悪夢の余興
舞踏会の翌日、急に王宮の侍女がまた訪ねてきた。
「国王陛下がお呼びです。すぐ王宮の謁見の間にお越しください」
「はい…あの、このままで?」
「はい、構いません。ご案内します」
…何だろう。胸騒ぎがする。
塔から出て、王宮を目指す。
侍女の背中もなんだか緊張している。
そして、謁見の間のドアの前に立たされ、
侍女はチラリと私を悲しげに見て姿を消す。
ドアの前に立っていた護衛騎士に、両腕を出すよう言われ、
ガチャリと重い手枷で拘束されてしまった。
何…これ…
まるで罪人のような…
ドクンと、心臓が大きく脈打つ。
ギイィイィイイ………
ドアの開く音が、恐ろしかった。
「入れ」
後ろから護衛騎士に軽く押され、謁見の間に足を踏み入れる。
中央に真っ直ぐ赤い絨毯が伸びて、
その先の壇上の玉座に、国王陛下らしき人が座っている。
両脇には、騎士と貴族達がズラッと並んで立っていた。
「正妃ジュリエッタ、前へ」
この雰囲気は、何?
静かに顔を伏せて、前へ進む。
歩くたびに、ジャラジャラと手枷が音を鳴らす。
「そこで止まれ」
これでは、まるで断罪だわ。
「顔をあげよ。これが何か分かるか?」
今回の元凶。
敵国の国王陛下が、太々しく玉座に足を組んで座っていた。
その左手に大きな布袋を掲げている。
「……分かりません」
「そうか、では見せよう」
腕を振り上げ力任せに、こちらに投げつけてくる。
突然のことに私は避けきれず、
手枷をされている両腕で受け留めようとして、
取り落としてしまった。
ゴロゴロと転がり、その布袋から何かがゴロリと出てくる。
何……髪の毛?
これ…人の頭…
この髪色…
そして、ゴロリともう一度転がり、こちらを向いた。
「……お父、様…?」
「ひぃっ…」
小さな悲鳴が上がり、そちらに目を向けると
お姉様が両手で口を覆って、目を見開いている。
隣の騎士らしき男性に肩を抱かれて支えられている。
あなたは、なぜそちら側にいるの?
ドクン…ドクン…
どういうこと?
私は屈んで、お父様の首をそっと掻き抱いた。
昨日、お会いしたばかりなのに…
どうして…どうして?お父様?
「なぜ、こんな事になっているか分かるか?」
「いいえ…」
「ほう、娘には話していなかったか」
「…お父様を…殺したのですか?」
「お前の父は、我々の寛大な慈悲を忘れ、
同志を秘密裏に集め、反旗を翻す機会を狙っておった」
「……っ、………」
「恩知らずの裏切り者だ。
お前の姉君の密告によって、今回の企みが露見して事なきを得たが、
お前の父君の愚かな行いで、そなたの国の民がどんな目に合うか分かるか?」
「……は、い…」
「本来なら次に責任を取るのは、お前の姉君イメダリア王女だが、
今は我が国の騎士の恋人で、しかも妊娠している。
すなわち半分こちら側の人間だ。
だから、お前が責任を取れ」
密告? お姉様…裏切ったの?
再びお姉様に視線を向けると、
騎士に抱きつき彼の胸に顔を埋めている。
あなたは…自分の裏切りで、お父様が殺されると思わなかったの?
どこまで…愚かなの…
怒りで頭がぐらぐらするが、
私に出来ることは、決まっている。
「…はい…それで民へ咎を収めていただけるのでしたら」
「よし、いい覚悟だ。
皆の者、一つ余興を見せよう。あれを持て!」
国王陛下がパンパンと手を叩くと、謁見の間のドアが開き、
使用人が大きな物を運び込んできた。
…寝具のベット?…なんで、そんな物…
国王陛下の前に置かれ、使用人は下がっていく。
「服を脱いで、そこに横たわれ」
「……は?」
「責任を取るのだろう?」
背筋がゾッとした。
この国王は、皆の前で私を辱めて尊厳を踏みにじる気なのだ。
ただ殺すより、残酷な…
“ 見せしめ ”
なんて、恐ろしい…
他の臣下達にもそれを見せることで、
恐怖を植えつけ逆らえないよう支配する。
お父様の冷たい首を縋るように強く抱きしめる。
ガクガクと体が震える。
逃げられない……
お父様…助けて…助けて…
私は何て無力なの…何て惨めなの ‼︎
「誰か、この可哀想な正妃の相手をしてやれ。褒賞をやるぞ ‼︎」
「父上!おやめ下さい‼︎ 悪趣味がすぎます!」
「何だ?ウィルアム。お前が相手するか?いいぞ?
一応、お前の正妃だからな」
「国王陛下、私からもお願いします。こんな辱めっ…酷すぎます!」
「ほう、王太子と側妃が変わりにするか?
……なんだ、お前たち…監視騎士共は、なぜ剣を抜いている?
我に逆らうのか‼︎ 反逆罪で処刑するぞ!」
反対する声が聞こえて、
私は早くなった心臓と呼吸を整え顔を上げる。
王太子と側妃、塔の監視騎士5名が剣を抜いて前に出ていた。
お姉様は…何も言わない。顔をこちらに向けもしない。
ああ、やっぱり自分が一番大事なのね。
「ふん、どうせこの後、捕虜の牢屋に放り込んで慰み者にするのだ。
せめて最初は優しく抱いてやれ。私からの情けだ」
この人は、何を言っているの?
「もう、いいだろう。妹よ」
「…え?」
いつの間にか、三番目の騎士が目の前に立っていた。
この人、一体何を言って…
「判決を下せ」
「…判…決?」
「まだ、記憶操作に惑わされているのか」
私の顔に手をかざし、ゴオッと風が吹き髪がなびく。
そして、私は “自分” を思い出した。




