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第6話 おまえの夢はなんだ?

「勘ちがいすんなよ」


 スキンヘッドの大男が語ります。


「おれたちがここへきたときガキどもはもう死んでいた。おれたちは死体を見張っていただけだ。五人も捧げたから地震は終わると思った。ところがさっきから余震が収まらねえ。おれは賢いからすぐわかった。五人ぐらいじゃカミは満足されねえんだ。そこでおめえを新しい生贄に選んだ。神聖な生贄だ。感謝しろよ」


 男の仲間たちが獲物の価値を確かめるようにじっとイオリを見つめます。


「おれはやさしいから一方的にガキを嬲り殺すのは好かねえ。ガキにもチャンスをやりてえ。カミもそういわれるにちげえねえ。そこに得物が並んでんだろ? おれが瓦礫の山から拾った剣や棒切れだ。好きなの選んで戦え。おれが相手してやる。おめえが勝ったら見逃してやるぞ」


 友人たちの死体のそばに、剣やナイフが無造作に置かれています。


「さっさと得物をとれ。おれを楽しませろ」


(野郎)


 憤怒で全身が爆発しそうになったとき、イオリの目に赤いものが見えました。


(不知火丸)


 それは赤い鞘に収まった、アランの形見の刀です。

 イオリはすばやく不知火丸を手にしました。


「おお、刀を選んだか」


 妙にのんびりとした大男の声を聞きながら、イオリは一気に赤い鞘を払いました。

 曇天に青い光が閃きます。すると


(なんだこれは!)


 刀を抜いたままイオリは固まりました。





 それは映像の怒涛でした。

 大きな図書館にあるような膨大な数の本が、イオリを取り巻いています。

 その本の開いた頁には文字ではなく、人々の動く姿が映っていました。

 イオリは無数の動画を一度に見ました。

 見知らぬ人々、男や女、老人や中年や若者が映っています。

 人々が笑ったり、遊んだり、ケンカしたり、仲直りしたり、憎んだり、妬んだり、働いたり、愛し合ったりする姿が、花火のように明滅します。


(これ不知火丸の持ち主になった人たちだ)


 不知火丸を手に戦う人もたくさんいました。

 戦う相手の多くは人間ですが、中にはバケモノもいます。

 そんな人々の中にアランもいました。

 本の中でアランは笑っています。

 イオリの顎が急に冷たくなりました。

 あまりにも強く噛んだので唇が裂け、血が流れたのです。


「わたしは、アランとともに生きるはずだった」


 そのとき突然【声】が聞こえました。


「だれだ!」


「今おまえが手にしているものだ」


 不知火丸? とうろたえるイオリに刀はいいました。


「アランはわたしがこの千年間に出会った最良の人物だ。英雄にふさわしい勇気と知恵と力を持っていた。あと一年時間があれば、アランが死ぬことはなかった。しかし邪悪なカミは先手を打った。まず地震を起こした。そして『カミは子どもの生贄を望んでいる』と自分の狂信者に流布させ、王都にいるすべての子どもを殺そうとした。カミはどの子どもが英雄になるかわからない。だから狂信者にすべての子どもを殺させ、英雄の芽を一緒くたに摘もうと考えたのだ。その策が当たり、英雄となるべきアランは死に、今わたしはおまえの手にある。イオリ、おまえは最後の希望だ。おまえがわたしの所有者にふさわしいか質問する。

 イオリ、おまえの夢はなんだ?」


「カミを殺す」


「よろしい、合格だ。

 戦え」





「始めてもいいか?」


 イオリがわれに帰ると、スキンヘッドの大男が剣を手にしていました。

 長い時間がたった気がしますが、実際はまばたきするほどの時しか流れていないのです。


「おれはウルフ。子どものころオオカミに育てられたからこの名前がついた」


 名乗りは対戦相手への敬意のあらわれで、同時に「絶対殺す」という意志のあらわれでもあります。


「おれはイオリ。ファミリーネームはない」


「おまえ捨て子か? おれと同じだな」


 親しげな笑みを浮かべてウルフは剣を中段に構え、イオリも不知火丸を中段に構えました。


(強い)


