のように、何度も何度も繰り返す。
国が消滅するまでの3日間、この幻覚を見せられ続ける。
悪夢に捕らえられた者達は、
死にたくても死ねず悲痛に苦しみもがき続け、
ついには精神が壊れゆくのだ。




