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第92話 流星群の夜

 その日ずっと険しい山道を移動したブルック一行は、日が暮れると山林で野営しました。

 夏とはいえ夜は冷えます。

 イオリは焚火をおこし、その火を囲んでそれぞれ寝袋に入って休みました。

 クロとアンナはあっという間に眠りにつきます。


「……」


「眠れないのかい?」


 ブルックはイオリの横顔をうかがいました。

 夜空を見つめるイオリの瞳に、星が宿っています。


「ブルック」


 イオリは顔を横に向けました。


「火の山に着いたらおまえは生贄になる。首を斬られてその首がカミへのささげものになるんだ。もちろんおれはそんなのゆるさない。体を張っておまえを守って見せる。でも残念ながらおれの剣がカミに通じると思えない。なあ、旅する前に『カミを殺す秘術がある』っていってただろう? 疑うわけじゃないけど、あれは本当……」


「見せてやろうか」


「え?」


 そのとき夜空を見つめるブルックの瞳に、すー……と一筋、白い線が横切りました。


「流れ星だよ。きみも見た?」


「いや」


「見たくない? 流れ星」


「それは見たいけど、そう都合よく星は流れないだろう?」


「願うんだ。『流れ星を見たい』って。でも中途半端な気持ちじゃだめだ。心の底から願うんだ。そうすれば見られる。

 さあ、願って」


 あまりにも自信満々なブルックの態度を不審に思いながら、イオリは夜空を見つめました。

 星々がにぎやかに瞬いています。

 空を流れる星はありません。

 吸い込まれるように夜空を見ているうちに、イオリは祈りに似た敬虔な気持ちになりました。


(流れ星を見たい)


「……あ」


 夜空を一筋、すー……と星が流れ、イオリは思わず声をあげました。


「流れ星だ」


「まだまだ続くよ」


 ブルックの予言通り、イオリの頭上を次々星が流れます。

 星が一筋流れるたび、その曳航で地上はかすかに明るくなりました。

 星はひっきりなしに流れました。


「すごいニャ」


「きれいですケロ」


 流れ星の洪水に気づいたクロとアンナが感嘆の声をあげます。


「花火みたいニャ」


「暗黒大陸で見たボナンザ流星群よりすごいですケロ!」


「どうだいイオリ? これがぼくの【力】だ。少しは安心した?」


「ああ」


 流星群の美しさと迫力に圧倒され、イオリは笑いました。

 

(おれはカミを見た)


 イオリは師オスカーを殺したカルマ、ベヒモスに見せられた幻のカミの姿を思い出しました。

 夜の海から立ちあがったカミは、巨大な歩く滝のような姿をしていました。

 畏怖すべきその威容と、今夜空で展開している星々の氾濫を比べて、女剣士は確信しました。


(これなら、勝てる)





 その翌日の午前です。

 ブルック一行が次の宿場町を目指して山岳地帯を歩いているころ、黄金騎士団団長ジェット率いるもう一つの隠密部隊が、宿場町【灼熱】に到着しました。


「なに昨日の朝発った? よし今日中に追いつける」


 宿の主人の話を聞いたジェットは目を輝かせました。


「みんなもう少しだ。急ごう!」


 隠密部隊は灼熱を離れ、街道を疾風のように駆けました。

 すると


「団長、前方にだれかいます」


 先頭を走っていた団員アレックス・ゴードンが振り向きます。


「なんだと? さがれ」


 アレックスをさがらせ、ジェットは先頭に立ちました。

 山道の真ん中で待っていたのは、黒い僧服を着た若者です。


「ルーク、どう思う?」


 ジェットの肩にとまっている妖精ルークは指で輪を作り、その輪をのぞき込みました。


「殺気があるよ」


「了解」


 ジェットはすらりと剣を抜き、待ち構える若者に声をかけました。


「名乗れ」


「わたしはバタイユ流剣術の門弟ブランドン・ギネスです」


「用はなんだ?」


「カミとの約束を破ったあなたたちに死んでもらいたいのですが、目的はほぼ達成しました」


「なに?」


「ジェット」


 ルークにうながされ、ジェットは振り返りました。


「……おまえら」


 ジェットに従った六名の団員が、知らぬ間に地面に倒れていました。

 ジェットは自分のすぐそばに倒れたアレックスを見ました。

 前のめりに倒れたアレックスの横顔にすでに生気はなく、ほかの団員もピクリともしません。

 地面に横になったまま動かない団員たちのまわりに、じわじわと血の染みが広がります。


「救国の英雄ジェット・クーガー殿、一手御指南願います」


 マリア・バタイユは笑顔で神剣メメント・モリを突き出しました。

 その剣が、すでに血に濡れています。


「カイたちはどうした?」


「わたくしが斬りました。隠密部隊で残っているのはあなただけです」


「そうか」


 ジェットは振り向くと剣を振りかざしたブランドンに体当たりしました。

 意表を突かれた若者が吹っ飛びます。


「ぐえ!」


 うめき声をあげ、ブランドンは失神しました。


「『ご指南願う』といったな?」


 ジェットはひっくり返ったブランドンを無視して、マリアにバスタードソード稲妻(フルグル)を向けました。


「いいだろう。お行儀のいい道場剣法に、戦場で鍛えた本物の戦闘術を教えてやる。

 かかってこい女狐!」





 ふいに足を止め、背後を振り返ったブルックにイオリが声をかけます。


「どうした?」


「いや、ジェットの声が聞こえた気がしたけど……気のせいだ。行こう」


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