 ウルフの構えを見たイオリの口の中がみるみる乾きます。


(隙がない。子どもを相手にしても全然油断してない。どうすれば……)


「自分より格上の相手と戦うときは」


 強敵相手に怖気づくイオリの耳に、アランの声が聞こえてきました。

 それはグレンを偽りの魔法で脅した翌日、防空壕での会話です。


「そいつの弱点を衝けばいい。簡単だよ……え、どうやって弱点を見つける? それも簡単。ぼくはグレンのオカルト好きを脅迫に利用したけど、グレンは自らあちこちでオカルト趣味を吹聴してた。わかる? 『そいつが好きなものがそいつの弱点』だ。それを衝くんだ」


(アラン、おまえほんとすごいな)


「お」


「また揺れた」


 そのときウルフの仲間たちが不安そうな声をあげました。

 震度三程度の余震が起きたのです。

 ウルフの顔にも、さざなみのように怯えが走ります。


(今だ)


「子ども相手にもたもたするなってカミが怒ってるぞ」


 イオリの捨て台詞を聞いたウルフの顔色が変わります。

 イオリは心の中でガッツポーズしました。


(やっぱりこいつの弱点はカミだ)


「きさまがカミの名を語るな!」


 激昂したウルフが剣を頭上に振りかざします。


「愚か者、真っ二つにしてやる!」


(脇腹が空いた)


 イオリはすかさず刀を八相に構えました。

 右肩の上に刃をまっすぐ立てたのです。


「オラァアア!」


 地響き立てて踏み込むと、ウルフは頭上に振りあげた剣を振りおろしました。

 イオリも一歩踏み込み刀を振るいます。

 右肩からやや左斜め下に向かって刃を走らせたのです。

 それはすでにイオリが何万、いや何百万回もこなした動きです。

 あなたが遊んだり、学んだり、眠ったり、友と語らったり、食べたり、飲んだり、笑ったり、だれかと愛し合っているときも、イオリは一秒も休むことなくこの動きをこなしました。

 煤と灰と埃と汗と血と屈辱と孤独にまみれて。

 イオリは毎日作業場でハンマーを振るのと同じ角度と軌道で刀を振るいました。

 鍛冶場の働きに名前はありませんが、剣術でその動きは袈裟斬りと呼ばれます。


(おれはなんのために生まれてきた?)


(おれの自由を奪い)


(おれの尊厳を踏みにじり)


(おれの夢を奪うやつと)


「戦うためだ!」


 その瞬間イオリの手の中で、それまで味わったすべての怒り、屈辱、悲しみ、憎しみ、そして勇気と希望が一撃必殺の斬撃となって爆発しました。

 イオリは絶叫しました。


「死ぃねぇええええええええええええええええええええええええええええええ!」


 おそろしい金属音が轟き、不知火丸と激突したウルフの剣は火花を散らし折れました。


「バカな!」


 カッと目を剥くウルフの脇腹に刃が食い込みます。

 刀はそのまま胴体を斜めに走り、ぶ厚い筋肉に覆われた大人の体を真っ二つに切断しました!


「ウルフ!」


 血煙あげてウルフの上半身が地面に落ちます。


「野郎」


「やっちまえ!」


 四人の仲間が怒りをあらわに剣を抜きます。


「おまえたちの夢はなんだ?」


 問いかけを無視して四人はイオリに殺到しました。


「こんガキゃ!」


「生かしちゃ置けねえ!」


「夢がねえならてめえの冷たい血を啜って

 泣き死ね!」


 イオリが刀を一閃すると、また血煙があがりだれかの右手が宙を舞いました。


「ひええ」


「た、助けて」


 男たちの怒号はすぐ悲鳴に変わり、やがてその悲鳴も消えて広場はぶきみに静まり返りました……


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