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第7話 胸の痣と黄金騎士団

 五人の大人を斬り殺すと、イオリは地面に倒れている友だちを防空壕へ運びました。

 防空壕は余震で崩落するおそれがありますが、雨が降ってきたのでそのままにするのは忍びなかったのです。

 完全に力が抜けたアランやエリの体はぎょっとするほど重く、運ぶのに苦労しました。


「おお」


 イオリは驚きの声をあげました。

 タオルを濡らそうと向かった池の水が干上がっていたのです。

 すみに溜まった水でなんとかタオルを濡らし、防空壕に戻ったイオリは幼なじみの体をきれいにぬぐいました。

 それから彼らの致命傷になった体の傷を調べました。

 斬られた傷はありませんが、それとはちがう傷はすぐ見つかりました。

 みんなみぞおちのやや左側に赤い痣があったのです。


(拳で心臓を一突きされてる。みんなその一撃で死んだ。痛みはほとんど感じなかったはずだ。子ども相手とはいえすごい技量だ。でも力任せに剣を振るうしか能がないウルフたちにそんな技は使えない)


「不知火丸」


 イオリは鞘をわずかに払い、刀に尋ねました。


「アランたちを殺したのはだれだ?」


「わからない。鞘に収まっているときわたしは眠っている」


「役立たず!」


 イオリはパチンと音立てて鞘を閉ざしました。





 検証を終えるとイオリは五人にきちんと服を着せました。

 アランとトビーとヒューゴーのシャツのボタンを留め、エリのスカートの裾の乱れを直します。

 最後にイーサンの胸に彼のメガネを置きました。

 それから指でそっとまぶたを伏せ、彼らを永遠の眠りにつかせました。


「……」


 壁の光石が横たわった五人を照らします。

 石の光に照らされ、みんな笑っているように見えます。


「……また一人ぼっちになった」


 イオリは全身をガタガタ震わせました。


「アラン、エリ、トビー、ヒューゴー、イーサン、なんでおれを置いて死んだ!」


 獣の咆哮のような号泣が、防空壕に響き渡ります。

 

「……やっぱりだめだ。無理だ。もう生きられない。

 生きたくない!」


 イオリはすばやく刀の鞘を払うと、刃をピタッと頸動脈に当てました。


(ここを斬れば、確実に死ねる)


 そのときイオリの脳裏に閃きました。


「おれは絶対冒険者になる」


 アランが不知火丸を片手に宣言します。


「冒険者になってこの世界を救う!」


 トビー、ヒューゴー、イーサン、エリも自分の夢を語ります。


「ぼくはお父さんのあとを継いで床屋になる」


「ぼくは薬の行商人がいいな」


「物語師」


「わたしはイオリのお嫁さん」


「おまえの友だちの夢を奪った相手はまだ生きている」


 不知火丸が耳元でささやきます。


「『アガルタでみんなと一緒に暮らしたい』というおまえの夢もそいつに奪われた。イオリ、自分が死んで、仇はのうのうと生きて、おまえはそれでいいのか?」


「……よくねえ」


 イオリは首筋に当てていた刃をスッと離しました。


「そんなの全然よくねえ」





「ギャッ!」


 銀色の甲冑をまとった騎士は馬上から槍を突き出し、白い上着に白いズボンを着た男を背中から突き刺しました。

 貫かれた男はクタクタとその場に倒れました。


「ふぅ」


 脱いだ兜の下からあらわれたのは精悍な顔立ちの美女です。

 自分が殺したクルシミの信者を見おろし、美女は吐き捨てました。


「カルト宗教【クルシミ】。カミの怒りを鎮めるため子どもを生贄に捧げるなんてどういう教えなの?」


「姉さん!」


 馬に乗った別の騎士が、槍を振るった騎士に声をかけます。

 美女は自分に駆け寄る年若い騎士をたしなめました。


「公務中は団長と呼びなさい」


「はいモニカ姉さん……団長」


「この地域の狂信者はあらかた片づいたよ」


 団長である美女にそう報告したのは若い騎士の肩に腰かけた、カナリアみたいに小さい妖精です。


「そう。ご苦労さまルーク」


「クーガー団長! ジェット!」


 今度は甲冑をまとった細面の黒人騎士が二人に駆け寄ります。


「どうしたの? カイ」


「黄金騎士団に召集命令です。バベル大帝国の軍隊が国境沿いに集結しました」


「なんですって! 帝国に地震の被害はなかったの?」


「いえ向こうも相当な被害を被ってます」


「クソ、この機に乗じて悲願のゼップランドを手に入れるつもりね。太陽王のジジイめ……カイ、山の手の狂信者は片づけたわ。あとは下町だけど……」


「下町は大丈夫です。ドストエフスキー先生が弟子と警護に当たってます」


「おお先生が!」


 ドストエフスキーの名を聞いたモニカ団長の顔に、安堵の笑みが浮かびます。

 するとジェットが着ている甲冑が、急にリズミカルな鈴の音を立て始めました。

 本格的に雨が降ってきたのです。


「急ぐわよ、ルークお願い」


「了解」


 背中の羽根を動かしてジェットの肩から飛び立ち、ルークは空中で静止しました。

 すかさずモニカとカイが耳をふさぎます。


「【注目】!」


 小柄な体からは想像できない大音声が響き渡り、近隣に散っていた騎士たちは一斉に空中のルークに注目しました。


「バベル大帝国の軍隊が国境沿いに集結した! 黄金騎士団に召集命令がかかった! 王都は治安警護人とクロウにまかせる! みんな急いで城へ戻って!」


 ルークに続いてカイが叫びます。


「団長に続け!」


「おお!」


 甲冑を着た騎士たちはモニカ団長を先頭に自慢の駿馬を走らせ、激しくなった雨の中を地響き立てて城へ向かいました。


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